テキサス席巻 5
翌早朝、快晴の東の空から赫赫と太陽が昇ってきた。地上には三万五千の兵が整然と列をなしている。その最前列をゆっくりと確かめるようにして歩く者がいた。緋色の軍服に朱拵えの軍刀を佩き、白のビロードに赤獅子を施したマントを風になびかせた、赤いサングラスを外したレウレトだ。彼が通る度に兵士達が憧憬の眼差しを持って、将軍! 将軍! と熱のこもった声で呼ぶ。黙して語らずレウレトはただ一人一人に目を交わしていく。朝日に照らされた兵士達の顔はみな凜として清々しい。そうして端までいくと、ひらりと馬に跨がって全軍が見渡せる中央へと走らせた。彼が何を言うのかと兵士達は固唾を飲んで見守っている。馬上にて大音声レウレトが軍隊に向かって宣言した。
「兵士よ! 諸君等は政府の支援無く、食無く、半ば服無き身でありながらもこの苦難に耐えたこと、その勇気を余は称賛したい。だが何事も成すことなく利益と栄光を得ることは出来ない。いまダラスでは欧州三十万を前に果敢にも闘っている同胞がいる。我らはこれよりボーモントを抜いてヒューストンに入る。しかして速やかにダラスに援するものである。このテキサスに跋扈する欧州の輩を打ち払いし時、諸君の頭上に燦然と栄光と名誉が輝くだろう。その時こそ健児よ! 余が愛する兵士達よ! 郷関に帰るの日、隣人相指さし示してこう唱えよ、彼こそはテキサスの勇者なりと!」
闃寂! 全軍は雷に打たれたかのように動けずにいた。いま兵士達の魂に凄まじい電撃が走ったのだ。そうしてその魂が揺り動かされると、
「ルクレール将軍、万歳!」
そう一人が狂叫すると千波万波とルクレールの名がこだました。軍刀を頭上に振りかざしてレウレトが獅子吼する。
「前進!」
これがあの有名な「我がテキサス兵よ!」の演説だ。人生畢竟一賭博、死は一定、なんらの生を惜しむものか。ただ運は天にあり、男子の功業を達するは前途のみ。こうしてあの、物語のようなテキサス進軍が始まった。
レウレト率いるテキサス軍は一両日の戦闘を終え、ボーモントを抜き、ヒューストンに向けて進路を取っている。若葉馨る四月、春光嬉々として柔らかな風に吹かれる中、目路遥かに広がる大平原を見よ。レッド川の流れる水は透き通り、どこまでも澄み渡る青い空と白い雲が水面に映ってはその上をアヒルの親子が一条の白練をひいて泳いでいく。
ああ、あれは果樹園だな。林檎に梨に桃がある。そういえば久しくおれはああいった果物を口にしてないな。あそこにあるのはオレンジじゃないか? なんて鮮やかな色なんだろう! あれを搾って冷やしたのを飲むと、さぞかし喉は癒されるだろうな。おや? あれは牧場だな。牛に馬に豚に、それに羊もいる。うん、あそこに子供達が遊んでいるぞ。ふふ、棒切れを持ってもう軍隊ごっこか。そのそばでは娘さんが洗濯物を干してるな。ああ、なんて可愛らしいんだ。金髪をおさげにした美しい淑女だ。ふくよかな胸に細い腰、そうしてまあるい尻がある……、なんて美しいんだ! そうだ、今日の夕餉はあの豚を焼こう。たらふく食べたあとはあの娘さんと篝火を囲んで踊るんだ。きっと楽しいだろうな。しかしまあ、テキサスはなんと豊かで美しい所なんだ。おれたちは三年ぐずついていたっていうのに、たった一日でボーモントを抜いてしまった。あと一日すればヒューストンだ。まったくもって、うちの大将は偉いもんだ。この強行軍にはうんざりするけれど、少しぐらいは我慢しないとな。
このようにして兵士達が彼に対する威信を深めていた時、強行軍を課している張本人は先頭にいた。くすんだ軍帽を被り、兵卒の緋色の軍服を着用し、朱拵えの軍刀を佩いて鹿毛色の馬に乗っている。そうしてサングラスを外したその炯眼は前方を見据えている。彼は先程出した斥候を待っているのだ。しばらくしてその斥候が戻ってきた。




