レティシア 6
聡明な彼女ならば、すぐに理解したに違いない。脳裏に浮かぶ愛児を想いつつベッドに腰を降ろし、ふと枕元に目をやれば、そこには一通の手紙がある。微かに震えるその手は魂がそうさせているのだろう。彼女は手紙の封を開け、読み始めた。
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最愛なる人へ。
貴女と過ごしたこの部屋を出るのに、私は一抹の淋しさを禁じ得ません。しかし、そのことは貴女も同じであるのを私は知っています。もしこれが運命であるならば、私は甘んじてこれを享受します。なぜなら貴女もそうしたからです。貴女が他の人々から奇異の目で見られ、疎まれ、蔑まされていたことを私は知っています。それにも関わらず、貴女は私の耳を撫でてくれました。おいしいご飯を作ってくれました。有り難いことに、私を叱ってくれました。そして、愛してくれました。
貴女は私に対して"忘れなさい"と、言い付けました。ですがやはり、私は貴女のことが忘れられないのです。血のつながりとも言うべき証を失おうとも、貴女との絆を失いたくないのです。ですから私は偉くなって、必ず貴女を迎えに来ます。私はまだまだ貴女に対して恩を報いていません。この感謝の気持ちを表したいのです。孝養を尽くしたいのです。一緒に居たいのです。ですから私が貴女を迎えに行くその時まで、どうか御身を大事になさって下さい。いつまでも綺麗でいて下さい。
薔薇は売って生活費に充てて下さい。ルブランにその手筈を頼んでおきます。ルブランに貴女のことをよろしく頼むと伝えておきます。いずれ、お会いしましょう。その時まで、どうかお元気で。
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この小学生が書いたようないびつな字体の手紙には、レウレトが母親の気持ちをいかに汲み取っていたかが窺い知れる。自身と母という、親子の関係を忘れろというレティシアの想いを年端のいかない彼は理解し、ゆえに"母上"という言葉を"貴女"と換えているわけだ。そして敬愛する母上をいかに想っていたかが、この手紙の端々に横溢している。
手紙を読み終え、レティシアが封筒に何か入っているのに気づいた。それはいつか撮った記念写真で、裏には"母上と私"とだけ書かれてある。そして表にめくると、そこにはおそらく同じ色の髪と耳をした母子がいた。一人は慈母そのものといった眼差しでこちらを見ており、もう一人は生意気そうな態度で大胆な笑みをしつつ、腕組みをしている子供がこちらを見つめている。そうしてよく見ると、子供の頭上にはわんわんおが乗っている。
「レト……、レト……」
レティシアは何度も息子の名を呟き、肌身離さず持っていた、小箱の中にある彼の耳を撫でていた。




