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一期一会 第三部  作者: ヤルターフ
第三編 天馬行空
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凱旋将軍 1

――テキサス陥落かんらく!――

 この見出しが載った四月二十六日、四月二十七日付(※時差の為)の新聞には北中南米及びオセアニアに至る新世界のみならず、旧世界のあらゆる国々の文字で書かれた。


 天下具眼てんかぐげんの士は声を揃えて欧州が勝利すると予見し、これによりランカスターの命脈は尽きると結論し、趨勢すうせいは欧州と東亜細亜ひがしあじあが覇権を争うとみていた。事実欧州はスペイン~モロッコを玄関口としてアフリカ大陸の大半を有し、一方東亜細亜は大国ロシアと緊密な関係を保ちつつ東は大和皇国(※現ジパング皇国)、インドネシア諸島から西はトルコまでを占め、イスタンブールにて鷹揚虎視おうようこしと時機を窺っていた。その最中さなかに欧州はランカスターをほふって米英を打ち払いしのち、北米大陸を一大兵站基地としようとなんなんとして世界戦略を打ちだしていたのである。しかるにその矢先のこと、朝食を終えての光たなびく優雅なひととき、いつものように食後のティーを飲みつつ新聞を広げて見れば、ああ! なんということだ! 先の見出しが目に入るではないか。アッティカの再来かナポレオンの亡霊か。レウレトの名は電光石火飛躍して天下震駭てんかしんがいした。


 それにしても米英の早過ぎる勝利である。レウレトの敵はいったい何をしていたのだ。


 あの神聖ローマ帝国の流れを汲む欧州一の名門の御曹司ユグラテリア公がいて、彼を総大将として直々に三軍の指揮を振るっていたのではないのか。その左右にはガリカ元帥とダマスク参謀とカストール将軍とラングリッジ将軍といった、そうそうたる名将知将がきら星のごとく並んでいたのではないのか。いずれも押しも押されもしない名門貴族の出自で、曾祖そうそ千年の兵法に通じ、攻める時に攻め退く時に退くを知り、兵舎の建て方から用兵まで細大洩らさず軍事軍略に知悉していたのではなかったのか。そうして三十万の大軍を引き連れて剣影旗鼓けんえいきこ野を埋め尽くし、手ぐすねひいて乳くさい青二才の小人島を待ち構えていたのではなかったのか。欧州の名将達はなにをしていたのだ。


 ここに新時代と旧時代の差がまざまざと浮かび上がってきた。ユグラテリア公がシャンパンを開けないと晩餐ができないのに対して、レウレトは弾丸雨飛だんがんうひの中チーズをかじっていたのだ。御歳おんとし六十八になるガリカ元帥が車椅子に乗って出陣するのに対して、レウレトは一息二十時間も馬背ばはいに跨がっていたのだ。通風に悩んでいるダマスク参謀とリウマチで顔を歪ませているカストール将軍と大兵肥満だいひょうひまんのラングリッジ将軍が手を借りないと馬に乗れないのに対して、レウレトは千里独往せんりどくおうする麒麟きりんのごとく戦場を駆け巡り、縦横無尽に下知を飛ばしていたのだ。それはまさに新と旧、若と老の戦争であったのだ。


 レウレトがテキサスを勝ち取った要因は以下に並べることができる。


 いくさには大将軍を魂とす。これは皇国に生まれた大哲人の金言きんげんだ。レウレトが言うように欧州は自身の利権だけを求め且つ面子めんつを気にするあまり、いつも意見が合わずにいてばらばらであった。それゆえ指揮統一を図れないがために兵卒にその意思は浸潤しんじゅんしなかった。一方米英はレウレトという強固なるくさびを持って一つにまとまっていた。兵卒への意思疎通し、強大なカリスマの指揮するもと一致団結し、さらにそれは金剛不壊こんごうふえのごとくであった。これがまず一つ。


 第二に彼の全人には情熱がみなぎっていた。その情熱が左右の将官佐官から一般軍隊に伝播でんぱして全軍の士気は冲天ちゅうてんにまで達した。そうして彼は有能な人材をどんどん抜擢ばってきしては三回の戦闘で兵卒を少佐にするようにどんどん昇進させた。後年彼はこの人材抜擢を一貫して行い、自身が昇進するにつれ周囲の人間も昇格させている。そうして自身の権力基盤を盤石のものにしつつ兵卒達に立身出世栄達りっしんしゅっせえいたつの門戸を開いた。ために兵士達はみな奮迅した。


 第三に彼は鉄の体を持っていた。平時においては幼少期からの日課である鍛錬を行い、節制をしてきた彼である。戦時では多少なりとも無理はしたが休む時間を作っては睡眠を取っていたし、寝溜めをすることができた。また彼の心拍数は常に六十二から六十四の間であった。シーザーやナポレオン同様、彼には生命的恐怖心というものがなかったようである。そしてなにより二十歳の若さにしてその天才を遺憾無く発揮できたことが破格の幸運であったろう。

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