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背中の光と心の影

道中、フェリスが森の小道を歩いていると、突如として悲鳴が響いた。


「きゃあっ!」


振り返ると、茶髪の女の子が盗賊に追われていた。小さな体を必死に走らせ、逃げ道を探している。フェリスは眉をひそめる。


「ん......?」


最初は億劫に思ったが、目の前で危険に晒される姿を見て、体が勝手に動く。


「君!大丈夫...!?」


声を荒げ、駆け寄る。足がもつれ、転びそうになる。息は乱れ、頬に汗がにじむ。普段涼しい顔は、影も形もない。


突然、空気が一変した。背後で、刃が光る音が響き、フェリスは反射的に身を低くした。

盗賊が振るった刃は空を切る


フェリスは盗賊の動きを鋭く捉えた。わずかな足音と共に、相手が刃を抜く音が耳に届く。視界の隅で、盗賊が武器を握りしめる瞬間を見逃さない。


その刹那、フェリスは脚を踏み出し、盗賊が振りかざした剣を避けると同時に、右脚を横に振り盗賊の脇腹に一撃を叩き込む。盗賊は痛みで顔を顰めて俯き蹴られた部分を抑える。


盗賊が顔を上げた時にはすでにフェリスの姿はなかった


「どこに行きやがった!」


盗賊は焦りあたりを見渡す。フェリスは盗賊の真上にいてフェリスは体をよじり回転し勢いをつけながら足裏から風を射出してその状態で突進し剣を振り下ろした。そのまま盗賊は胸を裂かれて倒れた。


女の子は息を整えながらこちらを見上げた。


「......あ、ありがとうございます......」


フェリスはふっと息を吐き芝居がかったように言う。

「気にしなくていい、なんてったって私は心優しい人間だからね」


しかし内心は少し温かく、誰かを守れたことに胸が満たされる。


女の子はフェリスの態度に動揺しながらも安心したように微笑む。女の子は薬草を扱うらしく、包帯や薬の入った袋を持っていた。フェリスは軽く会釈し、街道を進む。


フェリスはさっさとその場を離れようとした。少し疲れた足を引きずりながら、街道を歩くその足音だけが静寂を破っていた。


だが、背後から少女の声がかかった。


「待ってください!」


振り返ると、あの薬師少女が必死に駆け寄ってくるのが見えた。少しだけ息が切れているが、顔は真剣だ。


「お礼をさせてください!」 少女はきっぱりと告げた。


フェリスはひとつ大きなため息をつく

「お礼って、別にいいよ。大したことじゃないからさ…」フェリスは肩をすくめ、軽く笑ってみせたが、その表情にはどこか面倒くさそうな色が浮かんでいた。


「でも、本当に助かりましたし、私としては何かお返しがしたいんです。」少女はあくまで真剣だった。


フェリスはしばらく黙って少女を見つめる。


どうしても断りきれないような目をしている。それに、結局は面倒なことを引き受けるのが自分の癖だと自覚していた。


「……わかった。じゃあ、少しだけ付き合うよ、まぁ、何かお礼もらえるならそれでいっか。」


少女は安堵の表情を浮かべ、「ありがとうございます!私はリリィといいます」と嬉しそうに答えた。


「私はフェリス。さっさと行こう。」フェリスはぶっきらぼうに言い歩き出すが、心の中では不思議と少しだけホッとする自分に気づいていた。


しばらく歩くと、小道の奥に小さな家が見えてきた。草木に囲まれたその家は、薬草の香りが漂い、どこか落ち着いた雰囲気があった。フェリスは無言で歩き、少女が先に扉を開けて中へと誘う。


「どうぞ、こちらです。」少女はフェリスを中にへ招き入れた。


家の中は、薬草が並べられた棚と、乾燥した花々が吊るされている一角が目を引く。温かみのある木の家具と、薬草の香りが心地よい。


「お邪魔します、それで、こんなところでお礼をって、何をするのかな…?」フェリスは少し不安げな声を出すが、リリィはにっこりと笑った。


「実は、私が使っている薬草と回復薬を少しあなたにもお渡ししたいと思って。」


「薬草...?」フェリスは目を細めた。


「はい、これからも危険な仕事をされるでしょう?それに、もし傷ついたりしたときに使えるように、役立つ薬草と回復薬を少しだけでも。」


少女は棚から小瓶を取り出し、フェリスの前に差し出す。


「ありがとう、この薬草の詳細とかって…」フェリスは薬草と回復薬を受け取り、 軽く頭を下げる。


「これはですね!北の雪原地帯にある『氷華ひょうか』って言う雪のように白い花びらが特徴的な植物です。これがすごいんですよ!実はこれ、痛みを抑える効能があって、外傷の治療に使えるんです。花の部分を乾燥させて粉末にして、ちょっとした怪我にふりかけるだけで、すぐに痛みが和らぐ、これ、効き目が強すぎて、あまり多く使うと麻痺みたいな状態になるから、量には要注意です。でも、とても便利なんですよ、これで少しでもお役に立てたらと思います。」

リリィの顔は嬉しそうだった。


フェリスはリリィの薬オタクっぷりを見て言葉を失うが内心では何か温かい気持ちが湧いてきたのを感じる。少なくとも、この少女は自分を心から感謝しているのだということは伝わってきた。


「これ、君が戦う時に使うの?それとも、私が使う用かな?」 フェリスは少し皮肉を込めて言ってみた。


「ふふ、もちろん、あなたのためですよ。でも、もし使い方がわからなくなったら、また来てくださいね。」少女はにっこりと笑った。


「うん、わかったよ...。」 フェリスは少し顔を赤くしながらも、頷いた。


フェリスは薬師少女から薬草を受け取った後、「もうこれでお礼は済んだね、またどこかで」と、すぐに次の目的地へ向かおうする。


「じゃあ、私はもう行くよ。君もがんばって。」


「あ...!待ってください!あの... それで... もし、何か困ったことがあったり、どうしても手が必要な時があれば...私の師匠であるおばあさま、イザベルと言うんですけど、城壁都市アズレムにいます。おばあさまは、色々な治療や薬草の知識を持っていて、きっと力になってくれると思います。」


リリィは言いながら、目を少し逸らし、恥ずかしそうに手をもじもじさせた。


「もちろん、いきなり行くのは大変かもしれないけど...もし、何かあれば、どうぞ遠慮なく。私も、できる限り力になるつもりです。」


「本当にありがとうございました、フェリスさん。気をつけて行ってくださいね!」


「うん、じゃあね。」


フェリスは手を振りながらリリィの家を後にした。


それからフェリスが平原を歩いていると道端に馬車が見えてくる。


フェリスは平原を歩いているとふと目にした知り合いの商人の顔に気づく。「あ、あいつか。」


その商人は昔からの知り合いでよく気にかけてくれた存在である


「おぉ!フェリスじゃないか、久しぶりだな!お前が外に出るなんて明日は槍でも降るのかな?」


その商人、イグニスという名の黒髪の若い女は大きな荷物を背負いながら、フェリスに気づいて手を振った。


「私はちょうど別の都市に向かうところなんだ。まあ、どうせ歩いていくのも面倒だろう?私の馬車に乗らないか?次の都市まで運んでやるよ。」


イグニスはフェリスに馬車に乗ることを提案する。フェリスは歩かなくていいことに目を輝かせる


「ありがとう、乗せてもらうよ。いやぁ、悪いね〜」


フェリスは全く悪いと思ってなさそうに言い商人の馬車に乗り込み、フェリスは新たな旅路を進むことになる。


「ついに家から追い出されたのか?」


イグニスは微笑みながら親しげにそうフェリスに問う


「まぁ………成人してから2年経ってもずっと引きこもったままだったし... こうなるのも当然っていうのは自分でもわかってたけど...私、冒険者になったんだよね」

フェリスは少し眠そうにそう言葉を発する

イグニスは驚愕し目を見開く

「お前が冒険者に…!?働く気になったのか!」


驚愕するイグニスにフェリスは少し拗ねる

「そんな驚くことじゃないでしょ…」


イグニスはクスりと笑つ、ふと何かを思い出したように

「あぁ、そうだ、在庫処分品で物を温める魔道具あるからもしよかったら持っていって良いぞ」

「え、いいの?ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて」

フェリスは遠慮せず魔道具を受け取る

フェリスは馬車の中で、ちょっとしたスペースを見つけて先ほどリリィにもらった薬草の入った袋を開けた。手早く取り出したのは、回復草。そのまますり鉢に放り込んだ。


「これでも、少しは使えるだろう...」

薬草を手早くすり潰していく。なんとなく、力を入れて潰すよりも、ひたすらゴリゴリと回し潰す感覚が心地よい。少しずつ粉状に砕けていく薬草の香りが馬車の中に広がり、フェリスは鼻をひくひくさせながら、手にした魔法水を小瓶から少しだけ注いだ。


フェリスは、薬草の香りに包まれながら、祖母に教わった初めての薬草調合を思い出す。祖母は「心を込めて作るのが大事」と優しく言い、失敗しても励まし続けてくれた。ラベンダーの香りが、今でも心を落ち着ける。あの日の温かな手のひらが、今も忘れられない。


「魔法水、少しだけでいいんだよなぁ、効きすぎてもあれだし。」


ほんの少しだけ魔法水を加えた後、再び混ぜ合わせる。ふわりと魔法の力が香りに乗って合わせる。ふわりと魔法の力が香りに乗って立ち上がり、目の前に漂う湯気が少しだけ光って見えた。


「うーん、こんなもんか...」 すぐにすり鉢を先ほどもらった魔道具で温め始める。


数分後、薬草の液体が温まったところで、フェリスはそれを再びかき混ぜる。その後、薬草をすり鉢からボウルに移しボウルを冷水の入った容器に浸けてかき混ぜる。


「冷水に浸けることで、効果が安定するんだっけ...まあ、試しにやってみるか...。」


冷やしながら薬草がどう反応するかを見守る。数分後、薬液が少しだけ透明感を増したことに満足したフェリスは、ボウルを取り上げる。


「さて、どうかな...」


そして、完成したポーションを少し舐めてみる。


「うーん、マズい...けどまだマシかな?」 微妙な味だが、確かに回復の効果はありそう

だと感じた。少しだけ満足そうにしながら、フェリスはそのポーションを小瓶に詰めて、再び自分の鞄にしまった

フェリスが薬の後味に顔を顰めているとある都市が見えてきてイグニスが声を発する


「そろそろ着くぞ、あれが流水都市ネレイドだ!」


フェリスとイグニスは都市の門に近づいた。


街道沿いの雑踏の中、どこか浮き立った雰囲気が漂っていたが、彼女はあまり気にせず、ただ早くこの騒がしいところを通り過ぎたかった。


けれど、街の広場に差し掛かると、どこからともなく大きな声が聞こえてきた。


「おい、見ろよ!あれだ、あれ!」


「まさか、ほんとうに来るとはな!」


「やっぱり勇者一行だ!見に行こうぜ!」


その言葉が耳に入った瞬間、フェリスは思わず足を止めた。ああ、またか、という気持ちが湧く。騒ぎ立てるのはいつもこういうときだ。


それに――


彼女の胸の奥が、急にざわつき始めた。


まるで誰かが見ているような視線の圧が、体を締め付ける。


「また、こういうのか......」


その瞬間、フェリスは自分でも気づかないうちに、呼吸が浅くなっていた。


こんなことで息が苦しくなるなんて、馬鹿みたいだと思う。


けれど、誰かに視線が集まる光景を見るとどうしても胸が締め付けられる。


彼女は意識的に息を吐き出し、逃げるように背を向けた。


しかし、気づけば足は自然と広場に向かって動いていた。何か面白いことでもあるのか?


大したことはなさそうだが、気になる気もする。


「ほんとに来るのか、あの勇者アリエルってやつ!」


「でも、あんなに派手な連中がやって来るなんてな...」


フェリスは野次馬たちが集まる場所を目指して歩き出した。数人がやりとりをしているうちに、もう広場はすっかり人だかりで埋め尽くされていた。フェリスはその中を抜けていく。


「ちょっと、そこの君!邪魔だよ!」


野次馬に肩をぶつけられそうになったが、フェリスは気にせず突き進んだ。どうせ一瞬で 流れは変わるだろうし、今はただなんとなく、その場の空気を感じてみたくなっただけだった。


広場の中央には、確かに目を引く一団がいた。黒髪で背中に届くほどの長い髪の美少女が、周囲にたくさんの目を引き寄せている。その姿を見て、フェリスは呆然とした顔で首を傾げる


「この人たちが勇者一行...噂によると私と同い年だとか…」


その少女の周りには、水色の髪の魔法使いの少女と、赤髪のポニーテールの剣聖の少女が一緒に立っていた。どれもが見目麗しく、明らかに目立つ存在だ。


「おおっ、こっちだ!」


「おい、こっち見ろ!」


近づくにつれて、ますます人々の興奮が高まり、まるで祝典のような雰囲気になってきた。勇者一行はあまりにも有名で、どこへ行っても注目の的だ。その華やかな姿に、フェリスは一瞬だけ自分の心がふと揺れるのを感じた。


人々が勇者一行に向ける期待、羨願、憧れ、嫉妬その全てがフェリスの気を動転させる


「あんなに注目されてる...」 フェリスは心の中でため息をつきながら、周囲の熱気を憂鬱に見渡していた。どこかひねくれたようなしかしどことなく恐れている気持ちで、彼女は背を向けイグニスのもとに戻る


だが、それもすぐフェリスは心の中でため息をつきながら、周囲の熱気を憂鬱に見渡していた。


どこかひねくれたような気持ちで、彼女は背を向けイグニスのもとに戻る。


フェリスは馬を撫でてるイグニスの前に立つ

「ありがとう、乗せてくれて」


イグニスはフェリスがそういうところだけはしっかりしてることにクスりと笑い


「フェリス、せっかく来たんだから観光でもしないか!」


イグニスは目を輝かせて提案した。


「観光か...」 フェリスは少し考えた後、肩をすくめた。「まあ、せっかくだしね...」


イグニスは満面の笑みを浮かべて、嬉しそうに歩き始めた。フェリスもそれに合わせて歩きながら、周囲をぼんやりと眺めた。流水都市は、運河を利用した独特の景観が広がっており、流れる水の音とともに、街の喧騒が心地よく響いていた。


「まずは、ここだ!」 イグニスが指差したのは、大きな市場だった。色とりどりの果物や珍しい食材が並べられ、商人たちが活気に満ちた声を張り上げていた。


「何だか、賑やかだね。」フェリスはぼんやりとその光景を見ながら言った。


「あぁ、ここの市場は、特に新鮮な魚や野菜が有名なんだ。もし良かったら、何か買って行かないか。」


「いや、別に...。」 フェリスは苦笑いを浮かべる。「魚介類はあまり好きじゃないから、いらない。」


「そうか...じゃあ、私は少しだけ買っておくよ」 イグニスは全く気にせず、市場の人々と楽しそうに話し始めた。フェリスは、そんなイグニスの姿をしばらく見守っていた。


「ほら、これ買ったんだ!これがここの特産品、『金魚のぬいぐるみ』だと。」


イグニスが手に取ったのは、丸い金魚の形をしたぬいぐるみだった。鮮やかな色合いと可愛らしいデザインに、フェリスは思わず小さな笑みを浮かべてしまった。


「そんなの、どこに飾るの?」 フェリスは少し冷やかすように言う。


「家に飾るんだよ!だって、可愛いじゃないか。」イグニスはぬいぐるみを大事そうに抱えながら、嬉しそうにそう答えた。


「ふーん...君は...意外とそういうのが好きなの?」 フェリスは少し照れくさそうに横を向きイグニスにそう問う。フェリスは普段からこうした"可愛い"ものに興味が薄いが、イグニスがあまりにも楽しそうで、その姿が少しだけ心温まるものに感じられた。


「じゃあ、次は...」 イグニスが元気に声をかけてきた。「あそこだ!」


フェリスが目を向けると、そこには広大な庭園が広がっていた。池には蓮の花が咲き、周囲には古い石造りの橋が架けられている。全体的に穏やかな雰囲気が漂っており、そこにいるだけで心が安らぐようだった。


「うわ、綺麗...」 フェリスは少し驚いた様子 でその景色を見つめた。


「だろう?」 イグニスが嬉しそうに言った。


「この庭園、特に朝日が昇るときが一番美しいんだ。フェリスも、早起きしてみるか?」


「いや、それは...」 フェリスはすぐに首を振った。「寝たいし、無理だよ。」


「そうか、じゃあまた今度だな。」イグニス はにっこりと笑って歩き始めた。その笑顔に、フェリスは少しだけ気持ちがほぐれるのを感じた。


「そういえば...」 イグニスが急に立ち止まって振り向く。「フェリス、こうやって一緒に観光するのは楽しいな。」


「は?」フェリスは少し驚いた顔でイグニス を見た。


「観光って... 別に楽しいわけじゃないけど。」


「そうか?でも、こうしてゆっくり歩いてるのも悪くないなって思ったんだ。」イグニスは少し恥ずかしそうに笑って言った。


「別に、そうだね。」フェリスは照れくさそうに顔を赤らめて肩をすくめた。「まあ、悪くないけどさ。」


その後も、二人はのんびりと街を歩きながら、少しずつ歩調を合わせていった。フェリスは最初は面倒そうに思っていた観光も、イグニスの明るい雰囲気に自然と引き込まれ、心地よい時間を過ごしている自分に気づいていた。


「さて、そろそろ次の目的地でも行こうか。」イグニスが言った。


「うん、行こう。」フェリスは少しだけ気を 取り直すように頷いた。日差しが少し強くなってきたけれど、その空気はどこか温かくて、穏やかな気持ちに包まれていた。

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