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神器も世界樹も神獣卵も買った。あとはゲームが現実になるのを待つだけ  作者: 狐白
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第82話

 七秒。


 第一フェーズから第二フェーズへ移行するまでの時間。


 そして第五フェーズに入るまでの間で、〈災厄の源〉の心臓が唯一露出する瞬間でもある。


 たった七秒。


 どれほど強力なパーティであろうと、この七秒で心臓に十分なダメージを与えることはできない。


 このわずかな時間に全力で心臓を攻撃したところで、MPを無駄にするだけだ。


 理性ある攻略者なら、そんなことはしない。


 だが――


 もう待ちたくない。


 本当に、もう待ちたくない。


 試してみる。


 【領域スキル・新世界の樹】を発動すると、範囲内の時間の流れが遅くなる。


 そこに時間神の神器の権能を重ねる。


 さらに、HPとMPを注ぎ込むことで攻撃威力を増幅させることもできる。


 もしかしたら……チャンスはある。


 呼吸を整え、ゆっくりと弓弦を引く。


 計算が間違っていなければ。


 〈災厄の源〉の強度に変化がなければ。


 必要なのは、ただ一矢。


 一矢だ。


「終わって……」


「お願い……終わって……」


 世界を滅ぼしかねないほどの一撃が、私の手から放たれる。


 けれど、格好いい呪文もない。


 処刑を宣言するような言葉もない。


 喉の奥から絞り出された声は――ただの懇願だった。


 疲れた。


 頭の先からつま先まで。


 身体も、魂も。


 全部、全部……もう限界だ。


 本当に、長すぎた。


 十一年だ。


 あまりにも多くの見慣れた顔が、この世界から消えていった。


 仲間。


 英雄。


 希望。


 そんなものに、いったい何の意味があったのか。


 もう、分からない。


 何も感じない。


 ただ、終わらせたい。


 〈災厄の源〉でもいい。


 それとも、私でもいい。


 どちらでもいいから――終わってほしい。


 白夜がどこに隠れているのかも知らない。


 燈里が彼とどんな約束をしていたのかも知らない。


 私は、ただ計画通りここに立っているだけだ。


 矢が弦を離れた瞬間。


 すべてが終わる。


 〈災厄の源〉が終わるか。


 それとも――私が終わるか。


 全てのMPとHPが一瞬で吸い尽くされる。


 残ったのは、かろうじて生存を保つための1ポイントだけ。


 そして私は、ぼんやりと空を見上げながら、その場に崩れ落ちた。


 新世界の星々が、空を引き裂いたかのように広がっている。


 深淵のような星空。


 まるで魂ごと吸い込まれてしまいそうだった。


 私は、静かに目を閉じる。


「お願い……」


「急すぎるのは分かってる……でも、私は……もう……」


「本当に、精一杯やったんだ……」


「この一矢で……」


「終わって……」


 ◇


 それは、世界を貫く一矢だった。


 白夜は呆然とその矢を見つめていた。


 実況をすることも忘れ、思考すら止まっていた。


 落ちてくる太陽のような白い光が弾け、


 次の瞬間、世界はすべて白に塗りつぶされた。


 目に激痛が走る。


 一瞬の失明。


「な、何が……何が起きたんだ?!」


「いきなり全力かよ?! たった一瞬のチャンスだったのに……大胆すぎる……!」


「終わったのか?! くそっ、何も見えない! 誰か教えてくれ、成功したのか?!」


 失明解除のポーションを飲み込んでも、視界はなかなか戻らない。


 今回のスキル威力は、燼天と戦ったときの数十倍はある!


 凄まじい衝撃が正面から叩きつけてくる。


 このスキルは爆発ではなく“貫通”が本質だ。


 だが、その貫通による空気振動だけで十分だった。


 白夜の身体は、簡単に吹き飛ばされる。


 ドンッ――!


 岩壁に激突した。


「くそっ……!」


「……成功したのかよ?!」


 ブゥン――!


 爆発は終わっているはずなのに、


 見えない波紋がもう一度空間に広がった。


 空に、巨大なシステムウィンドウが出現する。


 しかしそれは、攻略成功の報告ではなかった。


 呼吸が止まりそうになるほど不吉な、


 真紅の文字。


 次の瞬間。


 耳をつんざく警報が、地球全土に鳴り響いた。


【警告! 災厄の源が致命的ダメージを受けました。降臨進行を前倒しします】


【SEEKER降臨進行率……56%……66%……78%……89%……】


【……100%!!】


【世界アンカー未解除のため、世界分離に失敗】


【3時間後、災厄の源が再生】


【SEEKERと地球は永久融合】


【カウントダウン 2:59:59】


 世界アンカー……すべて解除?


 私は地面に崩れ落ちたまま、その表示を呆然と見つめていた。


 確かに私は、これまでのアンカー任務をすべて達成していた。


 けれど――


 さっき突然、降臨領域がさらに58%拡大した。


 数十、いや百近いアンカーが新しく出現している。


 全部解除できるわけがない。


 三時間。


 たった三時間。


 終わった。


 完全に終わった。


 ここまで来て、すべて無駄だった。


 避けられないのか?


 この世界は……やっぱりあの未来へ進むしかないのか?


 残酷な戦争。


 人が人を食い尽くす現実。


 あの地獄が――


 ついに降臨するのか?


 どうして?


 どうして〈災厄の源〉なんて存在する?


 どうして世界融合なんて起きる?


 誰が――


 この世界を奪おうとしている?


 カチ……カチ……


 〈災厄の源〉の心臓は、完全に粉砕されている。


 残っているのは、あの神像だけ。


 だが、その胸部から――


 規則正しいカウントダウン音が聞こえてきた。


 心臓があった場所に、タイマーが表示されている。


 同時に。


 胸腔から、木質の植物が伸び始めていた。


 見覚えのある植物。


 それが絡み合い、再び心臓の形を作っていく。


 邪悪さはない。


 災厄の気配もない。


 そこにあるのは――穏やかな生命力。


 私は手の中の弓を見る。


 世界樹の弓。


 木目も、流れるエネルギーの気配も、


 完全に同じだった。


 頭の中で、何かが弾ける。


 ……世界樹?


 〈災厄の源〉は――世界樹そのものだった?


 だからアンカー任務を達成するたび、


 世界樹の弓が成長していたのか。


 アンカーとは、


 二つの世界の根を繋ぎ止める楔だった。


「……ようやく……気づいたか……」


 神像の胸から声が響く。


 ひどく弱々しい声。


 だが、そこには露骨な嘲笑が混じっていた。


「あなたは……SEEKER世界の樹?」


 木が……喋っている?


「我……寿命が尽きようとしている……ゆえに……」


「お前たちの……世界樹の力が……必要だ……」


「だから、世界を奪うの?!」


「……寄生虫の意見は……考慮しない……」


「寄生虫?」


「汝らは……ただの寄生虫だ……」


「我の葉に住む……」


「数十年ごとに入れ替わる……」


「なぜ……配慮する必要がある?」


「……」


 私はカウントダウンを見つめた。


 全身から力が抜けていく。


 すべて分かった。


 全部の答えが、やっと分かった。


 でも――


 分かったところで、何になる?


 三時間しかない。


「ここまで来たのは……立派だ」


「だが……無意味だ」


 声は嘲笑していた。


 三次元の存在が、


 二次元の紙の上でもがく棒人間を眺めるように。


 私は地面に座り込んだ。


 カウントダウンの音が、耳の奥で規則的に響く。


 いつの間にか、


 手の中に矢が握られていた。


 それを、自分の喉へ向ける。


 もう、いい。


 この終わらない、くだらない世界にはうんざりだ。


 眠りたい。


 夢も見ず。


 何も考えず。


 永遠に目覚めない眠り。


 終わらせよう。


 全部。


 今すぐ。


 迷わず――


「うおおおお!! やっと失明が解除されたぞクソが!!」


 背後から聞こえた男の声に、私はわずかに振り向く。


「おいおいおい何やってんだ?! 派手に決めたあと逃げる気か?!」


「華麗なラストシーンのつもりかよ?!」


「ふざけんなこのバカ! そんなの認めるか!!」


 ……千夏?


 振り向いた先にいたのは本人ではない。


 画面の中の千夏。


 配信映像だった。


 しかも――


 めちゃくちゃ偉そうな顔をしている。


 顎を上げ、鼻を鳴らし、


 思い切り威張った表情。


「ムカつく!! あんたたち二人だけ格好つけてさ!!」


「それで逃げるつもり?! ふざけんな!!」


 私はかすかに笑った。


「世界が終わるのに……そんなこと気にするの……」


「バカ狐!!」


「私たち三人パーティでしょ!!」


「戦ってるのは……あんたたち二人だけだと思ってんの?!」


「私を……何だと思ってるのよ!!」


 千夏がカメラを引く。


 画面が遠ざかる。


 戦場。


 コメントが飛び交う中、


 アンカーを背負った巨大獣が倒れる。


 さらに遠く。


 無数の巨大スクリーン。


 そこには世界中の戦場が映っていた。


 怒号が聞こえる。


【ロンドンアンカー――攻略開始!】


【ニューヨーク――攻略開始!】


【東京東部アンカー――攻略開始!!】


【こちら〈余火〉第七攻略班、北極アンカー――攻略開始!】


【第九攻略班、上海アンカー――攻略完了!】


【〈夜明〉第三攻略班、ブラジルアンカー――攻略開始!】


【こちら〈夜明〉副会長、ムンバイアンカー――攻略完了!】


【えー……〈天堂〉……一応攻略班、南極アンカー――攻略開始】


 千夏が杖を掲げる。


 空へ跳躍。


 火竜巻が身体を包み、


 ドォォォン!!


 地面に叩きつけた。


「こちら余火副会長!!」


「世界アンカー攻略部隊・総指揮官だ!!」


「“人類の裏切り者”の――」


「最高の友達!!」


「一生モンの親友だ!!」


 千夏は叫ぶ。


「北海道アンカー――」


「攻略……完了!!」





本日の更新ですが、もう少し調整したいため、

もう一日お時間をいただきます。


次回更新予定:

3月16日 19:00


お待たせしてしまい申し訳ありません。

引き続きよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
掌の上…いや、葉っぱの上で踊らされてただと!? そして外道ハゲギルドが協力してるだと!? 流石に地球は分離したいか(笑) 全世界が一斉に攻略開始とか熱い展開なってきた!
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