第77話
[白夜?]
[お前……よくもまだ顔出せたな!]
[人類の裏切り者どもが!海に放り込んで魚のエサにしてやる!]
白夜の配信が始まった瞬間、わずか十秒もしないうちに、罵声がコメント欄を埋め尽くした。
「ははっ、いやあ刺激的だねぇ!みんな、おはよう〜〜!」
「大罪人・白夜、堂々の登場だよ!さあさあ、まだ寝てる友達を叩き起こして、一緒に俺を罵りに来い!早く早く〜!」
白夜はカメラに向かってVサインを突き出す。
そのふてぶてしい笑顔は、いかにも殴りたくなるような態度だった。
「まあまあ、みんな俺のことボロクソに言ってくれてるけどさ!幸いにも、この俺様はとっても寛大なんだ。全部許してあげよう!」
「それだけじゃない……今日はみんなに、超クールな映画を見せてあげるよ!」
[映画なんて見てる暇あるかよ!]
[お前みたいなクズ、なんでまだ生きてんだ!?]
[俺に捕まったら終わりだからな!]
「死ねって?ははは、みんな勘がいいねぇ。そう、その通り。実は俺、もう一度死んでるんだよ!」
「で、どうしてそんなことが分かったのかって?それはもちろん――燈里様のおかげさ!」
[は?燈里って……まさか……]
[あの暗殺者ギルドの会長のことか?]
[うわ……その名前聞くだけで背筋が寒くなる。数日前、強盗ギルドの会長が略奪中にそのまま暗殺されたらしいぞ。]
[なんでも、悪事の証拠動画を持って行けば、暗殺者ギルドに無料で依頼できるとか。]
[あのおかげで、天堂ギルドのクズどもも最近はかなり大人しくなったらしいな。]
「いやあ、本当に今日まで生きていられたのは奇跡だよ」
白夜は突然、真剣な声でつぶやいた。
「本来なら、俺はとっくに死んでいたはずだ」
「ここにいる大半の人たちも、もう死んでいたか……あるいは、これから死ぬはずだった」
「――あの、残酷で混沌とした未来世界でね」
[お前、何言ってんだ!?]
[俺たちが死ぬのは、お前ら人類の裏切り者のせいだろ!]
[資源のほとんどを独占して、BOSS全部持っていったくせに!]
[だから俺たちがこんな生活になったんだろうが!!]
白夜はちらりと配信の同時視聴数を見た。
六億……六億五千万……七億……
半年前から準備してきた。
資源を集め、すべてをこの瞬間のために整えてきた。
世界規模の爆発的な宣伝。
視聴者数は今もなお急速に増え続けている。
雪玉はもう転がり始めた。
増加速度は、ますます加速している。
――十分だ。
「河口湖ダンジョン攻略戦。失敗回数132回。死亡者940名。」
「ゴブリン首領討伐戦。失敗回数31回。死亡者221名。」
「トロル精鋭討伐戦。失敗回数33回。死亡者300名。」
「ネクロマンサー討伐戦。」
「海龍湾ダンジョン攻略戦。」
「魔竜・燼天討伐戦。失敗回数1回。死亡者1300名。」
「災厄の源討伐戦。失敗回数3072回。死亡者15700名。」
白夜の手には、一枚のリストがあった。
――果てしなく長いリスト。
配信開始から、すでに十分。
彼は何もせず、ただ淡々と、その紙に書かれた内容を読み上げ続けていた。
[ふざけんな!!俺たちをバカにしてるのか!?]
[魔竜・燼天の討伐戦は、ほとんど死者なんて出てない!しかも一発で攻略成功だ!]
[河口湖ダンジョンだって、次の日には完全攻略が公開されてただろ!]
[他のBOSSも、出現した瞬間にあの裏切り者が秒殺しただけじゃないか!]
[そんなデータ全部デタラメだ!!]
だが白夜は、まるでコメントが見えていないかのようだった。
そのまま読み続ける。
「SEEKER降臨後、地球の人口は一年目で83億から62億へと激減。死亡率は四分の一に達した。」
「その後十年間、資源不足により人口はさらに減少する。」
「二年目には55億。三年目には50億……」
「十年後、人類の人口は三分の一まで減少した。」
「わずか十年で、五十億人以上が死亡した」
「特に五年目。各王国が相次いで法律を制定した」
「――地球人の都市安全区への立ち入り禁止」
「――転職ホールへの立ち入り禁止」
「戦闘能力を持たない生活職、老人、子供たちは都市から追い出された」
「その年、戦闘不能者の死亡率は85%に達した」
[SEEKERが降臨してまだ一年だぞ!?]
[何言ってんだお前!]
[自分を預言者だとでも思ってるのか!?]
[適当な数字並べて騙せると思ってんのか!!]
[大げさに危機煽ってんじゃねえよ!]
「そうだね」
白夜は軽く笑った。
「みんな、こう思ってるだろ?」
「――SEEKERが降臨してまだ一年なのに、こいつは何をデタラメ言ってるんだって」
そして、指を一本立てる。
「理由は簡単さ」
「――二人の人間が」
「十年後の地獄を、実際に見てきたからだ」
配信の空気が、一瞬凍りついた。
「その二人は、十年続いた戦争を最後まで戦い抜いた」
「そして――未来の記憶を持ったまま」
「今、この時間へ戻ってきた」
「荒唐無稽だよね?」
白夜は肩をすくめた。
「もちろん、俺も最初はそう思った」
「みんなと同じさ」
「じゃあどうやって証明するんだ?ってね」
彼は笑った。
「でも――運が良かった」
「その時間旅行者の一人は」
「十年前に戻るとき」
「自分の持ち物を全部持って帰ってきたんだ」
白夜の指が空中をなぞる。
「この十年間の」
「ニュース映像」
「攻略記録」
「犯罪証拠映像」
「暗殺記録」
「全部だ」
「みんな知ってるよね」
「SEEKERの内蔵録画機能は――」
「改ざんも偽造もできない」
白夜はゆっくりと手を上げた。
空中に浮かぶ再生ボタンへ、指を伸ばす。
そして。
強く押し込んだ。
「――さあ」
「この十年間の絶望を」
「目撃しろ!!」




