第69話
「こちらはSEEKERデイリーニュースです」
「本日はSEEKER降臨事件から一周年の記念日となります。ニュースに入る前に、災厄で命を落とした一般市民および探索者の方々へ、哀悼の意を捧げましょう」
「五十三番目の降臨エリアが、本日太平洋時間午前8時33分、ハワイ地域に出現しました。今回の降臨範囲は9000平方キロメートルに及びます」
「現在、地球の人類活動圏の42%がSEEKERと融合しています。新たに降臨したハワイ地域では、冒険者と他国部隊との間で再び交戦が発生……現時点で1300名の死傷者が確認されています」
「〈天堂〉ギルドがロシア降臨区域にて拠点の設立に成功しました。これは地球出身の冒険者による四つ目のギルド拠点であり、同時に四つ目の合法領地でもあります。拠点周辺には多くの難民が加入申請を行っています」
「富士山で再びマグニチュード5.6の地震が発生しました。近頃、富士山降臨区域では地震活動が活発化しており、魔竜・燼天が封印を脱する可能性が指摘されています。該当地域の方は速やかに避難してください」
「人類の裏切り者、狐塚凪緒の追跡は現在も継続中です。今朝、彼女がハワイ降臨地域に出現したとの目撃情報が入りました。ハワイ地域の冒険者の皆様は十分に警戒してください」
「……」
ニュースを閉じ、私は空を見上げた。
どれくらい、こうしていただろう。
一帯の魔物とボスを殲滅し終えたあと、私は石像のように立ち尽くし、ただ次の日が訪れるのを待っている。
雨粒が頬を伝い、髪先にこびりついた血を洗い流していく。
目を閉じる。
冷たい雨が体温を奪っていく。その刺すような寒さだけが――
どうやら、まだ死んでいないらしい。
「Lv93」
「追加自由ステータスポイント:1655」
「称号補正:……元素耐性75%、竜属性ダメージ増幅133%、火属性ダメージ増幅467%、視界距離増加470%、聴覚補正3200%、敏捷補正……」
まだ足りない。
だが、もう少しだ。
前世で災厄の源を攻略したときより、今の数値のほうが高い。とはいえ今回は単独攻略だ。難易度は桁違い。
もっと初回討伐報酬が必要だ。もっとExpが必要だ。もっと……もっと……
「……っ」
右肩に、突然熱が走った。
裂けるような痛み。
視線を落とすと、右肩の包帯が滲んでいる。雨に打たれたせいで、傷口が開いたらしい。
バットキングに負わされた傷だ。抗凝固毒を帯びているため、通常の治療では意味がない。
新しい包帯を取り出す。
雨水で血を洗い流し、解毒と止血の錬金薬を振りかけ、再び巻き直す。
だが薬は雨でほとんど流れ落ち、効果は薄い。巻き終えても血は滲み続ける。
もう一度、ほどく。
もう一度、薬をかける。
だめだ。
また、ほどく。
一度でだめなら、もう一度。
一度、また一度、さらにもう一度。
……
雨……止んだ?
いつの間にか、雨が止んだ気がした。
いや、止んではいない。
林の水溜まりには、相変わらず雨粒が落ち、花のように波紋を咲かせている。ただ、私の上には落ちてこなくなっただけだ。
「私を殺す気?」
冷たい、どこか責めるような声が耳元に落ちる。
温かな手が、傷口を強く押さえた。私の無意味で愚かな動きを止めるように。
鋭い痛み。
きつく締め直された包帯は、力が入らずに緩んでいたそれを、今度こそ完璧に固定する。
「餓死させたいなら、他のやり方にしなさい。バグった機械みたいに繰り返さないで」
私はぼんやりと顔を上げる。
燈里が、傘を差し、無表情で立っていた。




