表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神器も世界樹も神獣卵も買った。あとはゲームが現実になるのを待つだけ  作者: 狐白
2.

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/84

第67話

「違う……逃げて!!」


「これは海神じゃない……」


「逃げてぇぇぇ!!」


 私は肺が裂けるほどの力で叫んだ。


 巨大な翼の下で、〈余火〉と〈夜明〉のメンバーは、ただ呆然と立ち尽くしている。


 誰も、何が起きているのかすら理解していない。


 逃げる? どこへ?


 腐敗した竜の翼は十数キロにも及び、人の足でどうこうできる規模ではない。


 時間が、この瞬間だけ凍りついたかのようだった。


 ◇


「必ず……必ず、私たちの世界を取り戻す! あの災厄を地球から追い出すんだ!」


 前世。


 極光が揺らめく雪山の頂で、私とLedger、Aileen、Corvin……そして最初の〈余火〉の十二人は、星空に向かって誓いを立てた。


 凍りつく涙を頬に張りつかせながら、胸に滾る熱を抱え、私たちは空へと叫んだ。


 SEEKERに完全に覆われた地球。


 原住民に地球の居住圏を奪われたことで、多くの地球人は住処を失い、野外で魔獣と隣り合わせに生きるしかなかった。死傷者は膨大だった。


 同時に、突如として現れた七十億の人類は、異世界に凄まじい人口衝撃を与えた。


 原住民は「異世界難民」の排斥を開始し、追放運動が広がり、流血沙汰が頻発する。


 彼らは吐き捨てるように言った。


 ――あいつらは強盗だ! 家に押し入り、箱を漁り、衣服も食料も金も奪っていく!


 だが地球人にも言い分はある。


 ――RPGってそういうものだろ? しかもそこは元々、俺たちの家だった! 奪ったのはお前たちだ!


 衝突は、もはや修復不可能だった。


 世界は明確に派閥へと分裂した。


 占領派――原住民の都市を奪い、地球勢力の領域を築くことを主張する者たち。


 生存派――領土争いに関わらず、野外で細々と生き延びることを選ぶ者たち。


 剥離派――二つの世界が融合した根本原因を突き止め、再び分離させることを目指す者たち。


 私が立ち上げた〈余火〉は、剥離派の中核だった。


 十年に及ぶ全力攻略の末、私たちは世界融合の源を特定し、あと一歩で成功という地点まで辿り着いていた。


 ――その日のことだ。


「会長、俺たち、もう十分強いじゃないですか。そろそろ楽しんでもいいんじゃないですか?」


「本気になれば、国の一つや二つ、いつでも支配できる! 本物の王になれるんですよ? なんで地球に戻ってローンなんか払わなきゃいけないんですか!」


 攻略後の酒場で、Ledgerは酒杯をテーブルに叩きつけ、感情を爆発させた。


 私は、ただ驚いて彼を見つめた。


 CorvinがLedgerの背を叩き、眉を寄せる。


「会長……Ledgerの言うことにも、一理あります」


「あなたたち……」


 揺れる蝋燭の灯りの中、私は目の前の仲間たちに、かすかな違和感を覚えた。


「誓いを……忘れたの?」


「忘れてはいません」Corvinは首を振る。「ですが……人は成長の過程で目標を修正するものです。あの頃の理想は、変わっていく」


「そうだよ。異世界は悪くない。政府もない、仕事もない。ここでは俺たちは英雄だ。なぜ剥離する必要がある?」


 Ledgerは肩をすくめた。


「何を言ってるの!?」


 私は彼の襟を掴んだ。


「全員が私たちみたいに強いわけじゃない! 冒険者になる勇気も力もない人だっている……食べ物もなく、物乞いのように生き、魔物の餌になった人もいるのよ!」


 パキン――


「だからこそ、目標を変えるべきなんだ!」


 Ledgerは酒杯を握り潰した。


「なぜ原住民だけが俺たちを追い出せる? 侵略したのはあいつらだ! 地球を覆い尽くしたのはあいつらだろう! 皆殺しにして奪い返す、それが正義だ!」


「あなたたち……」


 視界が揺れた。


「エギルやカレン、ルナを忘れたの?」


「……」


「彼らは原住民だった。でも、私たちの攻略を助けるために命を投げ出した……


 世界融合の真実なんて知らなかった。ただ私たちを助けたかった。帰らせたかった。


 彼らも侵略者なの?」


 酒場は沈黙に包まれた。


 やがて私は弓を手に取り、吹き荒ぶ吹雪の中へ歩き出した。


「剥離する。彼らの世界を彼らに返し、私たちは地球へ戻る。


 ここがどれほど良くても、ここは私たちの家じゃない。


 戻りたければ、技術を発展させればいい。宇宙へ手を伸ばせばいい。


 いつかまた来る。その時は――胸を張って、久しぶりの友として」


 ◇


 あの日、すでに兆しはあったのだ。


 胸の奥が鈍く痛む。


 けれど、恨みは湧かない。


 理解している。


 攻略世界の英雄から、ただの人間に戻ることを、誰が望むだろう。


 私だって、望まない。


 でも――自分のものではない世界は、やはり自分のものにはならない。


 狐は、夜と荒野に帰るものだから。


「あなた……」


 燈里と視線が交わる。


 一瞬で、彼女は私の魂の奥まで見透かした。


 それでも何も言わず、手首を掴む。


「座標を」


「竜翼の真下、中心点」


 私は神器を一つずつ身に纏う。


 身体がふっと軽くなり、燈里の空間能力が発動する。


 次の瞬間、私は竜翼の真下に立っていた。


 人は変わる。


 誓いを立てた仲間でさえ、時間と共に離れる。


 やがて神器の所有者は、全員の敵になる。


 それでも。


 私は弓を引き絞り、天を覆う巨大な翼へと狙いを定める。


「……それ、報われるの?」


 燈里の声が風に溶ける。


 私は笑った。


「だって、みんな私を仲間だって思ってる」


 彼女は小さく息を吐く。


「……明日にはもう敵なのに」


「明日のことは、明日考える」


 弦を放つ。


 万神の力よ――今、降臨せよ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
覚悟決めてさらけ出すか… 頑張れ ハゲ電球の天堂は知らんけど 他の…少なくとも今回協力してくれた人達は信じたいね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ