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神器も世界樹も神獣卵も買った。あとはゲームが現実になるのを待つだけ  作者: 狐白
2.

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53/55

第53話



 轟いていた声の波が、ふっと途絶えた。


 先ほどの出来事はまるで警告のようだった。

 陸に生きる、取るに足らぬ存在に向けられた、圧倒的な存在による示威。


 だが――ただの警告に過ぎないはずのそれが、都市の四分の一を瓦礫へと変えてしまったのだ。


 もし、あれが全貌を現したなら……。


 「世界アナウンス:


 西フヴニア王都における魔物侵入事件は終了しました」


 「西フヴニア王国より通達:


 市民および冒険者の皆様は恐慌に陥る必要はありません。先ほどの現象は、海神様の御顕現によるものです。


 海神様は我が王国の守護神であり、自ら攻撃を行う存在ではありません。


 先ほど海竜湾で発生した異変を受け、国王陛下は海神祭の前倒し開催を決定されました。祭典を通じ、海神様との交信を試みます」


 海神祭が……前倒し?


 海神祭は西フヴニア王国最大の祝祭だ。通常なら開催は半月後。


 前世でも、確かにそうだった。


 いったい何が――ここまで世界線を変えてしまった?


「どうやら、あれはしばらく声を上げないみたいだな」


 国王の宣言以降、海は静寂を取り戻していた。


 津波に巻き込まれた人々の多くも、すでに避難を終えている。


 都市の空気が変わっていく。

 “復興”と“祭り”へ向けて。


 その変化に、張り詰めていた神経がようやくわずかに緩んだ。


「行こう。報酬を交換しに」


 私たちは報酬交換所へ向かった。


「6,322ポイント?! あなた方は……まさか、ランキング一位の三名の冒険者様では?!」


 交換員の絶叫で、身元を隠していた努力が一瞬にして水泡に帰した。


 周囲から向けられる羨望の視線を浴びながら、私たちは慌てて顔を隠す。


「現在、住居がありません。すぐ入居できる家を交換したいのですが」


「ご心配なく! ランキング一位の冒険者様には、王都の住宅が報酬として直接授与されます!」


「え? 三人全員に?」


「予算の都合上、すべての装備報酬を三つずつ用意することはできませんが……住宅に関しては可能です! 立地も自由にお選びいただけます!」


 一瞬、海辺の邸宅が頭をよぎる。


 だが、あの海の“何か”を思い出し、即座に却下した。


 最終的に選んだのは、王都北東部の小さな庭付き住宅。


 私と燈里の家はやや外れにあり、静かな環境だ。

 千夏は近隣でもっと賑やかな区画を選んだ。


「まさか……いきなりマイホーム持ちになるなんて……」


 権利書に署名し、私たちは正式に異世界の住人となった。


「ママ! 異世界で家買ったよー!」


 千夏ははしゃぎながら権利書にキスし、高々と掲げて写真を撮ると、そのまま家族へ送信した。


「こちらが住宅の鍵です。お一人につき三本。うち二本は予備となります」


 鍵の持ち忘れに備え、私たちは互いに予備鍵を交換した。


「その他のランキング報酬は後ほどメールにて送付いたします。功績値については、交換品が決まり次第いつでもお越しください。有効期限はございません」


 期限なし……助かる。


 正直、指一本動かすのも億劫なほど疲れていた。

 報酬を考える余力などない。


 今はただ、眠りたい。


 倒れ込むように。


「私は余火と夜明の様子を見てくる……二人も大阪に来たみたい。一緒に行く?」


「無理。もう限界……」


 ガウに跨り、ゲームマップを開く。

 自宅をマーキングし、オートナビを起動。


「燈里先輩は?」


「用事がある」


「そっか。じゃあ私は一人で行くね。何かあったらフレンド通信で呼んで〜」


 ……本当に元気なやつだ。

 私も体力と筋力に少し振るべきかもしれない。


「私は休む」


「うん」


 燈里と軽く言葉を交わし、新しい家へ足を踏み入れる。


 庭を眺める余裕すらない。

 適当な部屋を見つけ、軽く埃を払う。


 持参していた枕と寝具を敷き、そのまま潜り込んだ。


 慣れ親しんだ匂いに、瞬時に心がほどける。


「……ん……」


 筋肉が緩み、意識が沈んでいく。


 ◇


 ――深夜。


 どれほど眠ったのかも分からない。


 夢の中で私は、丸焼きにした巨竜の脚にかぶりついていた。


 次の瞬間。


 その焼き竜が寝返りを打ち、私を丸ごと押し潰した。


 必死に抗うが、痛む腕は持ち上がらない。


 まるで拘束されているように、地面へ縫い留められている。


 重い。


 猛虎に押さえつけられた小鹿のように。


 喉元には鋭い牙の気配。

 頸動脈のすぐ上で、ためらうように揺れている。


「……たすけて……焼き竜が……人を食べる……」


 寝言が漏れる。


 腕を持ち上げ、その重たい焼き竜を押しのけようとする。


 だが――


 焼き竜が、生きている。


 熱い鼻息がかかった。


 危険な呼吸が耳元で唸り、毒を含んだ唾液が牙を伝って首筋へ落ちる。


 触れた皮膚が、じんと痺れた。


 ほんの少し力を込められれば、血液は鼓動に押し出され、そのまま奴の喉へ流れ込むだろう。


「……やだ……」


「……いや……」


「——焼き竜に食べられるなんて絶対いやあああ!!」


 私は勢いよく目を開け、悪夢から跳ね起きた。


「……誰?!」

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