引きこもり少女は世界を巡る
はじめまして! 本作『怠け者少女はちょっと頑張る』は、主人公フェリスが冒険を通じて成長していく物語です。少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! ご意見・感想をいただけると励みになります。よろしくお願いします!
朝日がゆるやかに差し込む部屋の中で、17歳の白髪の少女フェリスはベッドに寝転がり、天井をぼんやりと眺めていた。まぶしい光も、耳に届く鳥の声も、彼女のやる気には関係ない。指先で布団を軽くつまみながら、小さくため息をつく。
「今日も......何もしたくないな。」
彼女の心はすでに一日の半分をサボることに費やされていた。身支度も面倒、朝食も面倒、ましてや働くなんて考えられない。それでも、このだらけた空気を破る存在はすぐに現れる。
「――いつまで寝てるの!」
母親が怒声とともに部屋のドアを開ける。手には雑誌と封筒が握られ、眉間に深い皺を寄せている。
「何やってるの!いい加減にベッドから出なさい!仕事探せって言ったでしょ!」
フェリスは手でお腹を抑えて絞り出すような声を出して演技をする
「最近体調がすごく悪くて、ちゃんと外に出られるような状態じゃないんだ。今は治療中で、回復したらもっと働けると思うから、ちょっと待ってくれないかな…?」
母親は顔を真っ赤にして怒鳴る
「あなた昨日ご飯いっぱいおかわりしてたくせに何言ってるの!」
フェリスは眠そうに目を擦る
「うるさいな.......働きたくないけど...でも、仕方ないか、前々から言われてたし…」
仕方なくベッドから体を起こし、 布団を蹴飛ばして歩き出すと、母親の視線が背中に突き刺さる。
フェリスは母親から雑誌を受け取り求人を見る。
フェリスは机に広げた求人広告の束を、ため息をつきながらめくっていた。そこにはパン屋や酒場、農場の仕事の募集が並んでいる。どれも一度は目を通したが、どれも彼女の理想には程遠かった。
「パン屋…早朝からだし、毎日決まった時間に起きないとだめだよね…」
フェリスはは指で広告の端を押さえ、少し顔をしかめる。早朝に起きて、毎日同じ時間に店を開けることに魅力を感じられなかった。
「酒場…夜遅くまで働いて、朝も早いのか…それじゃあ、寝不足になるじゃん。」
酒場の求人広告を見ながら、彼女は再びため息をつく。夜遅くまで働くのも彼女には向いていない気がしていた。
ページをめくるたびに、彼女の目に留まるのは「定時」や「早朝出勤」といった言葉ばかり。それらの仕事はすべて、彼女が避けたい「決まった時間に起きなければならない」という束縛がついてきた。
そして、最後に目に入ったのは、冒険者の募集広告。そこには「自分のペースで働ける」「時間に縛られない」「自由な生活」といった言葉が並んでいた。
「…冒険者?」
フェリスはしばらくその広告を見つめた。確かに、冒険者は一般的には危険な仕事だが、これならば自由に動けるし、寝坊しても誰に文句を言われることはない。どんな時間でも自分の都合で動ける、唯一の仕事かもしれない。
「…これにしようかな…。」
決まった時間に縛られず、自分のペースで生きられる冒険者。それが一番の自由を手に入れる方法に思えた
母親はフェリスの言葉を聞いた瞬間怒鳴る
「そんなのダメに決まってるでしょ!」
フェリスは眉を下げた気だるげな顔を浮かべ
「えぇ、でもこのまま引きこもってるよりマシじゃない?私そこそこ強いし大丈夫だよ」
「確かにあなたは昔から才能があったわ。でももし何かあったらって考えると…」
母親は泣きそうな声でそう言った
「わかったわ…あなたが本気なら…でももし何かあったら…!すぐ…」
母親が言い終わる前にフェリスはこくりと頷く
「わかった、もし何かあればすぐに帰る」
フェリスは家を出て冒険者登録所に向かう
フェリスが住んでいる都市ファルドレインは山脈の近くにあり、鉱物資源や狩猟が盛んで、商人たちが集まる市場が大きい。冒険者が最初の依頼を受けるために集まる場所としても有名である
フェリスは冒険者登録所に入るのを迷い扉の前でぐるぐる回る。周りの人たちからの視線を浴びせられたらと考えると怖いし内心では働らかずに家でダラダラしていたいと思っているが覚悟を決めて扉を開ける。
フェリスは小さな建物の扉を押すと、中は木の香りが漂い、壁には依頼掲示板がぎっしりと並んでいた。先客の冒険者同士で笑いながら話す者、黙々と依頼を検討する者など様々だ。受付には帽子を深くかぶった若い女性が座っていた。受付の女性が穏やかに手招きする。
「登録は初めてですか?」
「はい…初めてです…」
フェリスはどこか不安げに答える。手続きは簡単で、必要事項に名前と年齢を書き込み、冒険者証を受け取ると、もう立派な冒険者だった。
「お疲れ様です、これで登録は完了です。次に、等級についてご説明しますね。」
受付の女性はフェリスを不安にさせないため穏やかな笑みを浮かべ優しく説明する
「冒険者には等級があります。最初は「白瓷』から始まり、依頼をこなすごとに等級が上がります。例えば、最初は簡単な依頼ばかりですが、次第に難易度の高いものが回ってくるようになります。」
「等級は『白瓷』から『白金』まで。『白金』の等級は、女神様に選ばれた勇者などの伝説級の冒険者が与えられる最高の等級です。『金煌』が英雄級。「銀澄」は一般的な騎士団長ほどの猛者級。
「銅鉄」は小国レベルの戦力。『赤焰』は都市防衛戦参加可。『青霧』が一般騎士程度。『緑翠』は初心者冒険者。『白瓷』は初級冒険者〜一般人程度。銀や銅の等級が実質的な最高の等級です。まずは、小さな依頼から始めて、経験を積んでいきましょう。」
フェリスは依頼の紙が貼られてる壁の前に立つ
「『荷物運び』。初めはとりあえずこれにしようかな...」
「荷物を運ぶだけの簡単な仕事。冒険者って魔物倒すとかのもっとかっこよさそうな仕事ばかりだと思ってた。」
受付の若い女性が静かに微笑みながら、フェリスに向かって手続きを促す。
「最初の依頼は簡単で、町の商人さんが頼んでいるんですよ。すぐ終わるかと思いますが。」
体を動かすのはあまり気乗りしないが、彼女はあっさりとその仕事を受けることにした。
荷物を運ぶなんて、冒険者としてはどう考えても面白くない。だが、今は「面倒くさいことは全部後回し」というスタンスで行こうと決めている。
依頼の内容は、町の外れにある商人の家まで商品を運ぶこと。道を歩きながらフェリスは心の中で愚痴をこぼす。
「こんなの、本当に冒険者の仕事?こんなに簡単に済むんだったら、何でわざわざ冒険者登録なんてしたんだろう...」
目的地に着くと、商人の家は古びた一軒家で、荷物を渡すとすぐに商人が感謝の言葉を述べる。
「ありがとうございます!助かりました」
「どういたしまして」
フェリスはぶつぶつ言いながらも、手を振り、町へ向かって歩き出した。しかし、歩きながらも心の中では次第にある考えが浮かんできた。
「こんな地味な仕事、続ける気にはなれないな。だったら、いっそのこと冒険者として、もっと面白いことしてみるか...」
本当はすぐにでも寝たかったが、このまま何もせずに一日を過ごすのも耐えられない気がしてきた。何か新しいことを始めるのは面倒だが、何もしないのももっと面倒くさい。結局、フェリスは再び冒険者登録所に向かうことに決めた。
「どうせやるなら少しは面白ければいいな…」
登録所に到着したフェリスは、再び受付の女性に声をかけた。
「さっき荷物運びの依頼を受けてきたんですけど...やっぱり冒険者って、戦うだけじゃないんですね。」
女性はにっこりと微笑みながら答える。
「はい、冒険者の仕事には様々なものがあります。けれど、最初から戦闘ばかりでは面白くありませんし、少しずつ慣れていくものです。」
「うーん、面倒くさいけど、ちょっとだけ頑張ってみようかな。どうせなら、冒険者っぽい仕事をしてみたいし。」
フェリスはそう呟きながら、手続きを進める。依頼を受けた後、何となく自分が「冒険者」になったような気がして、ほんの少しの誇らしさを感じた。しかし、次の瞬間、また心の中でため息をつく。
「まあ、とりあえず、やってみるか。」
その日、フェリスは冒険者としての第一歩を踏み出すのだった。
最初の討伐依頼は、近くの森に出る魔物の討伐。小さな依頼だ。フェリスは森へ向かう。
森に入ると、突如として魔物が迫る。
フェリスは風魔法を巧みに操り、風が彼女の周りを包み込む。推進力を生み出し低く構えた体勢から瞬時に駆け出し、右手の剣を振り下ろす。青い雨のように美しく光る刃が空間を切り裂き、ゴブリンを無慈悲に斬り刻む。次の瞬間、彼女は、1本の剣を抜き、二刀流の戦闘に変わる。空中を機動して色々な方向から剣を振り3次元的な動きでゴブリンたちを高速で切り裂きながら舞い降り、反応する暇さえ与えない。ゴブリンたちはただ、フェリスの動きについていけず、鮮血を噴き出し次々と屍を晒した。
しかし呼吸が乱れ剣を早く振ったことで手が痺れる
呼吸を整え、倒れた魔物を見下ろしながら、 フェリスは肩を軽く回す。
「はぁ……はぁ…これで終わりか。あんまりちょろくなかった…運動不足かな…魔力操作も結構衰えてたし…昔はもっと…」
依頼報酬は驚くほど少なかった。宿に帰ると、木製の簡素な机の上に小銭が置かれているだけだった。フェリスはため息混じりに悪態をつく。
「えぇ......これじゃあ、一晩宿に泊まるくらいしかできないじゃん、まぁ白瓷の依頼なんてこんなものか...」
布団に倒れ込むと、天井を見つめながら考えた。
フェリスがまだ子供だったころ、彼女は毎晩、父親の膝の上で眠る前に聞かされる冒険譚を楽しみにしていた。 どこか遠い国の英雄たちが、巨大なドラゴンを倒し、世界を救う物語に胸を膨らませ、彼女は夢見ていた――いつか自分も、そんな冒険者になりたいと。
朝焼けに照らされた町の広場を駆け回る冒険者たち、魔法の杖を振るい、剣を振るう仲間たち。彼女の目にはそれが全て、光り輝くものとして映った。どんなに辛い試練があろうと、勇者たちはきっと笑顔でそれを乗り越え、旅を続けるのだと信じていた。
だが、現実はどうだろう。成長するにつれ、 物事はすぐに「億劫」と思うことが増え、冒険者になるどころか、安定した生活をするための仕事すら面倒だと感じるようになった。
かつての輝かしい夢は、どこか遠くに放り投げられて、彼女の心の中で埃をかぶっていく
それでも、ふとした瞬間に、あの頃の冒険
が脳裏に浮かぶことがあった。あのワクワク する気持ち、世界を駆け巡る自由、そして前よりも、どこかに「自分の居場所」を見つけられるような気がしたあの感覚一ー。
面倒だと思いながらも、その感覚を追いかけたくて
フェリスはついに足を踏み出す決意をする。
「そうだ……せっかくだし、町に留まるんじゃなくて色々なところ旅してみよう。そしたら、こんなつまらない冒険者業も少しは面白くなるかも……」
捻くれた考えを胸に抱きつつ、フェリスは眠りに落ちた。
翌日、街でポーションやら保存食、水などの簡単な買い物を済ませ、荷物を背負って街の門をくぐる。風が髪を揺らし、遠くの山々が朝日に照らされて輝いていた。
母は顔を覆い、堪えきれずに泣き出す。
「……絶対に生きて帰ってくるのよ」
「…うん」
フェリスは少し顔をほころばせる。
「さて......行くか」
こうして、自由気ままに旅をする少女の冒険は始まった。
めんどくさがりな彼女の旅路は、これから少しずつ彩りを増していくのだった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました! 本作が少しでも楽しんでいただけたなら幸いです、また見かけたらぜひチェックしてくださいね。感想やアドバイスをいただけると嬉しいです!




