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一期一会 第三部  作者: ヤルターフ
第三編 天馬行空
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凱旋将軍 2

 テキサス首都オースティン市民は歓呼の声を上げてレウレトを熱烈歓迎している。沿道にはたくさんの民衆が集まり、英雄の姿を一目見ようと我さきにと身を乗り出さんばかりである。果してレウレトの姿が見えてきたが、ほんとうにこれが欧州三十万を撃破した英雄なのであろうか。兵卒の軍服にあちこちが擦り切れた外套を着た小男が天下をむなしゅうする横顔をして、小さな鹿毛色の馬に乗ってかつかつと進んでいく。それにしてもなんて堂々としているのだろう! その風貌からは古今英雄達の片鱗が見え隠れしているではないか。人々はまるで熱病に浮かされたかのようにこの赤獅子の名を叫んでいた。彼はというと、こういった万雷の拍手を受けては自身の人気が高まり、権力が確固たるものになっていくのを実感していた。そして、自身の頭上に軍星と明星が輝いていることを強烈に自覚していた。運命の扉がさっと開いて、自身の起こしている神秘を目の当たりにしたのだ。市民の興奮冷め止まぬ月の宵、彼はマルローに語っている。


「なあマルロー、我が輩は確かに不可能を可能にしたかも知れぬ。なにせ欧州はおろか、全世界が米英の勝利を疑っていたからな。皆はこれを最大にして賛辞を述べてくれるが、我が輩にはとても小さな事にしか思えんのだ。現代はまったくもって大きな仕事をしていない。だからこれからはどんどん大きな事をしなければならない。我が輩がその手本を見せなければならないのだ。その為にはまず北アメリカを平らげないとな」


          *          *          *


「なあ、ルクレールを見たか?」

「いや、見てないな」

「そうか、おれもだ」


 そんな人々の会話がエンパイアステートのカフェで、ビストロで、街辻で、あちこちでなされていた。その昔、神聖ローマ帝国の時代には鎖に繋がれた獅子と捕虜を先頭に並ばせて凱旋したのではないのか。レウレトを街宣車に載せ、腹心を左右に並ばせて国王親衛隊を引き連れて華々しく凱旋パレードをするのではないのか。欧州の魔の手からテキサスを救った英雄はいったいなにをしているのだろう。そう市民が噂をしている時、彼はランカスターの住まうホワイトパレスに招かれていた。これは非公式のもので、テキサスの英雄をねぎらうのもあるが、米英の行く末を語りあおうという言わば密談である。


 その内容は次のようなものだ。第一にレウレトを四階級特進して陸軍少将とし、テキサス共和国総督とすること。第二に欧州全権大使として一切の外交権を任すこと。第三にテキサスにある欧州三十万の捕虜をどうするか。そして第四に今後の軍事並びに政治指針についてである。


 ランカスターがここまでレウレトを重用するのには理由がある。先のオーランド事変にて自身の側近や重臣達が保身にはしり、求心力を失いつつあるのを痛憤していた。確かに反逆者の粛清を行ったが依然として抵抗勢力は存在している。国家としての、特に政府組織の純化を図るためにも異分子を取り払う鉄腕がどうしても欲しい。そこでレウレトに白羽の矢を立てた。いまや彼に対する兵士と民衆の人気は飛ぶ鳥落とす勢いである。政治家や経済界の有力者はこれを無視できるはずがない。必ずやなんらかの形で接触を図るだろう。英雄王にくみするか否か、その選別をやってもらおうというのがランカスターの狙いだ。


 レウレトはこれを謹んで拝受した。英雄王に忠誠を誓うことで彼は自身の権力が強固になるものと予見し、且つシェイン族解放という自身の夢に近づけると思ってのことだ。この時から彼はシェイン族主権による国家を創ろうとの夢を抱いていた。そうして脳中にその夢を実現させるための計画を醸成させつつボルティモアの屋敷にてレティシアとデューイとピガットと慎ましく閑暇を過ごしていた。そんなある日の事、彼は馬が好きだったから、ワトリックを連れ出して競馬観戦をしていた。彼がボックス席に現れると人々は歓呼の声でこの英雄を称賛した。ためにレースの発走時刻が遅れた。それで彼が苦笑しながらボックス席から体を引っ込めてしまった。


「我が輩があと二、三回同じことをすれば民衆はすぐに飽きるだろうよ」


 隣に居るワトリックにそう言った。


「我が輩が公開処刑される時は、この観衆の何十倍もの人が見に来るんだろうなあ」


 そうつけ加えた。彼は民衆に心を許す愚を徹底的に知悉していたのである。

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