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一期一会 第三部  作者: ヤルターフ
第三編 天馬行空
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テキサス席巻 4

 四月十八日の昼頃、レウレトを乗せたトラックはオレンジの本営に到着した。オレンジに駐屯する兵のありさまはなかなかに酷かった。兵士は一日に一食しか与えられず、衣服もろくに無く、下着は一週間に一度しか替えることが出来ない具合である。ろくに物資も届かず、政府に対しての不満甚だ著しい。彼らの不満ももっともであった。しかしなにより思っていたのはレウレトの指揮して奮迅する軍に対する羨望であった。


 ――戦場に出て、一花咲かせたい。

 そう願い、故郷に残した家族を思っていた。

 ――しかし、今の自分はなんという体たらくだ。

 そんなふうに兵士達は自身の境遇を呪詛じゅそしていた。


 到着早々レウレトは将軍達を幕舎に集めた。いったい誰が召集をかけたのか、不思議に思いながらも続々と幕舎に集まってくる。竜ひげ、あごひげ、虎ひげ、八字ひげ、きら星のごとく胸いっぱいに勲章を並べた老将軍達が厳めしい顔をしては召集をかけた人間を待っている。彼らは元々エスカレット麾下きか歴戦の勇士である。エスカレットがたおれ、権謀渦巻くなか僻地へきちに飛ばされてこのような冷遇を受けている。


――憎たらしいテールノワールの奴め、いまさら俺達を集めてどうしようというのだ! どうせ新しい司令官かなにかわけのわからない馬の骨を送っては糞みたいな通達をするに決まっている!


 そんなふうに老将軍達はめいめい憤懣ふんまんをぶっつけ合っていた。そういった喧騒が外まで聴こえてくる。たくさんのひげが喧喧囂囂けんけんごうごうとしている中、ふいに赤い小さなゴリアテがのっそりと入ってきた。そうしてどっかりと司令官の椅子に座るではないか。呆気に取られた彼らはつい口を動かすのも忘れてしまった。


――ははあ、あれがテールノワールの送った奴か、ずいぶん生意気だな、一つおどかしてやれ。


 それで一人の虎ひげが怒鳴るように言った。


「ここは貴様のような小僧が来るところではない、さっさと出ていけ!」


 が、この小人島は平気な顔して座っている。むしろどこか楽しんでいるようにも見れなくもない。その小人島がおもむろに立って、こう言った。


「総司令官に対し、小僧とはずいぶんな言い草だな」


 それを聞いて老将軍達は固まってしまった。


「ルクレールの名を忘れたか?」


 レウレトが言うや老将軍達は椅子を鳴らして一斉に起立した。


「も、もしや……、レウレト様か?」

「いかにも」


 おお! と皆が一斉に驚嘆の声を洩らした。


「で、ですが貴方はダラスに……」

「今し方こちらに到着した」

「なんと! では我らは?」

「これよりオレンジ一個師団はヒューストンを目指す。これに伴い現時点に於いてオレンジの指揮権をレウレト=フォン=ルクレールに移譲する。異論はないな?」


 粛然と誰も挙手する者はない。


「諸君、明日出軍、用意あれ!」


 右手を掲げてレウレトがそう言うと、老将軍達の顔にエスカレット時代の精悍さが戻ってきた。そうして彼らはレウレトに敬礼をして、粛々と幕舎を出ていった。


 突然の出動命令に兵士達は多少なりとも混乱したが、直ちに準備を始めた。なにせオーランドの貴公子がこの陣地に現れたのだ。


――やっと、俺達の出番がきたのだな。


 そう思って念入りに銃やサーベルや弾薬の点検をしている。さらに彼らを喜ばせるものがあった。体を洗う石鹸と真新しい肌着が支給されたのだ。


――これで一点の悔いなく戦える。


 そう思いながら兵士達は無精ひげを剃った、生まれ変わったような顔を互いに見合わせていた。


 夕刻になると豪勢な食事が出た。


 ――はて? 兵糧は一日に一食として一ヶ月分だけではなかったか?


 そう彼らが訝しく思っている。と、そこに他の兵から話が流れてきた。ここオレンジを抜いて、その先にあるボーモントに入らなければ食事は出来ないというものだ。これを聞いて彼らは総司令官の覚悟を知り、ふつふつと士気が昇るのを感じていた。そんな中、歩哨兵ほしょうへい夕餉ゆうげを恨めしそうに見ながら黙々と仕事をしている。ふと気配がしたのか、その方へ見やると自分に向かって歩いてくる二人の人影を認めた。一人は山のように大きく、一人は小人さながらに小さい。ぱちぱちと燃える篝火かがりびの中からしげしげと目を凝らすと、はたして一騎当千のワトリックと総司令官のレウレトだというのがわかった。ために歩哨兵は敬礼したまま固まってしまった。


 レウレトが歩哨兵にグラスを差し出して、


「体が冷えるだろう、これで温めてくれ」


 そう言ってグラスにウィスキーを注ぐ。歩哨兵がぐいと飲み干すのを見てレウレトがまた言った。


「味はどうだ?」

「うまいです!」

「私の祖国の酒だ、名前は?」

「ポール=アンダーソン一等兵であります!」

「そうか……、アンダーソン君、きみの働きを期待してるぞ」


 このようにして彼は一人一人、歩哨兵を回っては励ましていた。

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