テキサス席巻 3
撤退する欧州軍を指差して、
「おい、あれへ追撃して敵将の首を取る者は居ないか?」
とレウレトが言った。
もちろん彼は誰がこの役を買うのかを知っている。果してワトリックが名乗り出た。
「わしにお任せあれ、直ちに敵将の首を召し上げてご覧にいれましょうぞ」
それでワトリックが敬礼するや愛馬のサンダーボルトにひらりと跨がって敵陣目掛けて単騎で突っ込んでいく。そうして欧州兵が撤退行動を起こしている中を地鳴りのような雄叫びをあげてワトリックが吶喊する。と、そこに馬に乗った敵の部隊長なにがしが立ちはだかった。
「一騎駆けとはよほどの豪勇か愚の極みか、我が剣の錆にしてくれる。いざ尋常……」
そう言い切る前にワトリックが重さ十五キロある大剣を振りかざすや、
「じゃま、なり!」
と轟音鳴らして馬の首ごと胴を真っ二つにしてしまった。部隊長なにがしの上半身が臓腑を撒き散らしながらぐるぐると宙を舞って地に落ちると、一瞬の静寂の後たちまちにして叫喚がこだまする。恐怖に駆られて我先にと逃げ出す敵兵を一睨みしつつ咆哮するワトリックが鎗に持ち替えて一振りすれば、稲穂を刈るそれと同じくしてぽんぽんと首が飛んでいく。そうして後に残るは屍の山だ。半刻ほどしてレウレトが待っていると果してワトリックが敵将の首をぶら下げて戻ってきた。
「勲功第一はワトリックだ、良くやった!」
そうレウレトが激賞すると、破顔一笑ワトリックが顎ひげをしごいた。
ダラスでの戦闘を開始して早一ヶ月が経過していた。夜空を見上げれば立ち込める密雲のせいで星無く、月無く、風も無い。シュリーヴポートに置いた本陣の幕舎にて、総司令官と参謀が地図を置いた机を挟んで座っていた。明かり取りのランプは一つしかなく、やはり薄暗い。そんな中、レウレトが報告書をぺらぺらとめくっている。マルローはというと、ランプに照らされたレウレトの顔をじっと見つめては黙している。報告書をばさりと置いてレウレトが口を開いた。
「欧州はがたがただな」
「未だに陣中での縄張り争いをしている」
「烏合の衆、と言ったところか」
「ああ、だが兵力はまだ多い。さらに糧食の供給が安定してるおかげで士気は下がっていない」
「向こうは人海戦術といった感じだな」
「欧州はテキサスにある兵をダラスに集めている。加えてオクラホマからの増援が確認できた」
「ふむ、状況は芳しくないな。向こうはオクラホマを鎮めたら、そのままこちらに流れ込んでくるぞ」
「さらに陣地を下げて守りに徹する構えを取っている。ついさっき敵本陣が動いたと情報が入った」
「そうか……」
言ってレウレトは髪に手を突っ込んだ。
そうして胸元から葉巻を取り出し、それをマルローに渡した。しばらく考える時間をくれという意味だ。葉巻を受け取ったマルローがシガーカッターで葉巻の先を切り落とし、持っていたジッポーでよく焙る。
「うまいな」
「キューバ産だ、最近吸っている」
「へえ、いつ吸ってるんだ?」
「食後だけだ。吸い過ぎは良くないからな」
言うなりレウレトが立ち上がり、"名残"を触りながら幕舎を歩きまわる。マルローがもう一度煙を呑んだ時、彼が足を止め、口を開いた。
「マルロー、どう思う?」
ゆっくりと煙を吐いてからマルローが言った。
「頃合いだな。さっきも言ったが欧州はダラスに兵を集中させている。必然的にオレンジの防備は薄くなっているはずだ」
「よし、船を用意してくれ。ワトリックを連れていく。おまえにはスラタニをつける。万事ぬかりなくな」
レウレトを乗せた船はレッド川を下ってルイジアナの州都、バトンルージュに到着した。それからマルローの用意した軍用トラックに乗り込み、オレンジへと向かう。トラックを使うのはワトリックの愛馬を載せるためだ。ラフィエット、レークチャールズと経由していく途中、馬を休ませるためにワトリックが燕麦や水を与えたりしていた。そうしてブラシを掛けているのを見てレウレトは気持ちを和ませていた。ワトリックの親友がサンダーボルト号であるように、レウレトは置いてきたピガットを想っていたのだろう。




