廃工場
学生最後の日
って感慨深く名残惜しいですね……
のどが痛いな。
それもこれもこの澄音が原因だな。
三年近く言葉をまともに発してない人間に向かってこんなに爆笑させたんだからな。
コンビニやらファミレスぐらいでしか喋ってないと声なんてほとんど出ない。
澄音はいまだむくれているがとても効果的なカウンターをしてくれたようだな。
「笑っちまったのは悪いと思ってるからそんなむくれんな。これでも誉めてたんだから」
俺は澄音に向かってそう言いながら肩を叩く。
「あなたは人を誉める時に相手を笑うんですか!」
澄音は完全にへそを曲げて居るが、その成果に俺はこいつをもう既に信用してしまっているようだ。
こいつは俺を味方につけた有用性を教えてやろう。
こんだけ笑わせてくれた分の働きはしてやろうという気持ちになってくる。
警察に捕まらないように犯人を見つけるようにするノウハウでも教え込んでやろう。
言うなれば俺は警察から逃げるプロだ。
まあ、犯罪もおかしてないのに
こんな犯罪プロみたいな事になってるのは少し癪に障るけどな。
「まあ、悪かった。取りあえずついたぞ。この工場跡ならほとんど人が来ないからな」
「そうですか。……あれ? 人の声が聞こえませんか?」
「……本当だ。……ここはもう一切使われてないはずなんだがな」
ここら辺はもう既に利用する人間なんて居ないはずの場所だ。
お世辞にも行きやすいところとは言えないし、鍵もかかってる。
こんなところに入るのは肝試しでもしたい中坊くらいだろうな。
しかし近づいて中を見てみるとそこに居たのは見るからにガラの悪そうなスーツを着た男達。
持っているものなんてさらに物騒でアタッシュケースと白い粉を持っている。
「…………薬の密売か。チッ。胸糞わりぃ」
俺は本当にああいう奴等が嫌いだ。
今まで喰らってきた冤罪の中でも最も多いいうウェイトを占める職業は間違いなく暴力団関係者だ。
薬の密売人に仕立て上げられたこともあったし、女を襲ったことにされかけたこともある。
そのたびに俺は能力とそういうときの自衛のために鍛えてきた体で組ごと滅ぼすなんてことはざらだった。
まあ、俺は犯罪なんてする気もないが、良いことをするつもりもない。
ここの中の奴らがどっかに行くまで別のところで待っておこう。
そう言って澄音の居る方を見る。
「あれ? さっきまでそこに居たはずじゃ……アァ!」
周りを探ってみると澄音を発見した。
いわゆるヤクザの居るところに。
「オイテメエナニヤッテンノ?」
思わず肩ことになりながら澄音の頭を握る。
「わ、わるいことを見つけたら捕まえないといけないじゃないですか!」
「時と場合を考えろ! お前は俺たちがこいつらを制圧できたとして何処に連れていくつもりなんだよ!」
そう言われてようやくこいつも気づいたようだ。
「私たち今逃亡中ですから警察には……」
「ああ。気付いたのは結構なんだがな。その事実を言うとどういう状況になるかわかるか?」
俺が皮肉をたっぷり効かせて澄音の頭をヤクザ共のほうに向ける。
そこにあったのは拳銃を出して男のほうを殺して、そして残った澄音でも犯そうとしてついでに薬の密売の隠れ蓑にしよう。
とでも決めたような分りやすく下卑た笑みを浮かべたヤクザがいる。
「……私たち運がないですね」
「ああ。俺も確かに運が悪いが、今日の不運の原因じゃないかと思ってる」
「気のせいですよ。私も元から悪いですし、あなたも悪かったんでしょう。今日のはたまたまです」
「そうか。後でげんこつ落としてやるから覚悟しとけ?」
……人と人は足し算とはよく言ったもんだぜ。俺の不運と澄音の不運がばっちりたされてやがる。
だけど足し算でどうにかなるレベルの不運じゃない気がするな。
「……全く。どうにも掛け算レベルで運が悪くなっていく気がするんだが気のせいか?」
そう言って俺はヤクザどもに攻撃を開始した。