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一期一会 第三部  作者: ヤルターフ
第二編 前進!
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オーランドの武勲 2

 レウレトの課す訓練は苛烈を極めた。だがそのおかげで訓練形式での紅白戦では彼の鍛えた兵と彼の的確な指揮が重なって連戦連勝した。ために自身の任された連隊はもちろん、他の兵卒からの人気すこぶる高く、信頼は絶大である。それでも彼は決して満足せず、おごらず、慢心しなかった。私生活に於いては相変わらず奢侈しゃしを嫌い、パンとチーズを親友のピガットと分け合って倹素に暮らし、給金のほとんどをレティシアに送っていた。


 そうして一年が経ったのだが、さすがの彼も内心は穏やかではない。というのは自身以外の士官達は甚だ凡庸で、ただ悦楽に耽って放蕩していたからだ。


――ぐずぐずしている暇はない。オレは遊びに来たのでも、ましてや子供の使いでもないのだぞ。


 それで彼はこの一年もの間に自身が輝ける場所はないかと探していた。


――カナダ国境にあるフランス軍を相手にしてはいけない。ワイオミングに駐屯する連隊にも派遣されてはならない。ならばいずれの地に身を寄せるべきか。テキサスだ! テキサス共和国を平らげ、政治と経済を安定させれば単独で欧州と戦える地力をつけることができるだろう。さらに南にはメキシコがある。彼の地は南米大陸の玄関口で、海上貿易の要衝だ。オレの南米計略は、このテキサスから始まるのだ!


 "緻密の天才"と言われた彼である。どんな些細なことでも見逃さない。勇気凛々その明晰なる頭脳をきりきりと回しはじめた。直ちに部下のスラタニに言ってテキサス共和国の地図を取り寄せては現実と空想の溝を埋めていく。どこから攻め入るのがよいか、兵と馬と戦車と砲台をどのくらい持っていけばよいか、兵站をどこに置くか、敵軍の配置はどうなっているのか、どんな奴が将軍なのか……。とにかくありとあらゆることを調べあげては昼夜を問わず綿密に計画を練っていた。彼が副官に抜擢したスラタニからテキサスに関する長い々々報告を聞いていた時である。聞き終わるやスラタニに向かってこう言い放った。


「ヒューストンにある連隊の数が五百足りないではないか!」


 急ぎスラタニが調べあげると、果してヒューストン付きの兵数が五百足りなかった。こんな風に彼は細部に渡るまで自身の脳中に全て記憶していた。そうして彼は南米を一つ一つ攻略していくのを空想していた。蛮嶺驟雨ばんれいしゅううの地アマゾンの大森林を探索する自分を想像した。こうして空想に耽っている時、彼の蒼白な顔がみるみる赤くなっていった。総身に熱き血潮が巡っているのを感じていたのだ。そうしてある日、寝る間も惜しんで作ったテキサス攻略の具申をして自身をテキサス討伐軍の司令官に任命することを陸軍省に志願した。しかし、レウレトの志願は却下されてしまった。エスカレットと敵対していた軍上層部の人間が若い芽は今のうちに摘んでおこうとしたからだ。彼らはレウレトの天才を恐れていた。士官学校を最年少の首席で卒業したのを知って、彼が出世して自分の椅子を明け渡すのをよしとせず、保身に走りながら戦々恐々としていたのだ。


「エスカレットの息子は何を考えているのか分からない。そんな奴をテキサスにほうり込むなんてもっての他だ」


 会議室の外ではこういった会話がされていたのである。


 憤慨し、長大息した彼だったが、それでも落胆せずに最低限の仕事をして、着々と人気を大きくしていた。だがいつの時代にも反感嫉視する輩はいるものだ。オーランドに着いていた他の士官がレウレトに嫌がらせをしようと呼応しては休暇を取るなどして、仕事を全部丸投げしたのである。が、レウレトはむしろ喜んでその仕事を引き受けていたようである。仕事をしている時はつまらないことに心を苛まれることはなかったし、専心することが出来たからだ。兵卒の方でも愚鈍なる上官よりはレウレトの峻烈なる訓練のおかげで心身を鍛えることが出来ると喜んでいた。そして訓練ながらも、面白いように勝ちを重ねては自信をつけ、立身出世を夢見ていた。

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