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一期一会 第三部  作者: ヤルターフ
第三編 天馬行空
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天才陰謀家 4

 シーザーを玉座にと言ったアントニオのようにランカスターを王へと押し上げたのは他でもないテールノワールその人だ。ランカスターの寵臣として彼は内相となった。国庫を管理し、明細を書かなくていい機密費を自由に使える、もはや権勢比類なき身分となった。指を使って人を呼び、顎で動かすことができる人間となったのだ。権力は蜜の味である。忘れようにも忘れられない快感である。ランカスターが皇帝となり、風雲をして北米征伐に乗り出した時、アーチはさらなる権力を欲した。冷々として枯木のような体の内にほとばしるような博打熱が廻っていたのである。それには邪魔者を屠殺とさつして排除しなければならない。その邪魔者こそが強大なカリスマと軍事力を持ったエスカレットだ。それでこの天才陰謀家は人知れず仕事を始めた。


 彼の作った秘密警察とも言うべき情報網はまるで精密機械そのものであった。一つ々々丹念に部品を磨きあげ、緻密に組み上げて少し油を注し、そうして指一本でスイッチを入れる。するとどうだろう、この精密機械はカタコトと音を鳴らして素晴らしく働いてくれるではないか! そうしてとうとうエスカレットをたおしてしまった。陰謀が英雄に勝利したのだ。ゴールが作品中にてアーチにこう言わせている。


「道を曲がらば世は渡れず、正しき者には安らかな眠りを」


 そうしてアーチはマスコミや軍高官を買収して、暗殺ではなく戦死にすることも忘れなかった。ついでにルクレール家の管財人も買収して、まんまとせしめてしまった。その額、占めて一億ポンド也!


 邪魔者は居なくなった。それでようやく彼は計画を実行に移した。それは欧州と結託し、クーデターを起こさんとしたオーランド事変である。エスカレット暗殺はきっかけにすぎない。アーチの本当の狙いはいかなるものか。それはランカスターをほふり、北米を欧州の属国とし、傀儡かいらい政権を作らんとするものである。そうして玉座に人形を置いて自身は摂政の身分となり、誰もいない自分の部屋を締めきって、張り巡らせた糸を操って米英を賭金として世界を相手に賭博をしたいのだ。それで得た金の延べ板で部屋を埋め尽くそうとしていたのだ。際限無く札束を積み上げるのが彼の趣味なのだ。リシェリューのような瑰麗かいれいな政治を執りたいのだ。いやいや、まだまだ彼の野望は尽きない。いずれは欧州をも我が物にしようと考えていたのかも知れない。


 まず手始めにアーチはランカスターに対して不満を持つ人間を見定め、"毒"を流した。金が好きな人間には金の延べ板を、権力が好きな人間には高官のポストを用意して呼び掛け、連判状を書かせた。もちろんそこにアーチの名は無い。露見された事を想定してのことだ。証拠を残さないのが卑怯者らしい彼のやり方だ。つぎに軍高官を他の人間に買収させた。軍事境界線の警備を手薄にし、任地にいる将官を異動させるためだ。はたして足掛け五年の歳月をかけて周到に準備した計画が遂行された。オーランドが欧州の特殊部隊によって制圧されるその日、アーチは誰とも会わずに部屋に閉じこもり目をつむって耳を塞いで口をつぐむと、さっさとベッドに潜り込んでゴトリとも音を出さなかった。明くる朝、早起きで評判の彼はわざと寝坊した。悪びれた様子もなく内務省に出勤するとやはり中はてんやわんやの大騒ぎである。なに食わぬ顔してアーチが、


「何事だ?」


 と部下に訊く。オーランドに武装蜂起した反乱軍はたったいま鎮圧されたと。それを聞いて彼は失敗したと察した。それでこの時のために用意した逆艪さかろが働いた。彼はいの一番にオーランドからの陸軍省宛ての報告書と、ランカスターに宛てた上奏文を手に入れて直ちに戒厳令を敷いた。そうして水も洩らさぬ早さで連判状にある人間の家宅捜査を行い、"トカゲのしっぽ切り"をした。その際に押収した資料から自身に関わる情報や書簡だけを抜き取り、燃やすことも忘れない。後始末をすっかり済ました彼はランカスターに謁見を求めた。そして監督不行き届きの責任を取ると自ら進言して、内相の職を辞する旨を記した辞表を懐から差し出した。

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