神速の兵 4
デューイに促されつつフェデリコが長い長い廊下をついていく。床はまるで象牙のように白く磨き抜かれ、大窓からは燦々と柔らかな光が差し込み、窓外を眺めれば庭師の造り出した芸術的な庭園が広がっている。世の中はこんなにも美しい場所があるのか、そう思いながらフェデリコは歩いていた。そうしてレウレトがいかに雲上人の存在であるかと思うと緊張のために普段柔和な顔が引きつった。やがて二人はレウレトのいる部屋に到着した。客間と違い、普段レウレトが使っている書斎とも言うべき部屋は意外にもこざっぱりとしている。だがよく観察すると、彼の意趣があちこちに見受けられる。それは彼の使う机の上にはずらりと電話機が並べてあり、その傍らには格子型の棚に測量させた地図が丸めて納められている。そして机を背にした壁一面には巨大な北米大陸の地図が張ってあり、大小様々な大きさのピンが刺さっている。一見してフェデリコは悟った。ここが将軍閣下の司令室であり、渉外活動の中枢なのだと。
フェデリコが察した通り、レウレトは公務のほとんどをこの部屋で行っていた。また彼は自ら国税省の長官に着き、ランカスターの選別をこなしていた。国税省を選んだのは理由がある。一つは政財界の資金の流れを把握していち早く情報を得ること。もう一つは国税省の査察員は優秀な諜報員であり、その情報収集能力を使って逐一政府の動向を探るためである。彼ほど近代戦闘に於いて情報戦の重要性を知悉していた人間はいない。渉外活動にしても軍事にしても彼はまず情報収集を第一とした。各国政府の内情は許より、戦略から民衆の感情に至るまで、これことごとく吟味するのだ。時にその使用法は民衆の支持を得るための情報操作であったり、政財界に於いては軍部に優位な法案を通すための道具として使われることもあった。自身の権力を集中させるための手段でもあったわけだ。
そんな彼が一番に欲しいと思ったのは、誰よりも速く的確な情報を手に入れる手段であった。少なくとも自軍の動向を一括で把握するシステムの構築に余念がなかった。そんな折も折、レウレトはフェデリコの書いた手紙を読み、フェデリコの提案するヴォルンシステムなるものに強い興味を抱いたのである。そのレウレトが部屋の奥からフェデリコの前に姿を表した。白のワイシャツに赤のスラックスを黒のサスペンダーで留め、胸元には赤いスカーフが巻かれている。簡素な身なりながらどことなく気品が滲み出ている。テレビ中継や新聞に載る彼はいつも赤いサングラスを掛けて鉄のような顔をしているが、この時はサングラスを外した素顔を晒し、その表情には穏やかな微笑をたたえていた。
「やあ、待たせてすまなかった。よく来てくれた、歓迎する」
まるで旧知の友人に語るようにレウレトが声を掛けた。
「貧賎の身でありながらこのような歓待を受け、こうして将軍閣下に拝謁を賜り、わたくしフェデリコは光栄の至りです!」
と緊張した面持ちで直立したフェデリコが敬礼した。




