第78話
[本日未明、三時四十四分。〈夜明〉ギルド本拠地が襲撃を受け、幹部は全員死亡。白夜の首が本拠地正門に晒された。]
[〈天堂〉ギルドが〈夜明〉ギルド本拠地の正式接収を宣言。]
それは――
別の時間軸からもたらされた映像だった。
無機質なニュース音声が、残酷な虐殺を淡々と伝えていく。
SEEKERが降臨して、まだわずか三か月。
最初に壊滅した大規模ギルドが、ついに現れた。
誰も予想していなかった。
最初に滅びたのは観光ギルドでもなければ、略奪ギルドでもない。
人々が最も迷い、最も恐怖していたあの時期に、
無償で手を差し伸べていた――救援ギルドだった。
白夜は黙って画面を見つめていた。
城門に吊るされた、自分自身の首。
その顔は恐怖に歪み、見るも無惨な姿で晒されている。
[降臨三か月目? 九か月前の出来事だって?]
配信のコメント欄は、信じられないという声で埋め尽くされていた。
[でも白夜は今も普通に生きてるじゃないか……]
[思い出した! あの“人類の裏切り者”が〈夜明〉と〈余火〉のメンバーを率いて、世界初のダンジョンを攻略したんだ! とんでもない報酬を手に入れた!]
[SEEKERみたいなMMOシステムでは、序盤に装備と経験値で優位を取れば、そのままマタイ効果が起きる!]
[つまり……]
[あいつが、運命を変えたってことか?!]
白夜は、何も言わなかった。
なぜなら――
知っているからだ。
これはまだ、崩壊の始まりにすぎない。
変えられた運命は、
自分一人のものではない。
――世界そのものなのだから。
【魔竜・燼天 初回攻略戦】
[やめて……助けて……誰か……助けてくれ! ああああああ――!!]
次の瞬間。
世界を引き裂くような絶叫が響き渡った。
大地は烈火に焼かれ、溶岩の沼と化している。
何百、何千もの攻略者が、炎に呑み込まれていた。
彼らの足は溶岩の泥沼に沈み込み、逃げることすらできない。
手にしていた剣は赤熱し、やがて溶けて、真紅の鉄の雫となって滴り落ちた。
もはや自ら命を絶つことすらできない。
皮膚は裂け、肉は焼け焦げる。
まるで炭火の上で焼かれる肉のように、
互いが互いの焼け落ちていく姿を、ただ見つめることしかできなかった。
死ぬまでの間、
彼らは本当の地獄を味わった。
この世で最も絶望的な苦痛を。
そして――
そのすべては、
ただ一度の、
燼天の吐息にすぎなかった。
あまりにも残酷な光景に、
配信のコメントは一瞬、完全に止まった。
誰もが息を忘れていた。
[あれ……俺……?]
[ふざけるな……ありえない……あの人……父さん!? 行くな! 行くなああ!!]
[翔太!? お母さんの見間違いじゃないよね……翔太、そこにいるの……?]
[やめて……]
[やめろおおおお!!]
燼天の初回攻略戦は、
想像を絶する惨敗で終わった。
無数の人間が、その映像の中に
自分自身を、
あるいは愛する者の姿を見つけてしまった。
瞬間、
圧倒的な恐怖が全身を満たす。
気づいたときには、
誰もが冷や汗でびしょ濡れになり、
その場に崩れ落ちていた。
彼らはずっと思っていた。
この映像は、ただの嘘だと。
だが――
自分や、大切な人の顔を見つけた瞬間、
理解してしまった。
――昨日。
本来なら、
昨日こそが、
自分たちの死ぬ日だったのだ。
彼らは映像の中のように、
最も惨めで、
最も絶望的な形で、
生きたまま焼き殺されていたはずだった。
あとほんの少し。
ほんの少し運命が違っていたら――
彼らは確実に、
あの結末へと辿り着いていた。
だが、
一人の人間がいた。
全世界から追われ、
全世界から孤立し、
全世界から誤解されながら。
それでもなお、
燼天と相打ちになる寸前まで戦いながら、
彼らを救おうとした人間がいた。
彼女は――
自分の名誉も、
自分の人生も、
すべてを差し出して。
彼らが死とすれ違う未来を、
たった一度だけ、
掴み取った。
だからこそ彼らは今、
こうして今日の空気を吸い、
何一つ傷つかずに、
生きていられる。
そして、
その恩人を、
罵り、
憎み、
唾を吐くことができる。
その女こそが――
あの、
いわゆる――
人類の裏切り者。




