犯人
大分遅れました英雄好きの馬鹿です。
最近執筆時間が少なすぎる……
まあ、近日中に負け組も更新しまーす。
三十分掛けて問いただした結果、ほしい情報はかなり集まってきた。
被害者の名前は白木巧。
県で四番目くらいの進学校に通っている二年生。
これといって特徴は無く、柄の悪い奴と関わった形跡はなし。
友好関係は零で怨恨という線も薄い。
ここまでは町を走り回ってればわかる情報だ。
しかし、こいつから聞いた情報によると犯人はこいつらの麻薬を受け渡す予定になっている組織の幹部で、最近能力に目覚めて成り上がった奴らしい。
ただ、能力的にはさほど強いとは言えず、それなりに装備を整えれば一般人でも倒せる程度らしい。
殺した動機としては『能力を試していたら間違えて当たってしまった』という拍子抜けするものだ。
そしてその殺人の罪を、裏の界隈で冤罪を擦り付けやすいと言われるまでになっている俺に目をつけたらしい。
……確かに俺に冤罪がかかった場合十中八九犯人であることを疑われない。
そして俺が冤罪を解いているうちにとんずらすれば逃げれるという算段だろう。
ただし今まで俺はそんな馬鹿みたいなことを考えたやつらは全部警察の前に放り投げて能力で自主させてやっている。
ま、これで冤罪を晴らす材料が揃った。
俺の能力『ハンムラビ法典』は罪を被せてきた奴の前で罪を読み上げれば、効果が発動する。
今回で言うと、警察への自首、俺の走り回った疲労、社会的身分の喪失、能力の封印、そして精神的安息が一週間くらい無くなるって所だろう。
今回は殺人だしなかなか出てこれないだろう。
「これであらかた事件は片付くだろ。後は犯人のいる組に行って差し出すように言うだけだな」
相俺が呟くと澄音が少しの憤慨と、諦めの間を揺れ動いて葛藤しているようだ。
ここまで頭ん中が読める奴は初めてだな。
まず俺にたいしては少しの怒りを込めた視線を、しかし肩は諦めが含まれていることがすぐにでもわかるほどストンと落ちている。
頭で理解してても感情で理解できないって感じだな。
「……一応聞いといてやるが、今俺が行った行動について文句はあるか?」
俺はくるりと澄音の方を向いて聞く。
「……それを聞かれるとは思いませんでしたね。てっきり放っておかれて終わりかと」
「はっ、別に俺は自分と同じような境遇の奴にまでつっかかんねぇよ。それとも放って置いてほしかったのか?」
「わかって要るのなら答えて欲しいだけです。そんなに強いならもっと穏便に聞き出せなかったのですか?」
「はっ! とんだ間抜けな質問だな。その一言だけで可笑しいところが何個もあるぞ」
「何がおかしいのですか! 他人を簡単に傷つけるような人に笑われる様なことはありません!」
澄音は真っ直ぐにこっちを睨み付けながら言う。
こんな綺麗事を十代後半になってからも言えるようなのは見たこともない。
しかし、案外言われてみるとこんな奴が世界にまだ居るという事実に、ほんの少しだけ救われたような気分になる。
「………人を小バカにしてそんなに楽しいですか?」
「いや、バカにしている気はない」
「そのわりにさっきより楽しそうな顔になってるじゃないですか」
「ん?」
その言葉を聞いて反射的にほおけた声を出してしまう。
実際に自分の頬を触って見ると確かにつり上がっていた。
「……気付かなかった。確かに俺は笑っているな」
「気付かなかったってどう言うことですか。そんなもの自分でわかるでしょう?」
「そこから間違いがあるな」
澄音の言葉を俺は否定する。
まあ、無闇に否定したい訳じゃないが、本人が当たり前だと思っている事で傷付く人間もいるということを教えてやりたかったからだ。
「お前はいつでも笑いたいときに笑えるかもれないが、そうじゃない奴もいるんだよ」
「楽しい事があったら笑えばいいじゃないですか! そんなことより――」
「おい」
俺は澄音に対して凄み、続けようとした言葉を封じる。
あの後の言葉を言われたら俺は多分切れていたからな。
「今話そうとしていた言葉は最初から無かったことにしておいてやる。だから笑えない人間がいることをそんなことと言うな」
「な、何がいけないんですか! それを言うなら人を簡単に殴る貴方のが悪いでしょう!」
「……はあ。とりあえずついてこい。お前に見せたいもんができた。そこに付くまでお前とは口きかねえ」
俺は澄音が抗議する声を聞き流して目的地に行くことにした。
何だかんだで澄音も付いて来ているから問題はない。
さあ、覚悟してもらおうか。
生き地獄というものが本当にあるんだって事を。