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一期一会 第三部  作者: ヤルターフ
第三編 天馬行空
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テキサス席巻 2

 この段が報じられるや、電光のごとく新世界に飛檄(ひげき)して、米英のみならずテキサスをはじめ、メキシコから南米大陸、果てはオーストラリアに至るまで、たちまちにして欧州の圧政に苦しむ民衆の胸に衝撃が疾った。


「賢人は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」とは鉄血宰相ビスマルクの言葉だ。軍事的天才と共に政治的天才を兼ね備えたレウレトは、彼の崇拝してやまないナポレオンにならい、民衆に訴えては大義名分を得るのみならず、前線にいる兵の士気を高揚させることに傾注した。ナポレオンのいわく「精神は剣よりも強し」という言葉を彼は知悉していたのだ。そうして彼は今後もナポレオンと同じように、民衆政治家の常として大地に耳をつけては時勢を推し量っていくだろう。この宣戦布告がなされた後、彼は討伐軍の編成を行い、テキサーカナとシュリーヴポートに兵を配備した。そして作物の収穫が終わり、冬がすぎるのを待ちつつオレンジに駐屯するの兵を放っておいた。なぜなら敵をあざむくにはまず味方から欺かなければならないからだ。


 一九八十年三月十六日、レウレトを総司令官とするテキサス進攻作戦が開始された。欧州はダラスの西、十五キロの位置に本陣を敷き、三十万の大軍がてぐすね引いて待ち構えている。レウレトはテキサーカナから三万五千の兵と戦車を率いて出陣した。その報を受けて欧州から五万の兵が出陣する。そうして両軍相邂りょうぐんあいまみええるその距離約二キロ。陽光燦として柔らかに降り注ぎ、春風吹いて旗影きえいを揺らす。両軍の士気いよいよ傲然ごうぜんとして冲天ちゅうてんに昇らん。


「第一隊から第五隊、前へ!」


 歩兵が陣を成して所定の位置に着くやレウレトが咆哮ほうこうした。


「前進!」


 かくして火蓋は切って落とされた。健児達がときをあげて突撃していく中、馬上のレウレトが前線を疾駆して次々と下知を飛ばす。馬背に跨がりつつ伝令兵から逐一状況を聞いては把握して、態勢不利な戦域を見るや自ら指揮を執って敵を撃破していく。そうして一段落着くとまた馬を翻しては違う前線へと飛んでいく。この調子で彼は十六時間ぶっ続けで馬に乗り、時には檄を飛ばし或いは鼓舞し、その最中に通信兵に電文を打たせつつ脳中にて戦況を俯瞰ふかんして次の一手を醸成させていた。


 いったい彼のどこにそんな体力があるのだろうか。二十歳になったレウレト青年は少しく背が伸びて一六一センチとなっていたが他の兵士の中に入るとやはり小さい。そんな彼はこの戦地に於いて時に二十時間馬に乗り続けたこともあったし、その時は一欠片のチーズを片手に下知を飛ばしていた。しかしさすがの彼も一個の人間だから休息を摂らなければならない。


――疲れたな。


 そう思ったちょうどその時、砲兵隊を指揮しているスラタニに言った。


「おい、寝袋はあるか?」

「えっ? は、はい、あります」

「よし、いますぐここに持ってこい」


 何をするのかと首を捻りながら寝袋を持って来ると、彼は上着と靴を脱いでさっさと寝袋に収まってしまった。そうしてスラタニにこう言った。


「十五分たったら起こせよ」


 言うや早いかいん々たる砲声のする中、レウレトはぐーっと熟睡してしまった。それできっかり十五分計ってスラタニが彼を起こすと、寝る前の疲労感はどこへやら、たちまちにして精悍な顔を取り戻すと溌剌はつらつとして兵達を鼓舞していた。レウレトが大きく成功した一つの要因に、この頑健にして屈強なる肉体を持っていたことがあげられる。彼はまさしく、鉄人であった。


 レウレトがテキサーカナ軍を指揮しての戦闘は三日目にして決着し、米英の圧勝に終わった。欧州軍の損失が二万に対してレウレト率いるテキサーカナ軍の損失は僅かに二千、驚嘆という他ない。だがこれで満足する彼ではない。テキサーカナ軍を収容すると直ちにシュリーヴポートに赴き、今度は二万を率いて出陣する。それで欧州は四万で対抗するわけだが赤髪をなびかせた馬上の彼は思った。


――やはり奇襲を警戒して、テキサーカナの陣は動かさないか。それか、無尽蔵とも言える物資を頼みにしての長期戦を考えているのだろう。向こうから攻めてこないのがその証拠だが、先の戦闘の薬が効き過ぎたのかも知れぬ。それで睨み合っていればなお結構、今度はこっちで一捻ひとひねりしてくれる。


 そうして両軍はロングヴューとタイラーのちょうど中間で衝突した。今度もまたレウレトが指揮してるわけだが戦闘は僅か一日足らずで終わってしまった。というのもシュリーヴポート軍にはワトリックがいたからだ。

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