第80話
レーザーが大地を焼き裂き、灼けつくような血の軌跡を刻んだ。
六つの眼を持つ半身の巨像が、目の前の挑戦者を見下ろしている。
まるで――
一匹の蟻でも眺めるかのように。
六本のレーザー。
すべてロックオン完了。
だが――
あらゆる生命体を一瞬で蒸発させるその光を前にして。
この瞬間、
私の思考は完全に空白になった。
すべての行動を、
本能に委ねる。
[ここ……もう少し左。そう、その位置。十二秒目、バク転! そのあと三連爆裂矢、爆風で滞空!]
魂が身体から抜け出したような感覚。
耳元で、声が響く。
それは、
骨に刻み込まれた記憶。
一年が経とうと、
一度たりとも忘れたことのない記憶。
[十二秒目のレーザーギミックで死亡した者は計140人。
彼らは七十以上の回避方法を試し、レーザーロックの基礎メカニズムを特定した。]
[北西角、神像根元の座標152.266。
そこで二秒間滞空すれば、レーザーは神像自身の腕に遮られる。]
[第一フェーズの半身神像は広範囲移動ができない。
主な攻撃は腕と眼だ。
この回避方法なら三秒間の硬直を作れる。
DPSはその間に最大火力を叩き込め。]
[即死ギミックを一つ処理して、たった三秒の攻撃時間?!]
余火攻略研究センター。
Ledgerの声には、信じられないという色が滲んでいた。
[三秒はむしろ長い方だ。
後半は連続即死ギミック。
移動しながら攻撃チャンスを探すしかない。
立ち止まって攻撃する時間なんて、ほぼ存在しない。]
研究センターの映像。
そこでは、
録画が何度も何度も再生されていた。
そして必ず――
撮影者が死ぬ瞬間で止まる。
140本の映像。
そのすべてが、
死亡報告書だった。
「ドォン! ドォン! ドォン!」
三本の爆裂矢を放つ。
爆風の反動で強引に滞空し、
【飛行禁止領域】の封鎖を越える。
考える必要はない。
この動作は、
もう数えきれないほど繰り返してきた。
目を閉じていても、
正しい位置に辿り着き、
正しい瞬間に跳べる。
神像のレーザーが自らの腕に命中する。
光は瞬時に消え、
腕には焼け焦げた傷が走った。
心の中で三秒を数える。
最大火力スキルを叩き込み、
躊躇なく後方へ跳ぶ!
次の瞬間。
神像の掌が、
私が立っていた場所を叩き潰した。
[――ここで199人が肉塊になった。]
[続いて第一フェーズ最初の全体即死ギミック。
死亡者742人。]
[ここはヒーラーと戦士の動きが秒単位で正確でなければならない。]
[もしヒーラーと戦士の行動が制限されたら?]
Corvinが尋ねた。
[もし支援がなく、DPSだけで動くしかなかったら……]
私は目を閉じる。
私は目を閉じる。
戦場が消えた。
神像が消えた。
残ったのは――
無数の影。
目の前を、次々と通り過ぎていく。
かつての第一魔法使い。
第一戦士。
攻略者の頂点に立っていたすべての精鋭。
この瞬間のために命を落とした者たち。
そして――
かつての、
私自身。
[もしDPSが一人で戦うしかないなら。]
[ならばすべてを――運命に任せるしかない。]
「世界!」
神像の両手が、
突如として合掌した。
印を結ぶ。
次の瞬間。
天を覆い尽くすほどの――
無数の、
猩紅の眼。
空一面を埋め尽くす。
太陽すら隠す。
そして、
一斉に――
開いた。
無数の視線が、
一瞬で、
私へと集中する。
そして、
一つ、
また一つと、
レーザー発射の前兆が灯る。
「――瓦解――!!」
◇
「こ、これは……!」
解説役の白夜は、
遠くの山の陰に身を隠していた。
だが、
目の前の山は
彼にまったく安心感を与えてくれない。
BOSSのロック範囲外だと分かっていても、
その圧倒的な威圧感に、
喉が渇く。
「……こんなの、どうやって避けるんだ?!」
何千――
何万もの目。
それは、
何千もの銃口が
同じ標的を狙う光景に等しい。
暴風雨のようなレーザーが、
一斉に降り注ぐ!
予兆なし。
照準線なし。
回避できるかどうかは、
あの赤い眼の視線を読み取れるかどうかだけ。
「そんなこと、できるわけないだろ!」
「しかも……正気か?!」
「こんな状況で――
あいつ、自分の目を閉じてるぞ!」
「それじゃ射線すら分からない!
どうやって避けるんだ?!」
「終わった……!」
「いや、待て……」
「今、あいつ……何してる?」
「まさか……」
「踊ってる……?!」




