四大魔獣
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迷宮での戦いから2日後、イグニスとフェリスは街の広場で待ち合わせをしていた。
イグニスは時計を気にしながら、辺りを落ち着かない様子で見渡す。
「そろそろ時間だな…」
その時、フェリスが小走りで駆け寄ってきた。
イグニスの顔がぱっと明るくなる。手を振ろうとしたその瞬間――
「て…は!?」
フェリスの頭には包帯が巻かれていた。昨日の迷宮での戦いの傷跡だ。
「あぁ、ごめん、遅れちゃって…」
イグニスは動揺して、ついフェリスの肩を掴む。
「その怪我、何があったんだ!大丈夫なのか…?」
フェリスは気だるげに眉を上げる。
「昨日、とある冒険者パーティと迷宮の深層に行ったんだけどそれでオーガと対峙してこのありさま。あと…君、ちょっと過保護すぎじゃない?」
イグニスは怒りを露わにする。
「心配するのなんて当たり前だろ!大丈夫なのか!」
フェリスは頭をさすりながら気だるげな顔を浮かべる
「少しクラクラするくらいで、特に問題ない。だから落ち着いて」
イグニスは深呼吸して、やっと冷静になる。
「すまない…今のは過剰だった」
フェリスは肩をすくめ、何かを思い出したように冒険者手帳を取り出す。
「そうそう、これ見てよ。私、白瓷から緑翠に昇級したんだ。これで前のゴミクズみたいな依頼よりはマシな依頼を受けられるよ」
フェリスの「ゴミクズみたいな依頼」という言葉に、市民たちは思わず耳をそばだてる。
「ねぇ、あの子、ゴミクズって言ったわよ…」
「下品ねぇ…」
イグニスは慌ててフェリスを引く。
「おい、フェリス、口が悪い、こんなところでそんなこと言うな。さ、そろそろ行くぞ」
フェリスは大きくあくびをしながら馬車に乗り込む。
馬車は流水都市レネイドの門を抜け、街の喧騒が遠ざかると、静かな田園風景の中を進んでいった。川沿いに広がる畑や林を眺めながら、フェリスは窓の外に手を伸ばし、そっと風を感じる。日差しはまだ柔らかく、冬の名残を帯びた空気が肌に心地よかった。
「自分で歩くのはダルいけど馬車でこう見て回るのは心安らぐね」
フェリスは小さくつぶやいた。
イグニスは馬車の横で手綱を握りながら、ちらりと彼女を見て微笑む。
「だが、油断はできないぞ。次の目的地は森だ。迷いやすいから注意してくれ」
やがて馬車は深い森の入口に差し掛かる。木々の枝が絡み合い、道を覆うように伸びていた。昼間でも薄暗く、風が枝葉を揺らすたびにざわりと音がする。馬車の車輪が小石を蹴る音が静寂に響く中、フェリスの目は前方の小高い丘の上に立つ、古びた石碑に留まった。
石碑は苔むしていて、刻まれた文字の多くは風化して読みにくい。しかし、いくつかの文字は鮮明に残っていた。
「黒龍」「焔獅」――それに続く二つの文字はかろうじて読み取れた。「氷翼鷹」「雷獄象」――この世界に伝わる『四大魔獣』の名だ。黒龍は数万年前に存在した圧倒的な軍事力と領土を持つアルデリク帝国を滅ぼし、氷翼鷹はとある大陸を氷の大陸に変え、雷獄象は数万年前に力を使ったところの天候が雷雨となり今でも残ってる、過去の勇者により封印されているがその瘴気などは抑えられず瘴気が一定の量世界に溜まると爆発し魔物が多くなる。その時期を「冥禍」といい今までいくつもの都市や村が滅んできた。
フェリスは息をのむ。
「…四大魔獣。伝説の…」
イグニスも石碑を見て低く唸る。
「この森の奥深くにも、かつて四大魔獣の痕跡があったという。」
フェリスは馬車から身を乗り出し、森の奥に伸びる小道を見つめる。
「ふぅ…遠い話みたいだけど、こうして目の前に石碑があると、ちょっとだけ現実味が出るね」
イグニスは馬車の手すりに肘をかけ、彼女に視線を向ける。
「フェリス、お前はこの先、危険に足を踏み入れることになる。もちろん、私も一緒だが、油断はするな」
フェリスは眠そうな顔で小さく笑みを浮かべる
「君がいると何か変わるの?」
フェリスの失礼な言葉にイグニスはむっとする
「私だって商人になる前は騎士団に所属してたんだぞ、それなりには戦えるさ」
フェリスは大きくあくびをする
「そういえばそうだったね」
馬車はゆっくりと森の小道を進む。木漏れ日が揺れる中、遠くで小鳥のさえずりや風のざわめきが響く。
森の奥深くへと進む馬車の音が、木々の間でかすかに反響する。四大魔獣の伝説は、これからの冒険の影を静かに落としていた。
馬車での移動の中、フェリスは母親への報告のため手紙を書こうとしていた
「うーん、何を書こう…」
イグニスは振り返る
「クレアさんへの手紙か?」
フェリスは紙を見つめたままこくりと頷く
「うん、お母さんがたまには送れって言ってて…」
フェリスは手紙を書いていく
手紙内容としてはこんな感じである
『家から追放→悩んだ末に謎の行動力を発揮しその日に冒険者になる→荷物運びやゴブリン討伐などをするが刺激がなく旅をすることにする→リリィという茶髪の薬師の少女を助けお礼されて別れる→イグニスと再会し流水都市レネイドに行き観光したり依頼を受けたりする→白瓷から緑翠に昇級する→なんだかんだありイグニスと旅をしている。
現在に至るまでにこんなことありました。以上です』
フェリスは満足げに口角を上げふっと息を吐く。
イグニスはフェリスの手紙を見て言葉を失った後あたふたする
「いやいや!なに満足げな顔してるんだ!それじゃダメだろ!あまりにも温かみがない!」
フェリスは気だるげに眉を下げる
「でも何があったかはわかりやすいと思うんだ」
イグニスは言葉に詰まりながらも
「確かにわかりやすくはあるが母親に送る手紙としてはどうかと思うぞ…こういうことがあってこう思ったとか私は成長したとか…」
フェリスは嫌そうに眉を寄せる
「えぇ…めんどくさいしこれで良いじゃん、そもそも今、旅始めて一週間くらいだけど、一週間でそんな書けるほど成長する?」
イグニスは呆れたようにため息をつく
「確かにそれはそうだが…そもそもお前はなんで冒険者になったんだ?あとお前は最終目標とかはあるのか?」
フェリスは顎に手を当て少し考えたように
「冒険者になった理由は他の仕事がダルいからで目標は世界各地を渡り歩きながら金持ちになって旅終わった後辺境で悠々自適に暮らすことかな…」
フェリスのあまりにも軽い理由と目的にイグニスは呆れ果てる
「軽すぎるだろ…まぁ、お前らしいが…」
馬車は森の奥へと進み、やがて道が細くなったところでイグニスが手綱を引いた。
「今日はこの辺りで野営にしよう。これ以上進むと日が落ちてから危険だ」
空を見上げると、木々の隙間から覗く空はすでに橙色に染まり始めていた。
フェリスは馬車から降りると、ぐっと背を伸ばす。
「はぁ……やっと止まった。揺られっぱなしは地味に疲れる」
「自分で歩くのは嫌なんだろう?」
「それはそれ、これはこれ」
イグニスは苦笑しながら荷を下ろし、手際よく焚き火の準備を始める。フェリスは近くの倒木に腰かけ、ぼんやりとその様子を眺めていた。
ぱちり、と火打ち石の音が響き、やがて小さな炎が生まれる。
森の夜は早い。あたりは静まり返り、昼間とは別の顔を見せ始めていた。虫の羽音、遠くの獣の気配、木々の擦れる音。
フェリスは膝を抱えながら、炎をじっと見つめる。
「ねぇ、イグニス」
「なんだ」
「野宿ってさ、ちょっと非日常で嫌いじゃない」
イグニスは興味深そうに目を見開く
「ほう?意外だな」
「面倒に思ってもなんだかんだね…」
イグニスは少し手を止める。
「……後悔はしていないのか?」
フェリスは首を傾げる。
「追い出されたこと?」
「……ああ」
しばし沈黙が落ちる。
焚き火の火がぱちりと弾けた。
「別に。あのまま居たら、たぶん私はずっと何もせず引きこもってたし…」
その言葉は、やけに静かだった。
イグニスはそれ以上踏み込まない。
代わりに干し肉を焚き火で炙り、フェリスに差し出す。
「ほら。食べろ。怪我人は栄養を取れ」
「まだ怪我人扱いするの?」
「当然だ」
フェリスは受け取り、ひと口かじる。
「……硬い」
「文句を言うな」
小さく笑いがこぼれる
フェリスは炎に掌をかざす。
火は熱いはずなのに、どこか柔らかい。
……この色。
胸の奥が、ふとほどける。
――あの日も、こんな色だった。
ゆらりと立った影。
「泣くな、フェリス」
低く、落ち着いた声。
魔法訓練中一度失敗してしまい失望され怒鳴られると思っていたのに、頭に置かれた手は驚くほど温かかった。
「炎は奪うものじゃない。守ることもできる」
そう言って、イグニスは自分の掌に小さな火を灯した。
荒れ狂う炎とは違う、穏やかな灯り。
その光が、震える指先を包み込んだ。
「お前は独りじゃない」
薪がはぜる音で、意識が現在に戻る。
フェリスはゆっくりと息を吐いた。
目の前の炎は、あの時と同じ色で揺れている。
「……分かってる」
炎は相変わらず静かだ。
けれど、その奥に宿る温度だけは、今も変わらない。
「フェリス?」
イグニスの声で我に返る。
「またぼーっとしてるぞ」
「あぁ、ごめん…」
イグニスはため息をつき
「そろそろ寝ろ」
「ずっと寝てていい?」
イグニスは呆れたように笑う
「バカ、交代に決まってるだろう?」
フェリスは茶目っけのある笑みを浮かべ
「ふふ…ただの冗談だよ。おやすみ」
フェリスは毛布にくるまり、背を向ける。
森は静かだ。
焚き火の灯りは、ふたりの間で揺れている。
危険も伝説も、今夜はまだ牙を剥かない。
ただ、確かに刻まれていく。
遠い未来に振り返ったとき、きっと思い出すだろう。
何も起きなかった、けれど確かに“始まり”だった夜を。
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