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一期一会 第三部  作者: ヤルターフ
第三編 天馬行空
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美しき青きロクサーヌ 1

 曠世こうせいの英雄児、レウレトの出現により暗黒と混沌に包まれた米英の状況は一変した。


 テキサスを手に入れたことによって南米との通商が可能となり、パンの値段が安定した。さらに内需拡大を図るべく主要都市のインフラ整備及び公共事業を推進した雇用政策も一定の成果を上げることができた。なにより自由と平等と正義の精神が市民の胸奥に芽吹き、開花したのだ。その中には自身の栄達を夢見る青年が出現して、こぞって兵に志願していった。その兵を統率するのは年歯僅かに二十一の若きリーダーである。青年達はその情熱をたぎらせては彼を自身に投影し、心酔し、崇拝した。英雄を中心にして青年の熱と力という烈風が北米大陸に逆巻いた。レウレトという存在とは、その強大なカリスマと求心力を持って青年達の情熱の奔流を動かす原動力であり、まさに時代の寵児ちょうじであったと言ってよい。そんな彼を貴族達が放っておくはずがない。毎日のように彼の下には夜会やサロンの招待状が山のようにやってくる。彼は三ヶ月の休暇を使い、なるべくその招きに預かっていた。なぜならランカスターの選別と自身の敵味方を見極めるためだ。そんな上流階級の風俗とは、いかなるものであろうか。


 当時帝都及び近郊にあるボルティモアには自由の風が吹いていた。社交界には流星のごとく名流が集い、文芸、絵画、音楽といった文化が百花斉放と咲き乱れていた。と、同時にそこは男女の出会いの場でもあった。淫逸奔放(いんいつほんぽう)な自由恋愛が展開されていた。その社交界の中心には有名なフィリップ婦人がいて、彼女の開くサロンには貴婦人や女優が集まっていた。そうして開かれる夜会はまさに絢爛豪華そのもので、自身の内に孔雀を飼っているような女達が美服美食に耽り、金を湯水のごとく使い、次々と男を替えていく。ある時はこんなことがあった。先のフィリップ婦人が二人の女を連れて広間に入ってきた。それを見て男達は度肝を抜かれた。なぜなら彼女らは裸に虎の毛皮を腰に巻き、宝石を散りばめた軽羅(けいら)を羽織っただけという格好でいたからだ。そうして彼女らはその人魚のような、なよやかな体で蝶が蜜を求めるように、春の風がたゆたうようにして男達の間を歩いていた。このような夜会舞踏が毎夜行われていて、その社交界の門がレウレトの前に現れるとさっと八文字に開いた。


 彼が夜会に赴くの際、身につけていた格好とはいかなるものか。それはいつもの赤いサングラスを掛け、兵卒の緋色の軍服と腰には朱拵えの佩剣という、武骨一辺倒そのものであった。少し違うのはその左胸に大十字勲章を着けているだけだ。天井にはクリスタルのシャンデリア、壁には浅葱色のビロード、窓という窓に飾られた蝋燭には煌々と火が灯り、鏡のように磨ぬかれた床には衣装に散りばめられた宝石が煌めき、流麗なる絃歌が地に響き渡る。そこに英姿颯爽とレウレトが現れた。すると居並ぶ人々は皆色褪せてしまった。なぜならこの時代、彼が一番輝いていたからだ。


 旭日昇天きょくじつしょうてんの常勝将軍の武名は天下にとどろき、ために彼の周りにはたくさんの美女達が群がっていた。けれどもレウレトは紳士の対応をしてそれなりに挨拶を済まして、さっさと彼女達の前から去ってしまう。確かに彼は女性に対して内気な性格を備えている。だが今回はそれとは違うようだ。少しく思い出して欲しい。彼はシェイン族である。今でこそ特徴ある耳は無いが、彼には髪の色と同じ赤いふさふさのしっぽがある。そのせいで彼は初恋のほろ苦い経験をしているではないか。だから彼は言い寄ってくる異性に対して素気すげない態度をしていたのだ。


 だがそんな彼も健全な一人の男子である。異性に興味が無いわけではない。おり々と長い髪をつかね、その容貌をさらに美しくするために化粧を施し、腰にコルセットを巻いて体を華奢きゃしゃにし、その上にこぼれそうな胸を露わにしたあでやかなドレスを着た美女達がレウレトを取り囲んでいる。皆が皆彼の眷顧けんこを買おうと躍起になっているのだ。しかるに彼は鉄のような顔をしている。そういった中に給仕をする女性が影のようにしてグラスに美酒を注いでいる。上臈じょうろう達の話し相手をしつつ彼はサングラス越しに給仕の様子を窺っていた。なぜならその女性には青色の犬耳がついていたからだ。そうしてしているうちに自身の奥底でふつふつと湧いてくるのを感じた。それは彼の総身を駆け巡り、どうしようもない衝動となっていった。その彼が先の女性につと声を掛けた。

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