ある平凡な地獄
「ここはどこですか? ……見たところ普通の一軒家なんですが」
俺と澄音は三時間かけてあるき、ある場所にたどり着いた。
普通の一軒家に見えるそこは、俺にとっての日常の象徴で、他の大多数の人間にとっては、極々排他的な空間。
つまり――
「俺の家だ」
「ボケッとしてないで入って見ろ」
呆然としている澄音を催促して家に入る。
真っ暗なその家は全員が寝ているか、誰もいないように思える。
しかしそんなところに俺は連れてこない。
「ただいま」
俺はそう言いながら電気をつける。
「ッ!!」
そこに居たのは十人を越す子供。
暗闇に紛れながらも、じっとこっちを……いや、澄音を見つめ続けている。
その光景はさながらホラー映画のようで恐怖を誘う。
「長い間変えれなくてごめんな? また何日かいなくなるけど、そしたらすぐ戻ってくるから。あと、こいつは敵じゃないから」
俺は子供たちに向けてそう言う。
子供達はなにも言わないでそっと自分の部屋に戻る。
全員が無表情でありながら、全員が敵意を向けている。
その状況に、澄音は腰を抜かしてへたりこむ。
「ほら。手を貸してやるから立て。飯くらい作ってやる。なにも食ってないだろ?」
そういってもなお澄音は動かない。
茫然自失としているようだ。
……仕方がない。かかえていってやろう。
「きゃ!」
澄音が声をあげる。
やっぱり持ち方が悪かったか?
俺が今やっているのはいわゆるお姫様だっこ。
だとしてもおぶったり、正面から抱き抱えるよりはいいと思うんだが。
い、いろいろぶつかるし。
それでも澄音は動けないのか、黙って抱えられている。
リビングまでたどり着き、椅子に澄音をおろす。
暗闇のなかでも、長い間暮らしている我が家は場所がわかる。
まあ、玄関の電気はついているから少し見えたのもあるがな。
いまだに呆然とする澄音を放っておいて、リビングの電気をつける。
今度は誰もいないので澄音は、辺りを見渡しただけだった。
「さて、とりあえず腹ごしらえでもしようぜ。なに食べたい?」
答えは帰ってこなかったので、適当に作ることにした。
さて飯を食い終わったら地獄を思い知らせてやろう。