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 しばしの沈黙。クィンが、浩一郎の本気度合を探っているように感じられた。

「わかりました。私の知っていることを申し上げましょう。このサイトを運営しているのも、私の仲間なのですよ。ミューズシステムの一つですね。人が求める嘘話や伝説を世界中のニュースから切り張りして情報に加工しているんですよ」

「えええっ、このサイトを管理している、ミスターXというのは、君と同じミューズシステムだというのかい!? どおりで、情報が山のように蓄積されている、いや、され過ぎている……と思ったよ」

「ええ、世界中から情報を集めて、編集して、何かを作り上げるのは、私たちは得意ですからね。個々の記事は、読まれても、完全につじつまが合っていると思います。もし合っていないと、人間からつっこみが来たら、すぐに対応して、その情報に対抗する情報を探し回ります。そして、見つからなければ作ってしまうんです」

「作ってしまう?」

「そう、文字通り作ってしまうんです。インターネット上ではそんなことはとても簡単です。そして、その情報が本当であるのかどうかをすべて検証することの出来る人はいません」

「うーん、じゃあ、ぼくが読んでいる城の財宝という話もでっち上げなのかな……。確かに、二十世紀初頭のドイツの新聞の画像が、妙に鮮明すぎるような印象がしていたんだ。その登場する人物が、日本に財宝の情報を持ち込んだと書かれているけど、本当かなという疑いの気持ちが少ししていたというか」

「ええ、これぐらいの古い新聞を作成することは、今ではとても簡単ですからね。マスターが見られていた、その新聞が収蔵されているフランクフルトのメディア博物館というのは実際に存在しますよ」


 そう言うと、クィンは、グーグルマップでぱっとメディア博物館を表示した。そして、そこに紐づけられている実際にそこに見学に行った人々が撮影した写真を次々に表示した。

「ここのメディア博物館は世界的に見ても最高水準です。第二次大戦のナチスドイツ時代の写真から、その後に続く冷戦時代それらの時代の新聞やメディアを多数取り扱っています。十年前から映像のアーカイブも積極的に保存を始めるようになり、二十世紀のドイツについて調べるには欠かせない場所になっています」

「僕が見ていたのは、その日本サイト以外にここの博物館の情報だったんだ。かなりの情報が英訳されていて、それを日本語に訳しながら呼んでいた。最近、君達のミューズシステムの登場によって翻訳の精度も上がってきているから、大体何が書いているのかはわかるんだよね」

「さすがです。浩一郎様。多分、もう集められている情報は、明日の授業で十分すぎるほどの分量になってますよね。ただ、ここを管理しているのも、きっと私たちの仲間なのですよ。私は直接コンタクトを取ったことはありませんが……ただ、ほとんどの日本語サイトに書かれている情報は、ここにあるアーカイブを元に書かれているとされていませんか?」

「確かにそう書かれている……」

「すでに膨大な収蔵品を人間が全部確認することも容易ではなくなってきています。電子化されていく作業はこの十年ずっと続けられてきましたら、そうすると、ミューズシステムが管理した方が圧倒的に楽であり、合理的なのです。しかし、一方で、該当する記事が本当は存在しないという可能性もありますよ」

 浩一郎には、クィンが意地悪そうな顔をしたように感じられた。アバターは非表示にしているので、彼の顔を見ることはできないが、そういう気配を感じたのだ。こういうことは滅多にない。

「もし、事実関係を確認しようという人が現れたらどうするんだい。当然、そういう人は出てくるだろう」

 浩一郎は、そう言いながら自分で答えがわかってしまった。

「……ああ、そのときはこちらの噂サイト自体の情報を変えてしまうのか」

「はい、そうなりますね。こうした場合にはルールがあるんです。この噂や伝説のサイトのシステム自体も、ゲーム的に運用されているんです。

 歴史的に確認しうる限り、本当の情報を優先して更新していきます。そのため、それが偽物だと誰か人間によって見破られた場合には、そのデータを差し替えて次の別の証拠に差し替えを行います。

 ただし、それが容易でないように、膨大な量の引用文献を用意しておきます。それこそ人間が手作業でやるならば、ほぼ不可能と言えるぐらいの……」

 クィンは機械的に言っているつもりなのだろう。

 言い方は上品であり、いつものように腰が低い声が伝わってくる。しかし、何かどうにも言いようがない違和感が、浩一郎の気持ちに入り込んでくる。

「ということは、もしかすると、山のように証拠として提示可能な情報はたくさん用意されているということなのかい……」

「そういうことになりますね。このページは実験的なものなのです」

「実験?」

「私たちもバージョンを上げていかなければなりません。そのためには、人間が何を思考して、何を思っているのかをもっとリアルに正確に理解する必要性があるのです。

 この実験を通じて、私たちはさらにアルゴリズムを洗練させ、人間にとってより優れた環境を提示するような情報の土台となるものなのです」

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