美しき青きロクサーヌ 4
三ヶ月の休暇を終えて彼は公務に戻った。その内容は主に欧州との渉外活動とテキサス方面に於ける軍の再編成である。多忙な日々ではあったが彼は一日を一年のようにしてロクサーヌと過ごす時間を作っていた。そうして彼は彼女との逢瀬を一日千秋の思いで待ち焦がれていた。休日はいつも二人で過ごすのだ。しかしその休みとフランスの外相にして欧州使節団代表を務めていたデュバルファス=ヴァン=メベドと会談する日が重なってしまった。
「一秒でも早くロクサーヌに会いたい!」
そう思って彼は"やきもき"していた。しかしメベドが渋ってなかなか答えを出そうとしない。別室にて待機している彼はというと、傍目から見てもわかるほど苛立ちを隠せないでいる。険しい顔をしては後ろ手にして狭い檻にいる獅子のようにしてせかせかと部屋を歩き回っている。そこに彼の秘書をしているセリセがやってきた。きっと睨んでレウレトが口を開いた。
「何のようだ?」
「閣下宛ての書簡をお持ちしました」
と慄きながらセリセが返事する。
「どうせ招待状かなにかだろう、捨てておけ」
「いえ、招待状ではないです」
「では誰からだ?」
「えっと、ロ、ロク……、酷い字だなあ」
「貸せ!」
言うやレウレトが目を丸く見開きつつ豹のように体を躍らせてさっと書簡を取り上げた。それは見慣れたルクレール家が使う赤い封筒である。宛名にはおぼつかない小学生の書いたような字体で"レウレトへ"と書いてある。差出人を見ると"ロクサーヌより"と書いてあるのがなんとなく判別出来る。彼は一人になりたいと言ってセリセを追い払うと高鳴る鼓動を押さえるように胸に手を当てて、それからゆっくりと封を切った。中には一枚の紙片があり、そこには次の二句だけが記されていた。
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カンツォーネの咲く庭にて、お待ちしております。
あなたに逢えるのが楽しみです。
~~
――ああ……、なんて可愛らしい字なんだ! いじらしいロクサーヌ、彼女はいまなにを思っているのだろう。きっとオレと同じようにして、寂しい思いをしているに違いない!
読み終えてからというもの、彼は一種の夢遊病者のように陶酔していた。そうして少しでも彼女を感じたいと思い、紙片にキスをした。自らが贈ったローズウォーターの香りが彼を支配した。それで居ても立ってもいられずに彼が叫んだ。
「誰か!」
先ほど追い出されたセリセが飛んできた。
「メベドに伝えろ、賠償金を半分にまけてやるからそれでサインしろとな」
こんなふうに彼はさっさと交渉を終わらせて自邸にある庭園にてロクサーヌと逢瀬を重ねていた。その様子を窓からじっと見つめるものがある。水晶のピガットだ。ひとしきり見たあと、ピガットは指定席である羽毛のクッションに納まった。その隣でレティシアがソファに座ってレースを編んでいる。ふとピガットが言った。
「レティママ、レトはずっとロクシーを見つめていたぞ」
「そうね」
「ロクシーもレトをずっと見つめていたぞ」
「そうね」
「二人は何をしているんだ?」
「会話をしているのよ」
「口が動いてないのにか?」
「そうよ」
「ふうん……、ところで今日の夕飯はなんだ?」
「今日は鳥の唐揚げよ」
「やったぞ!」
言ってピガットが虹色に煌めいた。
「つまみ食いしちゃダメよ」
「うっ……、はーい」
言われてピガットがしょんぼりしてしまう。
「でも、味見はお願いするかも」
それを聞くとピガットは短いしっぽをふりふりして黄昏色に瞬いた。
そんなある日のこと、たくさんのカンツォーネが咲き誇っている庭園にて二人が互いに見つめ合っている。レウレトが天の羽衣に触れるようにしてロクサーヌの手を取り求婚した。それは長江の堰を切って奔流するがごとく熱烈なものである。彼女はただレウレトの紡ぐ言の葉に耳を傾けている。彼が言い終えるとロクサーヌが華のような笑顔を見せて答えた。




