カンツォーネ 3
さて、レウレト少年に目を向けるとしよう。
そうこうして歩いていると、レウレト少年は低い草木が群生している場所に着いた。そして鬱蒼と生い茂る蔦を見て彼は考えた。
――この先にうまいこと空き地があれば、人目に見つからずに薔薇を植えることができるな。それにこの蔦があれば温室を作るビニールをうまく擬装できるに違いない。
そう思い付くと彼は小さな体をさらに小さくして、懸命に草木と格闘した。そうして彼の目論んだ通り、理想的な空き地が見つかった。と、同時に想定外の物が両眼異色の瞳に映っていた。空き地の真ん中に草のベッドを作り、その上に水晶のわんわんおが寝そべっていたのである。興味を持ったレウレト少年は宝物を見つけた興奮をもってそれを手に取り、よくよく見つめて調べてみた。するとソフトボール大のわんわんおが急に彼の手中にて暴れだした。そうしてふいに電球のように、ぱっとまばゆい光を放つではないか! それで彼は驚いて、思わずわんわんおを放してしまった。その隙にわんわんおが逃げようとする。しかし動転していたのか、あたふたとして左右を行ったり来たりしている。光を取り戻したレウレト少年が見ると、まだわんわんおはあわあわとしていた。
「まあ落ち着けよ、驚かせてごめん。オレはレウレト、おまえは?」
そう優しく語り掛けると、わんわんおはやっと落ち着きを取り戻して、体を正面に向けてぱっぱと光を発した。
「うん? 言葉はわかるみたいだな。でも、おまえの言葉がわからないぞ」
少し考えて、また尋ねた。
「おまえ、腹へってないか?」
言いながら手の上にレティシアが作ったお菓子を乗せて差し出す。そのうちの一つをわんわんおがぱくっと口に含むと、"もきゅもきゅ"と不思議な音をさせつつ体をぴかぴかと点滅させた。
「そうか、気に入ったか」
わんわんおが一生懸命に食べている様子をレウレト少年はにこにこしながら見つめていた。
「なあ、明日の朝、また食べ物を持って来てやる。だからここで待っていろよ」
わんわんおはうんうんとうなずいて体を光らせた。
翌早朝、北緯にあるためか、まだ日は昇らずにいて辺りは暗い。そんな中、ハーフ・ペニー橋を渡り、オコンネル通りを南下してフェニックス公園に走っていく小さな人影がある。息を弾ませてぼさぼさの赤毛を振り乱し、夜目にも映える金と赤の瞳を持った少年はレウレトだ。その手にはモールス符号表と、藁半紙に包んだお菓子を持っている。そうして昨日見つけた秘密の場所に着き、小さな体をよじらせて中に入ると、やはり昨日と同じようにして水晶のわんわんおがすやすやと安らかな寝息をたてては気持ち良さそうに寝転がっていた。
「無防備だなあ……。おい、起きろ」
もぞもぞと短い足を伸ばし、小さなあくびをして声のする方を見ると、驚いたわんわんおがあわあわし始めた。
「落ち着けって、レウレトだよ」
聞き覚えのある名を耳にしてわんわんおは体をぴたっと止め、ぱあっと体を光らせた。
「ほら、またお菓子持ってきてやったぞ」
聞いてわんわんおが体を浮かせるや、ひょうっと包み紙目掛けて飛んでいく。しかしレウレトはそれをさっと避けてしまった。
「まあ待て、おまえの言葉がわかる良い方法を考えてきた。これを見ろ」
言って彼が符号表をわんわんおに見せる。
「これを覚えるんだ。この通りにやればおまえの言葉がわかる。試しに"おはよう"って光ってみろ」
お菓子欲しさにわんわんおが食い入るように符号表を見つめている。ややあって彼の正面に浮かぶと、ぴかぴかと体を点滅させた。
「お、は、よ、う。おお! すごいな、うん? 続きがあるな、なになに……、は、や、く、く、わ、せ、ろ……。しょうがないな」
レウレト少年が開いた包み紙を乗せた手を差し出すと、わんわんおがすぐさまそれに飛びついて"もきゅもきゅ"と不思議な音をさせて食べはじめた。そうしてお菓子を食べ終えると、"けふ"と満足げにげっぷした。




