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一期一会 第三部  作者: ヤルターフ
第二編 前進!
32/93

一夜の春雨 3

          *          *          *


 米英公会(※帝国議会の前身)の演壇上には緋色の軍服を着て薄汚れた深紅の外套を羽織り、横分けの赤髪に両眼異色の瞳をしたレウレトが、鉄のような顔をして立っている。彼はいま、満堂の拍手を受けていた。議員達がオーランドの、米英の危難を打ち払った救済者を称えているのだ。彼は思った、無意味な喝采だと。美辞麗句を並べて賞賛している政治家達を見据えてまた思った。


――ふん、少し前までは震えながら逃げる算段をしていたくせに、なんだ! いまごろ猫なで声で媚びへつらうのか! いいだろう、今日からオレが貴様らの保護者になってやる。そうしていつしか、貴様らをこき使ってやる!


 そんな風に彼は感謝演説を聞いていた。


 そのあと彼はマルローら三人を引き連れてランカスターの御座するホワイトパレスを訪れた。広大なる謁見の間は総大理石で造られ、壁は白亜で統一され、ドーム型の天井一面には"生命の木"という、あの幾何学模様が描かれ、白色の床は鏡のように磨き抜かれ、入口から玉座まで赤絨毯が敷かれて延々と道を作っている。その両脇には純白の軍服に青の肩章を掛けた近衛兵が石像のようにずらりと堵列とれつしてして、正面の段が設けられた一番奥には御簾みすが張られている。レウレト達が玉座のある段の前まで来てその場に拝跪はいきすると、少しして御簾の奥から人影が現れてゆっくりと玉座に鎮座したのち、鷹揚としわがれた威厳のある声が謁見の間に響いた。


「苦しゅうない、おもてを上げよ」


 言われてレウレト達は顔を上げ、ゆっくりと立ち上がった。人影が左手を少しく動かすと徐々に御簾が上がっていき、その御姿を現していく。そこには白の王衣を身に纏い、駕帽金袍がぼうきんぽうこしらえた老人が玉座に腰を下ろしていた。口元を白ひげで覆い、尖った鼻に双眸を鋭く光らせた総髪白髪のこの男こそが英雄王ランカスター一世である。光彩益こうさいえき々天下に光被こうひす。精悍な顔をしたこの老人は果してよわい百をとうに超しているのだろうか。


「余がランカスターである」


 言われてマルロー、ワトリック、スラタニは固まってしまった。


「フフ、そう畏まるな。楽にしてくれ」


 ランカスターが顔を和ませたので、レウレトを除く三人はようやく姿勢を崩せた。


「久しいな、レウレト」

「陛下もお変わりなく」

「エスカレットの葬儀以来か、ずいぶんと立派になったな。あやつも草葉の陰で誇らしくしてるだろうよ」


 言ってランカスターが懐かしむように目を細めた。


此度こたびの戦、見事である。レウレト、報告書を読ませてもらった。其方そなたらのおかげで獅子身中の虫をちゅうすることができた。大儀である」

「恐悦至極」

「うむ、しかしだ、そのおかげで軍の再編成をしなければならなくなった。さらに内政を強化して国内を引き締めなければなるまい。だが欧州は黙っていないだろう、そこでだ」


 そこまで言ってランカスターがおもむろに立ち上がってレウレトの傍に寄る。


「其方にテキサス討伐の総司令を任したい。引き受けてくれるか?」

「謹んで拝受します」

「うむ、討伐軍の指揮および、編成その他の全権を委譲する。辞令は追って書面にて通達されよう。これへ」


 そう手招きすると、侍従の者が盆に勲章を並べて持ってくる。そしてランカスター自らコマンドール(※司令官)の勲章をレウレトに、それと同じようにしてマルローにはオフィシエ(※将校)、ワトリックとスラタニにはシュバリエ(※騎士)の勲章を胸に着けた。


「それぞれ、一階級昇進とする。レウレト、期待しておるぞ」

「はっ! 必ずやテキサスを平らげて御覧にいれましょう」


 言ってレウレトはランカスターに最敬礼した。


 ランカスターとの謁見を終えたレウレト達は凱旋パレードのために車上に居た。一行を載せた車は白の軍服を来た親衛隊に護衛されながらゆっくりと進んでいく。沿道にはユニオンジャックの旗を持った人々で溢れ、沢山のカメラがレウレト達を捉えてはライブ中継で米英全土に放送している。国家宣揚のプロパガンダとして行われているこのパレードには狙いが二つある。一つは欧州側に対してのメッセージであり、クーデターが失敗したことを暗に伝えている。いま一つはルクレール家の再興と、エスカレットに代わって嫡子ちゃくしのレウレトがその意思を受け継いだ事を伝えている。英雄を作り上げ、民衆と兵士の偶像たらんとする狙いが窺える。


 満天の彩華天工さいかてんこう摩天楼まてんろうに舞う紙吹雪の中、ワトリックが感極まってまなこを潤ませている。その隣ではスラタニが爽やかな笑顔を振りまき、沿道の淑女達に黄色い悲鳴をあげさせている。そうしてマルローも誇らしげにしてる。しかるにレウレトだけが鉄のような顔をしていた。いぶかしげにマルローがレウレトの耳元に手をかざして言う。


「少しは嬉しそうな顔したらどうなんだ?」


 ただ一言、レウレトはこう返した。


「母上に、立派になった姿を見せているのだ」

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