カンツォーネ 2
× × ×
それは彼が薔薇を植えるために良い場所はないかと、リフィー川のほとりを歩いていた時のことである。レウレト少年は顔が蒼白く、体は痩せていて、同年代の子より背が低く、赤毛をぼさぼさにして、いつもうつむいているような、小さな子供であった。彼はよく同年代の子供達にいじめられていた。いつも地面を見ながら歩いているレウレトを見かけては聞こえよがしにこう言いあうのだ。
「おい、犬ころが地面をはいずり回っているぞ」
「ああやって鼻を鳴らしては残飯でも探してるんだろうぜ」
「ああ、どうりで似ているわけだ」
「なにに似てるんだい?」
「野良犬だよ。ああやってはいつくばっている姿なんか、そのまんまじゃないか」
「ほんと、そっくりだ!」
言われてレウレトはムッとして子供達の方をきっと睨んだ。
「おっ、ちびが睨んできたぞ」
「見ろよ、あの目、色違いで気味が悪いや」
「おれ知ってるぜ、雑種がたまにあんな奴を生むんだ」
「へえ! じゃあ、あいつの母犬も雑種なんだな」
「そうそう、それにママが言ってたぜ」
「なんて?」
「あいつの母犬は"あばずれ"だってさ」
「ハハッ、ちげえねえ!」
言われてムッとしたレウレトがすっくと立ち上がって、こう叫んだ。
「やい、オレの母上は"あばずれ"なんかじゃないぞ!」
「おいおい、野良犬がなんか吠えてるぞ」
「ほら、よく言うだろ。"弱い犬ほどよく吠える"って」
「どうりでキャンキャンうるさいわけだ」
「そうだ、いいこと思い付いた」
「なんだ?」
「野良犬のしつけをしてやろうぜ」
「なんでだい?」
「母犬が"あばずれ"だから、しつけが出来てないんだ。だからおれ達が代わりにやってやろうって」
「なるほど、そいつは名案だ!」
そう言って子供達がそれぞれ石を手に持ち、それをレウレト目掛けて投げつけた。さんざん馬鹿にされ、あげく母親の悪口を言われ、とうとう堪忍袋の緒が切れたのか、レウレトが相手の腹目掛けて猛然と突っ込んだ。
「いってえ……、やりやがったな!」
吹っ飛ばされた子供がレウレトを捕まえて、そのまま投げ飛ばす。そうしてうずくまっているレウレトに対し、子供達が雨あられと蹴りを浴びせていく。やがて飽きたのか、子供達が居なくなった場所には亀のように小さくうずくまった、ぼろ雑巾のようなレウレトが道端に残された。しばらくして周囲に誰もいないと確認すると、膝に付いた砂利を払いながら立ち上がって、からりと言った。
「うん、今日はうまい具合に攻撃できたぞ」
そう言って母親に編んでもらったセーターを脱ぎ、埃を払うとまた着直し、ポケットにある小銭を確認すると一つうなずいて、それからフェニックス公園へと向かった。だが公園に入ってからというもの、ふいに悔しさが胸に込み上げてきた。目に映る景色が滲んでくるのを拭いつつレウレトは考えていた。
――なぜ、あいつらはいつも自分に対して嫌がらせをするのか。オレはなにも悪いことはしていないじゃないか……、いや、オレは知っているぞ。あいつらはいつだって自分らを見てはいじめているんだ。ああやって弱そうなやつを見つけては、自分は強いんだぞって言って、偉くなった気でいるんだ。あいつらは、本当は弱いんだ。だからオレは弱いものいじめなんかしないぞ。
そう心に決めると、ぐいと涙を拭い、小さな体を大きくしようと胸を張り、顔を上げて意気揚々と歩きだした。
読者諸兄にもわかるように、この体験がレウレトの心的外傷となっていた。そして自身の背が低いこと、右目が金、左目が赤という、いわゆるオッドアイであることに強烈な劣等感を抱いていた。彼の経歴の中でひときわ異彩を放つ工場長をやっている時分、終始感情を表さない彼が衆人稠座の中、ギュストのシェイン族に対する行為を非難して痛罵してさんざんこき下ろした上に不名誉除籍したのはすべてここからきている。




