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一期一会 第三部  作者: ヤルターフ
第一編 鳳雛生誕
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没落貴族 3

 デューイに連れられ、レウレトは執務室に入ると、重厚な大理石でこしらえた机の傍らに深紫の軍服を着て、その上に赤獅子を施した黒のビロードのマントを羽織った、長身の男が背中を向けて佇立ちょりつしていた。


「御屋形様、若君をこちらに」

「ご苦労、二人で話したい、別室で待機してくれ」

「はい」


 デューイが部屋を出ると、形容しがたいほどの沈黙が重く横たわった。七対三に分けた金髪、丸い厳めしい顔に金色の瞳を光らせて、大きな八字ひげをした男がやおらに振り返って、レウレトを見るや口を開いた。


「わしがエスカレット=フォン=ルクレールである」


 エスカレットの威厳ある声と、その偉容は幼いレウレト少年の声を失わせた。だが次の瞬間、先程の厳めしい顔をふっと一転して、にっこり笑ってこう付け加えた。


「そして、おまえの父だ」

「オレの……、父?」

「そうだ」

「嘘だ!」


 そうレウレトが怒声をあげる。だがエスカレットは微動だにもしない。それどころかレウレトに歩み寄り、自身の顔を見せるように屈んで、


「嘘ではない、わしの目がその証拠だ」


 そう言ってレウレトの両眼異色の瞳をまじまじと見つめつつ、懐かしむようにして続けた。


「おまえはレティシアとわしの目を持っておる、それがなによりの証じゃ」

「母上を知っているのか?」

「もちろん、なにせわしが愛した、唯一の女性だからな」

「ではなぜ母上を放っておいたんだ!」

「至極もっともな質問じゃ、話せば長くなるが……」


          *          *          *


 当時の北米大陸は独立戦争の最中である。独立軍は東海岸全域に軍を展開し、フィラデルフィアに首都(※現在は帝都)を設け、黒人や原住民のインディアン、シェイン族の奴隷解放を掲げて剣を取った。一方の欧州共和国は西海岸全域と仏国領カナダを領し、大航海時代より領土を広げては奴隷を使役して、さらには軍事力を背景とした条約により不当に課税して、その貿易によって得る国益を守るべく、争っていた。言ってみれば、旧時代と新時代の戦争である。一方はフランス革命以前の、絶対君主の亡霊であり、一方はそれを倒すべく集まった義人達だ。しかし戦力差はいかんともしがたく、独立軍は劣勢である。そこに英雄王ランカスターが風雲にして独立軍に加わった。


 この戦争にランカスターが強制介入して北米大陸に乗り込むや、たちまちにして独立軍は息を吹き返し、北米大陸の半分まで奪取することに成功した。その立役者がエスカレットだ。この新世界を制し、レティシアをルクレール家に迎えることを夢見ていた彼は、その獅子奮迅の戦働きによって欧州軍を蹴散らしていた。そんな彼が懸軍長駆万里けんぐんちょうくばんりに渡る戦線を視察していた時、レティシアからの手紙を受け取った。その内容は愛するレティシアからの、別れの手紙である。


 読み終えた彼の落胆は凄まじかった。すこぶる意気阻喪して、祖国に帰ってしまう程だ。およそ欧州軍を戦慄させた武人らしくない。しかし軍略もさることながら外交手腕も長じていた彼である。欧州側と停戦条約を結んで、それから休暇を取って帰国した。その休暇を使って彼はレティシアを捜し当てることができた。だがレティシアからは自分を忘れてくれとしか返事がもらえない。そうこうするうちに休暇期限が切れたので、彼はやる方無く戦地に戻る。まだ停戦条約の期限が有効であったから、彼は軍の再編成やアイルランドの内政等の仕事をしていた。しかし寝ても覚めてもレティシアが思い起こされる。彼は祖国にデューイを遣わせて、レティシアの様子を逐一報告するように命令した。

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