悪夢の朝、再生の午後
お待たせしました、4話目です!いつも読んでくださっている皆さん、ありがとうございます。今回はフェリスがこれまでの自分と向き合い、失った力を取り戻すための第一歩を踏み出すシーンです。彼女が持っていた“神童”としての力をどう取り戻すのか、そしてそれが彼女の成長にどう繋がっていくのかを描いていきます。
過去の自分に悩みながらも、少しずつ変わっていくフェリスの姿を楽しんでいただければ嬉しいです。それでは、どうぞお楽しみください!
翌朝、フェリスは目を覚ましたが悪夢の影響で体調が優れない。頭痛と微かな吐き気が残り、いつもより重い布団を引きずりながら起き上がる。
「はぁ…最悪の目覚めだ…」
彼女は洗面所に向かい、軽くうがいをして顔を洗う。冷たい水に顔をつけた瞬間、少しだけ目が覚めるが、それでも体に染みついた疲労感は拭えなかった。朝食を摂りながらも、どうしても昨日の夢が頭を離れない。
「またあの夢か…」
夢の中で彼女はかつて「神童」と呼ばれた頃の自分を思い出していた。風魔法を操る力で周囲を驚かせ、誰もがその才能に期待を寄せていた。しかし、その期待に応えきれなかった自分を、今も心の奥に深く抱えている。失敗が怖い、何もかもが怖い、そんな感情が心に重くのしかかってくる。
フェリスは深いため息をつき、窓の外に目を向ける。
「うーん、どうしよう…」
考え込む彼女の視線は、街の喧騒を感じながらもどこか虚ろに遠くを見つめている。しかし、そのうちふっと、ひとつの考えが浮かぶ。
「運動不足が原因かもしれないな…」
そうだ、身体を鍛えることで少しでも気分が晴れるかもしれない。精神的な疲れを癒すためにも、最近ずっと落ちていた身体能力を取り戻さないと、この先不安だ。
フェリスはじっと自分の手を見る。
「今まではオークもゴブリンも、風魔法で高速で機動して、勢いつけて攻撃することでどうにかなってたけど、これからはそれじゃダメだろうな…」
今までの戦いでは風魔法を巧みに使って戦ったが、それだけでは限界がある。特に最近では、すぐに疲れが出てしまう。体力が落ちていることが、次第に不安要素として大きくなってきている。
この世界には魔力を体に纏うことで身体能力を一時的に向上させる技術がある。魔法を使うことで筋力や素早さを引き出せるため、上級の冒険者や剣士はこの技術を駆使して戦う。しかし、フェリスはそれを使うには問題があった。かつて「神童」と呼ばれた頃は、魔力の使い方を極めていたが、長い間戦闘から遠ざかっていた今、その力を完全に引き出すことはできなくなっていた。魔力を纏って戦うものの、身体が追いつかない。体力の消耗が早すぎて、すぐに力尽きてしまう。
「そもそも、魔力を纏って身体能力を高めるには、元の体がしっかりと鍛えられていないとダメなんだよな…」
フェリスは深く息を吐き出し、改めて考え直す。身体を鍛え、基礎を作らなければ、魔力をうまく使うことすらできない。それどころか、身体が弱ければ魔力を無駄に消費してしまい、逆に自分を追い込んでしまう可能性がある。
「やっぱり、まずは体力作りかな…」
そう決意したフェリスは、早速運動を始めることにした。もちろん、最初から無理をしても続かないとわかっていたので、軽い筋力トレーニングから始めた。体力がついてきた頃に、少しずつ魔力を使ったトレーニングを加えていこう。そうすることで、無駄なく魔力を引き出せるようになるはずだ。
その日の午後、フェリスは街の広場で軽いランニングをしてみたり、基礎的な剣術の素振りをしたりと、自分の限界を試すように過ごした。もちろん、最初はすぐに息が切れ、筋肉も痛み始めたが、それでも少しずつだが感覚が戻ってくるのを感じた。身体を動かすことで、心も少しずつ晴れていくのを実感した。
「うん、少しずつだけど、感覚が戻ってきてる…でも昔は当たり前にできたことが今は当たり前じゃなくなるなんて…」
そう悲しげに感じてしまうがその悲観的な考えを振り解くように首を振り、フェリスは自分の頬をつねりながら、再び力を入れてトレーニングを続けた。心の中に小さな火が灯る。もう一度、「強くなりたい」と心から思う自分がいた。
しばらくしてフェリスは巨大樹の森に行った。
巨大樹の森――その名の通り、巨木が森の中に何本も立ち並び、枝を広げて空を覆うような場所だった。
フェリスは、木々の間を軽やかに駆け抜けると、一本の巨大な樹の前で足を止めた。樹齢何百年とも言われるその巨木は、まるで生きているように力強く大地に根を張っていた。だが、それだけではない。枝が無数に分かれ、どこまでが枝で、どこまでが幹なのかもわからないような形状をしていた。
「よし、今日はこれだな。」
フェリスは腰の鞘から剣を抜く。
「これで体を鍛えないとな…。」
そう呟くと、フェリスは大きく一歩を踏み出し、風魔法に身を包み空中を駆け巡る。呼吸を整えて集中をして魔力を全体に行き渡らせるように纏わせ身体能力を引き上げる。
いくつもの枝が入り組んだ木の間を、フェリスはまるで舞うように移動していった。筋肉がわずかに震え、普段使っていない筋群が目覚める。少しだけ息が乱れるが、それでも次の動きに移るには十分な余力が残っていた。
最初に目指すのは、上空に伸びた太い枝。その先端が他の枝とぶつかり、バランスを崩しそうになっている。
「ここだ。」
フェリスは瞬時に身体を動かし、風魔法を使って一気に加速する。剣を右手にしっかりと握り。猛スピードで枝を斬り始める。木が軋む音と、鋭い刃の音が重なって響く。
一振り、一振り、木の枝が両断されていく。弾けた枝が空中に舞い、次々と切り落とされる。そのたびにフェリスはすぐさま体勢を整え、反動を受け止めながらもまた飛び移り、次の目標に向けて進んでいった。
枝を切り裂く度に、体にかかる負荷が増していく。毎回の動きに神経を研ぎ澄まし、細心の注意を払って枝を切り落としながらも、フェリスの表情にはどこか楽しげなものがあった。
「まだまだ。もっといける。」
これまでは身体を使うことに対して、どこか億劫な気持ちがあった。だが、今は違う。確かに疲れも感じるが、それは単なる肉体の成長の証。手にした剣が振るわれるたび、彼女の体は少しずつ、でも確実に鍛えられていく。
木々の間を抜け、次々と新たな枝に飛び移りながら、フェリスは無心で剣を振るい続けた。風が肌を撫で、枝の切断面からは香ばしい木の匂いが漂う。目の前の森が、まるでフェリスの体力を試すかのように、次々と挑戦を仕掛けてくる。
気づけば、汗が額を伝い落ち、息が少し荒くなった。だが、それでも止まることはない。
「まだだ…!」
フェリスは次の枝に飛び乗ると、鋭い目でその先を見定めた。次々と立ちはだかる障害物を切り拓くたびに、彼女の内側で何かが熱く、燃え上がる感覚が広がっていた。
—これが、戦いでもない、ただの「鍛錬」だとしても、これこそが今の自分に必要なものだ。
ふと、胸の奥にある渇望が満たされるような、少しだけ嬉しい気持ちがこみ上げてきた。
その言葉を呟くと、再びフェリスは森の中で、剣を振るい続けた。
しばらくして訓練を終えてギルドに向かった。どの依頼を受けようかと考えているととあるパーティから声を掛けられた。
茶髪の剣士の男。銀髪ロングヘアの穏やかそうな聖女職の女、筋骨隆々とした戦士の男の三人の銅鉄の等級のパーティでありここらではかなり有名である。
茶髪の剣士の男は人懐っこい笑みを浮かべる
「やぁ、君も依頼を受けようと考えているのかい?」
フェリスは知らない人から話しかけられたことに気だるげな顔を浮かべる
「そうだよ、君たちは私に何か用があるのかな?」
フェリスの素っ気ない態度にも臆せず茶髪の剣士の男は笑みを崩さず仲間を紹介する
「僕はオリバー、この女の子はエリシアでこっちの戦士はザネス。僕たちはさっき君が訓練しているところを見て気になって話しかけたんだ」
エリシアは穏やかそうに微笑む
「私たちは今から迷宮の深層に行こうと考えていたのですが一緒にどうですか?」
「うーん…私、白瓷なんだけど迷宮の深層って入って入れるの?」
フェリスは腕を組み、少し首を傾げながら考える。
オリバーはにこやかに肩をすくめて言った。
「そこは大丈夫、上位の等級の人がついてれば等級が下位の人でも入れるんだよ、どの等級の人が付いてればとかの定義はまた時間がある時に説明するよ。まぁ、僕たちと一緒なら、心配しなくていいさ。」
ザネスが低く、落ち着いた声で付け加える。
「無理は禁物だ。フェリス、お前の魔法は頼りになる。だが体力面で不安があるなら、俺たちがカバーする。」
エリシアは優しく微笑む。
「フェリスさん、もしよかったら私が回復魔法で支えます。迷宮で困ったことがあれば遠慮なく言ってくださいね。」
フェリスは少しだけ目を細め、口元に小さな笑みを浮かべる。
「まぁ、いっか、そっちの方が白瓷の依頼受けてるより稼げるだろうし。」
その言葉には少しの冗談めいた自信が混ざっていた。
エリシアは微笑んだまま頷き、ザネスは無言で剣を肩にかけた。
オリバーは軽くフェリスの肩に手を置くようにして、少しからかうように言った。
「よし、じゃあ決まりだね。さっそく準備して迷宮に向かおうか。」
フェリスはため息をつきながらも、少し背筋を伸ばした。
「…わかったよ、行こうか」
迷宮の奥深くまで進んだフェリスたちは、途中でいくつかのモンスターを倒し、ようやく目的の魔物の巣を発見した。オリバー、エリシア、ザネスがそれぞれの役割を果たし、フェリスも無駄なく戦った。
「これで…依頼は終わりか。」
フェリスは息を整えながら、倒した魔物の遺体を一瞥する。心の中では、すでに迷宮を抜けて帰ることを考えていた。
「お疲れ様。さすがだな、フェリス。」
オリバーが笑顔で言うと、フェリスは小さく頷いた。
「まぁ、これくらいはね。」
エリシアも優しく微笑んでいるが、ザネスだけは静かな表情で周囲を見渡している。
「ちょっと待て。」
ザネスの声が響くと、パーティー全員が静かになった。
「何かあったのか?」
オリバーが少し驚きながら聞く。
「気配を感じる。」
ザネスの目が鋭くなる。
「ここの迷宮には、これまで以上の強敵が潜んでいるかもしれない。」
フェリスは心の中で警戒心を高める。普段なら余裕を持って戦える相手でも、油断は禁物だ。
その瞬間、突然、地面が揺れた。
「何だ…?」
警戒するフェリスたちの前にオーガが現れた。オーガは嘲笑うようにこちらを見る
その巨体は5mを越え、肌は岩のように灰色で硬質。光の当たり方でまるで石壁の一部が動いているかのように見える。顔は重厚で額が低く、目は小さく黄色く光り、口元には深い傷跡が刻まれている。両手の爪は鋭く、地面を叩くだけで振動が伝わる。
「……でかい…!」
フェリスは息を飲む。ザネスも身構え、オリバーは冷静に指示を出す。
「皆、分散して!フェリス、動きで翻弄してくれ!」
オリバーの声に応え、フェリスは風魔法で加速し、オーガの攻撃を回避しながら石柱を蹴って移動する。
オーガは巨大な柱で振りかぶり、石柱を叩き折る勢いで攻撃。フェリスは下をくぐり抜け、背後に回り込み、剣を振るって反撃する。ザネスは正面から挑み、オーガの注意を引きつける。エリシアは安全な距離から補助魔法でフェリスを補助。
一進一退の戦いが続く中、フェリスは森での鍛錬を思い出す。
「そうだ、私の体も魔力も無駄に消耗させない…!」風魔法と身体能力を最大限に活かして、オーガの隙を突く。
ザネスの一撃でオーガが少しバランスを崩した瞬間、フェリスは勢いよく剣を振り抜き、オーガの肩の側面を斬る。「これで…!」オリバーも側面から斬り込み、四人の連携がオーガを追い詰める。
地面が大きく揺れ、オーガの咆哮が迷宮全体に響き渡る。
フェリスは即座に風魔法で加速し、オリバーたちが注意を引いている間に背後からうなじを狙おうと剣を構える。
「今だ…!」
しかし、その瞬間――オーガが怒りに満ちた咆哮とともに、周囲の柱を豪快に振り回す。振り下ろされる巨木の破片が砕け、粉塵が立ち込める。フェリスは反射的に剣で防御するも、柱の衝撃で弾き飛ばされ、壁際の柱に激しく激突した。
「うっ…!」
痛みが全身に走り、視界が一瞬白くなる。頭部と右腕と腹部からは血がにじみ、呼吸も荒い。重症を負ったことを即座に理解する。
「ぐっ…」
肺から空気が吐き出され
視界が白く弾け、次いで赤く滲む。
頭部から血が流れ落ちる。
右腕は痺れ、指が思うように動かない。
腹部に走る鈍い激痛。呼吸をするたび、内側を削られるように痛む。
――折れている。
即座に理解した。
肋骨が、何本か。
「……くそ……」
立ち上がろうとした瞬間、膝が崩れ落ちる。
石床に手をついた衝撃だけで視界が揺れた。
耳鳴り。
血の匂い。
粉塵で霞む視界。
その向こうから、重い足音が響く。
ドン。
ドン。
止まらない。
フェリスは震える手でポーチを探る。
指先に触れた小瓶を掴もうとして――滑らせた。
カラン、と乾いた音。
床を転がる回復薬。
足音が止まる。
ゆっくりと見上げると、巨大な影が頭上を覆う
オーガが攻撃をしようと武器を振り下ろしたその刹那
「ホーリーイージス!」
その言葉共にフェリスの前に障壁が展開され守られる
エリシアがやったのである
「フェリスさん!今のうちです!」
フェリスは立ち上がる。回復薬を拾い、息を整えながら静かに薬を口に含む。微かに熱い液体が体内を巡り、傷がふさがる
「これで何とか…動けるはず…」
オリバーたちは相変わらず正面でオーガの注意を引きつけ、ザネスは冷静に剣を構えて柱の軌道を警戒している。
「…ここだ」
フェリスは体力と魔力を極限まで集中させ、風魔法で再び加速。心臓が激しく脈打つ。
オーガの注意が正面に向いている隙に、背後から一気に近づき、剣をうなじへ向けて振り下ろす。
「今度こそ…!」
オーガは気づき咆哮とともに柱を振り回すが、フェリスは風魔法でぎりぎりかわし、剣をうなじに叩き込む。鋭い一撃が決まり、オーガが大きくひるむ。
その瞬間、オリバーとザネスが側面から攻撃を加え、連携でオーガの動きを封じる。エリシアは安全距離から回復魔法でフェリスをサポートし、戦闘の均衡がついに傾き始めた。
オーガが前足を踏み鳴らすたびに床が揺れるが、フェリスは自分の体の限界を意識しつつも、仲間の動きを信じてさらに剣を振るい続ける。
「…もう少し…!」
数度の連続攻撃の末、オーガは膝をつき、地面に崩れ落ちた。迷宮に静寂が戻る。
フェリスは膝をつき、息を整える。傷はまだ残るが、回復薬と仲間のサポートで致命傷は避けられた。
「…ふぅ…これで…終わり…か」
オリバーが笑顔で近づき、エリシアも微笑む。ザネスは深く息をつきながら肩を叩く。
「さすがだ、フェリス。危なかったが、無事でよかった」
「ありがとう、みんな。あとエリシアも…君の防御魔法がなかったら死ぬところだったよ…」
フェリスは体の痛みで顔を顰めながらも口角を上げみんなに感謝をした
それからしばらくしてギルドの扉を押し開けると、依頼達成の報告を待つ冒険者たちのざわめきが聞こえた。フェリスはオリバーたちと一緒に受付に向かう。
「…やっと終わったか」
フェリスは微かに息を整えながらそう呟いた。
「お疲れ、フェリス」
オリバーがにっこり笑う。
「君の動き、見事だったよ。風魔法の使い方も鮮やかで助かった」
エリシアも柔らかく微笑む。「お疲れ様です、フェリスさん。」
ザネスは肩をぽんと叩きながら、「いやあ、フェリスのおかげで死なずに済んだぜ。ありがとな」
フェリスは少し照れくさそうに肩をすくめる。
「みんなのおかげだよ…」
受付のカウンターで報酬を受け取る。銀貨のずっしりとした重みが手のひらに伝わり、やっと現実に戻った気がした。
「じゃあ、ここでお別れだね」オリバーが言う。「またどこかで会えたらいいな」エリシアが微笑む。「次はもっと楽に倒せるといいな」ザネスが冗談めかして言う。
フェリスは軽く会釈を返しながら、少し寂しそうに言った。「あぁ…ありがとう、死なないようにねー!」
オリバーは苦笑いを浮かべ
「見送る言葉がそれなのかい?」
エリシアもクスりと笑う
「不謹慎ですよ、フェリスさん、まぁでも気をつけます」
ギルドの喧騒に溶けていく。
フェリスはしばらくその背中を見送った後、息を深く吸い込む。迷宮での戦い、体力作り、そして仲間との連携――すべてが自分を少しだけ変えた気がした。
「よし、私も…次の一歩を進めるかな」
フェリスは拳を軽く握り、ギルドを出て外の光を浴びた。胸の奥で、小さな期待と不安が入り混じる。けれど確かなのは――もう前に進むしかないということだった。
4話を読んでいただき、ありがとうございます!フェリスが過去の力を取り戻すために、少しずつ戦いながら成長していく姿を描いてみました。今はまだその過程に過ぎませんが、これから彼女がどんな風に自分を取り戻し、どんな力を発揮していくのか…楽しみにしていてください。
彼女の“昔の自分”に関するエピソードが、今後のストーリーにも大きく関わってくるので、応援していただけると嬉しいです!
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次回も楽しみにしていてくださいね。では、また次の話でお会いしましょう!




