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神器も世界樹も神獣卵も買った。あとはゲームが現実になるのを待つだけ  作者: 狐白
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第73話

 暗夜血族は……吸血対象が一人に限定されているわけじゃない?!


 でも、燈里は……


 いや、そんなはずが――!


「……嘘つき」


 違う。これは罠だ。


 きっと何かの計略に違いない。


 私の理性を揺さぶろうとしているだけだ!


 そんなものに――


 惑わされるか!


「吼ぉぉぉぉ――!!」


 次の瞬間、龍の吐息が足元をかすめた。


 私は強引に思考を切り替え、視線を燼天へと向ける。


 魔竜・燼天。Lv90。


 年に一度だけ出現する、世界級ボス。


 安全討伐に必要とされる戦力は――五百人以上。全員Lv90以上、さらに装備はすべてエピック級以上。


 それでもなお、戦死率は三割に達する。


 前世では、人々は燼天の破壊力を過小評価していた。しかも当時のプレイヤーの多くはLv90未満。


 その結果、この攻略戦では――


 千三百人が命を落とした。


 その中には、〈余火〉や〈夜明〉のメンバーも少なくなかった。


 そして最終的に――攻略は失敗した。


 だから。


 できる限り、他の攻略者が到着する前に。


 私一人で、この竜を倒す。


 そうすれば、被害を最小限に抑えられる。


「……ふぅ」


 燃え広がる森は、しばらくの間ほかの攻略者の侵入を妨げるはずだ。


 千夏は火属性の魔法使い。炎そのものでは致命傷にはならないだろう。


 むしろ危険なのは、濃煙と燼天の攻撃余波だ。


 どちらにせよ――


 先に燼天を片付ける必要がある。


 私は左手の人差し指と中指を立て、漆黒の〈天空の指輪〉と〈大地の指輪〉を弓の上下へとはめ込む。


 そして――


 世界樹の弓ごと、大地の指輪を地面へと深く突き刺した。


 一年かけて蓄積してきた力。


 五十三のアンカー任務を達成して積み重ねた、世界樹の力。


 それが今、この瞬間――


 完全解放される。


 世界樹の弓に、一つ、また一つと星が灯る。


 星光が降り注ぐと同時に、静かな生命の気配が広がり、空気に満ちていた焦熱を押し流していく。


 やがて――


 弓の上部に嵌められた天空の指輪が、天を貫く奥術の光を爆発させた。


 まるで星々の主が降臨したかのように。


 無数の星光が糸となり、弓身へと結びついていく。


「――新世界、展開」


 次の瞬間。


 天へと伸びる星辰の巨樹が、静かにこの世界へ降臨した。


 魔竜燼天と、私を。


 その巨大な領域の内側へと閉じ込める。


「っ……!」


 MPが、堰を切った洪水のように流れ落ちていく。


 左肩の毒もわずかに広がり始め、さらにMP消費を加速させる。


 十秒。


 この状態を維持できるのは、せいぜい十秒だ。


 ……でも。


 それで十分。


 速戦即決。


 私は一気に跳躍し、空へと踏み出した。


 燼天が展開する禁空領域すら――


 「新世界」の中では、神を縛ることはできない。


「世界級……権能だと……?!」


 無限復活の能力を持ち、死すら意に介さない魔竜燼天でさえ。


 この瞬間だけは、思わず顔を上げ、恐怖の声を漏らした。


 それは本能的な恐怖。


 ネズミが猫を見たときのような、力の階層そのものが違う恐怖。


 だが。


「……未熟だな」


 燼天の表情が、再び嘲笑に戻る。


 喉奥に、灼熱の炎が集まり始めた。


「ただの木だ……」


「焼き払ってくれる!」


「燃え――」


「尽きろォォォ!!」


 ◇


「急げ!! もっと前へ押し込め!!」


 黒樹迷界の外側。


 無数の転送光が、狂ったように瞬いていた。


 魔竜燼天の封印突破の報は、瞬く間に世界中へ広がった。


 転送陣を通じて、各国の高レベル攻略者たちが日本の第一降臨区へ雪崩れ込んでくる。


「……人が多すぎる」


 白夜は眉をひそめ、黒々と密集した人の波を見渡した。


「燼天の攻撃範囲は広い。かつての海神級かもしれない。近接職が多すぎれば渋滞が起きて回避ができなくなる……それじゃ逆に被害が増える」


「仕方ないさ。この一年で、人間は狂ったからな」


 副会長が重く息を吐いた。


 白夜は拳を握り締める。


 資源の枯渇は、日に日に深刻になっていた。


 異世界の侵食は、単に居住地を奪うだけではない。


 現代のグローバル社会は、世界各地の分業によって成り立っている。


 食料生産には品種改良が必要だ。


 肥料も農薬もいる。


 そしてそれらを作るには、さらに下層の化学原料とエネルギーが必要になる。


 そのどこか一つでも断たれれば――


 産業は、すべて止まる。


 白夜は自分の目で見た。


 SEEKERの降臨によって、工場や発電所が跡形もなく消え、原料産地は魔獣の森へと変わった。


 グローバル供給に依存していた産業は、ほぼ完全に停止した。


 かつて当たり前だった生活体系は、すべて断ち切られた。


 人が生きるためには。


 異世界の資源を、原住民から奪うしかない。


 争いは激化する。


 武力への渇望もまた、加速していく。


 魔竜燼天――Lv90の世界級ボス。


 そのドロップは、莫大な価値を持つ。


 しかも神器が落ちる可能性すら高い。


 誰もがこの竜を討ち、世界の頂点に立ちたがっている。


「……まるで」


 白夜は遠くの空を見上げ、呟いた。


「神器まみれの狐を狩ろうとしているみたいだ」


 しばし沈黙。


 やがて、彼はぽつりと言う。


「匹夫無罪、懐璧其罪……か」


「英雄になったのに逃げた理由、少しわかった気がする」


 そのとき。


 通信端末が激しくノイズを鳴らした。


「ジジッ……ジジッ……」


「ん?」


 白夜はフレンド通信を開く。


 映像は激しく乱れ、音声も歪んでいる。


「……救援……こちら千夏……」


「黒樹迷界……あのバカ狐……見つけた……」


「……〈夜明〉〈余火〉……全員……」


 ノイズが走る。


 そして。


 千夏の声が、途切れ途切れに響いた。


「――捕狐者プロトコル……発動」


「至急……支援……来て……!」

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