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神器も世界樹も神獣卵も買った。あとはゲームが現実になるのを待つだけ  作者: 狐白
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第84話

  ◇


  ◇


  ◇


  星空の下、少年少女たちが焚き火を囲んで座っていた。


  夏の夜の川辺。蛙のかすかな鳴き声と、焚き火の中ではぱちぱちと薪の爆ぜる音が重なる。子供たちの瞳には、星の光が映っていた。


  「それで……そのあと、どうなったの?」


  「その悪いラスボスをやっつけたあと、彼女はどこへ行ったの?」


  「おうちに帰れたの?」


  子供たちの問いかけを受けて、女はほんの少しだけ遠い目をした。


  「そのあと、か……」


  「由衣、もうすぐ着くよ」


  不意に聞こえた声が、その小さな物語の時間を断ち切った。


  女――由衣は、申し訳なさそうに子供たちへウインクする。


  「どうやら、今日のお話会はここまでみたい」


  「ええーっ!? ちょうど一番いいところだったのに!」


  子供たちが一斉に抗議の声を上げる。


  「大丈夫。だって、この先の物語は――もう私が話す必要なんてないの」


  「えっ??」


  「みんな、自分の目で見てちょうだい」


  


  ◇


  ときどき、昔のことを思い出す。


  そこには魔法なんてなかった。


  ダンジョンもなかった。


  剣聖もいなければ、エルフもいない。


  冒険者も、プレイヤーもいなかった。


  だけど。


  そこには、最後まで過ごせなかった高校生活があった。


  私が本来送るはずだった、平凡な人生があった。


  「また後悔してるの?」


  背後から、ひんやりとした声が降ってくる。


  私はため息をつき、それからわざとらしく顔をしかめて振り向いた。そして、いかにも事務的で投げやりなNPC口調で言い放つ。


  「尊き冒険者様、ABCDEFGクエストのクリア、おめでとうございまーす。報酬を受け取ったら、とっとと帰ってもう私に話しかけないでくださーい」


  目の前にいるのは千夏と燈里。


  ただし、SEEKER世界の住人たちと違って、二人の頭上には名前と称号が表示されている。


  そう。SEEKERは再び、ただのありふれたオンラインゲームに戻ったのだ。だから、そこまで悪い話でもない。


  毎日、仕事や学校が終わる時間になると、地球から大勢の“冒険者”たちがログインして、この世界へやって来る。


  うん……やっぱり、自分の意思でログインしてこそゲームって楽しいんだよね。


  「はいはい! もうハグモーション申請を送ってこないで! ポップアップで画面全部埋まってるんだけど! うっとうしい!」


  私は千夏から飛んでくるハグ申請を一つずつ閉じていく。


  ははは! この子、もう二度と私を窒息させられないね!


  ……でも、何かが少し足りない気もする。


  「その杖しまって! まさかこのゲーム最強の【世界の主】に喧嘩売るつもり? んー?」


  私は腰に手を当てる。


  きっと向こうのモニターには、ずいぶん間抜けなドアップが映っていることだろう。


  ただ、もしこのままもう一発でも攻撃されたら、ワールドボスの登場演出が始まってしまうかもしれない。


  「そんなことしないよ。だって、そっち好感度MAXじゃん」


  千夏が容赦なく暴露した。


  「……」


  くっそ! この好感度システム、本当に余計!!


  「元気ないの?」


  千夏は小さな椅子を二つ取り出して、私の隣に腰を下ろす。


  それから、自分の横の椅子をぽんぽんと叩いた。


  ……仕方ない。


  私も彼女の隣に座る。


  そんなこと、一度も口にしたことはない。


  なのに、この子たちには、まるで隠しきれない……


  私は、たしかに少しホームシックになっていた。


  しかも、時間が経つほど、その想いはどんどん強くなっている。


  画面越しだと、どうしても何かが足りない。


  二人のゲームキャラはいつも木偶みたいに無表情で、喋り方もどこかぎこちない。


  向こうで日常の話をされても、私はそこにうまく入っていけない。


  どれもこれも、あまりに遠い。


  それに――


  私はもう、二度と帰れないのだ。


  「実はね。あの日、あなたがいなくなったあと、世界はまたたくさん変わったの」


  千夏の声には、電子音めいた歪みが混じっている。頭上の吹き出しには、彼女の言葉が文字になって浮かんでいた。


  「SEEKERは分離したけど、魔法の根本原理とか、まるで違う世界法則とか……そういうものが人類の視野をすごく広げたんだ」


  「量子物理学もどんどん大きく進歩したし、魔法のおかげで人の暮らしもすごく変わったよ。いろんなことが、前よりずっと便利になったし……」


  魔法のある地球。


  想像するだけで、胸が高鳴る。


  一度でいいから、見てみたかった。


  「そんな話、私にしてどうするの」


  私はむっとして顔を背ける。


  「前にも聞いたし。それに……私は見られないんだから」


  「それはどうかな~?」


  「はいはい、分かってる。どうせまた画像でもアップロードする気でしょ」


  「違うってば!」


  千夏がぴょんと跳ねて、私の目の前へ回り込んだ。


  そのまま身体で視界をふさぐ。


  「? 何する気?」


  「目を閉じて、心の中で三つ数えて」


  「……もったいぶるなあ」


  私はため息をつきながら、仕方なく目を閉じてやる。


  三。


  二。


  一。


  ゴゴゴゴゴゴゴゴ――


  突然、空の彼方から凄まじい轟音が響いてきた!


  私はけだるげに目を開ける。


  「また禁呪で花火でも打ち上げたの? あんた――」


  そのまま、空を見上げたまま固まった。


  あれは……


  何……?!


  ゴゴゴゴゴ――!


  空を覆い尽くすほど巨大な鋼鉄の戦艦が、大気圏を引き裂きながら、SEEKER世界全体へ圧し掛かるように降下してきていた!


  艦の外縁は空気との摩擦で真紅の炎をまとい、巨艦の影は王国の大半を飲み込んでいる。


  真昼の青空が、その巨体に遮られた瞬間、一気に夜へと変わった。


  空に残るのは、戦艦の動力炉が放つ蒼い輝きと、摩擦熱が生む烈火の光だけ。


  各国からの通信は狂ったように鳴り響き、無数の王たちが状況確認のメッセージを飛ばしている。


  まるで終末みたいな光景だった。


  私は口をぽかんと開ける。


  「宇宙戦艦!?」


  「SEEKER、SFゲームになっちゃったの!?」


  その瞬間、SEEKER世界の人々はみな一斉に空を見上げていた。


  恐怖に染まった目で、その鋼鉄の空を見つめている。


  まるで、かつてSEEKERが地球へ降臨した日のように。


  そして私は今、その鋼鉄の空の真下にいる。


  このときの気持ちは、もう言葉ではうまく言い表せない。


  いや、作風変わりすぎでしょ!?


  ツッコミを入れようにも、どこから突っ込めばいいのか分からない。


  世界中が恐慌に包まれた、そのとき。


  不意に、全員の目の前へシステムウィンドウが弾けるように表示された。


  【警告!!!】


  【……っていうのは嘘。騙された? ちょっとした仕返しだよ。だって昔、そっちも毎日システム通知で私たちを脅かしてたでしょ】


  【みなさん安心してください。私たちは、実はもうずっと前に会っています】


  【こちら、地球・深宇宙探査隊】


  【艦長・燈里、副艦長・千夏よりご挨拶申し上げます】


  私は愕然として振り返る。


  そこで初めて、千夏の唇がかすかに動いていることに気づいた。


  今の告知――千夏が出したの!?


  ガコン――ウゥゥゥン――


  空で、鋼鉄の巨獣のような艦の扉がゆっくりと開いていく。


  次の瞬間、一本の光が私の前へ降り注いだ。


  「はーっ、この便、マジで長旅だったわー」


  白夜は着地するなり、これでもかというくらい大きく伸びをした。


  「いやほんと、長かったよ……うちなんて息子と娘、もう四歳だし」


  由衣と恒一の後ろには、二人の小さな子供が立っていた。きらきらした目で、ひょこっと顔を出しながら私を見ている。


  そして――燈里と千夏。


  「ぶふっ――」


  って、この子……力、また強くなってない!?


  人を抱きしめるのに粉砕骨折を目標設定しないでくれる!?


  死ぬ!


  ちょ、ほんとに……死ぬ――!


  誰か助けて!


  「まあ、要するに」


  燈里が眉を軽く上げる。


  「あなたが地球へ帰れないなら」


  「私たちが地球ごと持ってくればいいって話よ」


  「……」


  千夏がさらにぎゅっと抱きしめる。


  涙が私の肩を濡らしていく。


  「連れて帰るって言ったでしょ! 絶対に約束は破らない!」


  「ばか凪緒!」


  「私たち――家を……」


  「持ってきたよ!」


  


  ◇◇◇


  (完)


 感謝ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。


 実は私、海外の作者でして、日本語がまだ得意ではありません。

 そのため、毎回原稿を書き終えたあと、2〜3時間ほどかけて翻訳や調整をしてから投稿しています。更新が遅くなってしまうこともあり、その点については本当に申し訳なく思っています。


 執筆を続ける中で、皆さまからたくさんのご指摘やご意見をいただき、日本語についても少しずつ学ばせていただきました。


 たとえば、擬音語は「」の中に入れないほうがいいことや、キャラクター同士で名前を呼びすぎないほうが自然なこと、初登場のキャラには読み方を添えたほうがいいことなど……。

 毎日のように新しい落とし穴に出会っては、慌てて前の話を修正する日々でした(笑)


 コメントをいただけるのはとても嬉しいのですが、語気を間違えてしまうのが怖くて、顔文字でしか気持ちを表せなくて……。

 日本語、本当に難しいですね……!


 それでも、これからも日本語を勉強しながら、皆さまと一緒にこの世界で冒険を続けていけたら嬉しいです。


 次も、引き続き甘めの百合ものになる予定です。

 明日の同じくらいの時間に投稿できればと思っています。


 最後になりますが、ここまで読んでくださり、そして拙い日本語にも温かく付き合ってくださった皆さまに、心から感謝いたします。


 新人作家の狐白でした。

 (実は自分でも日本語での正しい読み方がまだ分かっていません……笑)

 これからも、どうぞよろしくお願いいたします。


 ٩(ˊᗜˋ*)و✧

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― 新着の感想 ―
異世界に残ったのか! 地球側の技術の発展が凄いですね どのような経緯で残ったのか、(案外抱きしめられた時に間違えて「はい」を押してしまったとかありそうですがw) 前回ラスボスで裏切った奴等が現世でど…
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