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一期一会 第三部  作者: ヤルターフ
第一編 鳳雛生誕
17/93

没落貴族 5

 実の息子との対面を果したエスカレットが新世界を縦横無尽に駆けて指揮を執っていた頃、レウレトは自身の夢を叶えるべく、掌中のたまを磨いていた。彼にはデューイという、若年ながらも武芸教養に精通した人物を教師とし、剣術や操馬術、戦術や戦略、指揮官としての心構え、武人の在り方から貴族の振る舞う紳士のマナー、一般教養と語学等、座学を交えつつ日々錬磨していた。背が低く、体格に恵まれなかった彼だが、それなりに戦う方法を編み出していた。辛く厳しい鍛錬を積んでいる時、彼は決して泣き言や愚痴をこぼさなかった。


 寝る前や休憩の時、彼はよく読書をしていた。そして決して乱読することはしなかった。伝記作家が意見を同じくしているのは、偉人は総じて若い頃に読書をしていることである。アレキサンダーはアリストテレスを師と仰いでプラトンやホーマーの古詩を嗜んだ。シーザーやナポレオンもまたこれに通じている。レウレトが読んでいた本とはいかなるものだったか。英国史、仏国史、各国の人口統計、攻囲法、戦争論、社会契約論、君主論、幸福論、ニーチェ全集、医学書等々……。彼が将来に何をしようとしていたのか、これだけを見ても窺い知ることができよう。


 中でも彼はプルターク英雄伝とナポレオンに関する伝記を精読していた。アレキサンダーが自身と同じ左右異なる瞳を持っていたことを知って彼は自信を持ち、ナポレオンの背が低いことに彼は共感した。そうして心眼に英雄を描き、自身を重ね、一喜一憂しては空想の世界に耽っていた。この時に出会った本が彼に対して重大な影響を与えたのは言うまでもない。アレキサンダーの偉業にシーザーがその足跡を追い、ナポレオンもそれに追随し、幾万もの青年がナポレオンの後継者となるべく、その情熱によって全人を焼き尽くされたその中にレウレトがいたのである。そして、彼が自身の総合的天才を発揮して最もその偉業に近づいた人物であった。ジュストが彼を揶揄やゆしてこう語っている。


「我が国のナポレオンがまた勲章を得たか、もう胸に飾る場所なんてとうにないだろうに」


 レウレトがよくナポレオンを引き合いにして自身と比べては行動したり、発言していたのは全てここからきている。彼のナポレオン癖の最たる言がこれだ。


「我が輩のことをナポレオンの生まれ変わりだと皆は言うが、最近は本当にそう感じるようになった。だが、まだまだ我が輩は彼の足元に及ばないのだ」


 波乱重畳はらんちょうじょうする生涯を終えるまで、彼は生粋のナポレオン崇拝者であった。


 自身の内にある宮殿を磨き、日々鍛錬を重ねているこの鳳雛ほうすうの目の前に、またもや運命が待ち受けていた。ルクレール家の御曹子おんぞうしとして将来が約束され、なんの障害も無く立身出世栄達りっしんしゅっせえいたつの道を邁進まいしんする物語は確かにつまらない。彼の往く道には幾重もの険難けんなんが用意されている。そして絶倫の勇気を持って試練を乗り越えていくのがレウレトだ。


 母と別れ、父の許に来てから丸三年が経っていた。屋敷内にある庭園にて、彼がピガットと共にひなたぼっこをしていた時、デューイが蒼白な顔して駆け付けて来るのが見える。ただならぬ様子を察したレウレトが尋ねた。


「どうした?」

「若君、御屋形様が……」

「父上がどうしたのだ」

「討ち死にを果たされました」


 そう聞いて彼はデューイと同じ蒼白な顔になった。


「それは……、確かか?」


 デューイはただうなずいた。


「そうか……。デューイ、悲しむのは後だ。父上を盛大に弔わないとな」

「はっ……」


 彼らは必要な荷物をまとめると、新世界に飛んだ。そしてエスカレットの眠る棺をダブリン城に移して、盛大な葬儀を執り行った。この時レティシアも献花を持って訪れたが、レウレトはランカスターを初めとして葬儀を訪れた諸侯達に挨拶をしていたので、とうとう息子を一目見ることはできなかった。

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