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神器も世界樹も神獣卵も買った。あとはゲームが現実になるのを待つだけ  作者: 狐白
2.

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43/84

第43話

体調不良のため、本日の更新が遅れてしまいました。

申し訳ありません。


◇

◇


「……契約成立だ!」


爪が落ちた、その瞬間。

酒場に満ちていた喧騒が、まるで首を絞められたかのように途切れた。


私はグラスをテーブルに戻す。

針が落ちたような、かすかな音。


耳がぴくりと揺れ、

扉の向こうの鉄靴の音が、異様なほど鮮明に聞こえてくる。


一、二、三。


通りすがりじゃない。

――包囲だ。


私は視線を上げ、依頼人を見据えた。


「三人背負って、走れる?」


「問題ない!」


「……なら」


ビリッ――


服が引き裂かれ、私は千夏と燈里の腕を掴んでそのまま宙へ。

大きなガウの背へと、まとめて跳び乗った。


「正面突破! 南へ走れ!」


地上最速クラスの騎獣の一角。

警戒態勢に入ったガウを捕まえるのは、そう簡単じゃない!


「まずい! あのガウが逃げるぞ! 塞げ!」


「千夏! 魔法!」


「了解! 二人とも、目を閉じて――〈サン・ライト〉!」


聖光系の名前だが、実態は火属性。


杖の先端から炸裂するような閃光が放たれ、

世界そのものの明度が、限界まで引き上げられた。


「くそっ! 目が……見えねえ!」


「狡猾な魔法使いめ……あの大鳥、仲間がいたのか! 捕まえろ!」


大半が目を潰された、その一瞬。


私たちは包囲網を一気に突破した。


外で待ち構えていた帝国兵たちは完全に出遅れ、怒号が飛ぶ。


「何をしている! 追え!」


「前方の哨戒所に連絡! 通達を出せ、今すぐだ!」


◇


ほどなくして、私たちの似顔絵が街道沿いに貼られ始めた。


「私たちまで、アルセイン帝国の指名手配……やりすぎじゃない?」


千夏は少し不安そうだったが、声に以前の動揺はない。


三日間の洗礼。

何度も死線をくぐり抜けたことで、彼女の精神は確実に鍛えられていた。


高校生としては、十分すぎるほどだ。


「アルセイン帝国領内の魔物分布は、

Lv1〜15、Lv60〜75、Lv100〜115。


私たちはもうLv20。

今さらLv15帯を狩っても、レベル差で経験値に重いペナルティが入る。


――だから、当分戻る理由はない」


「なるほどね〜」


次に降臨する大阪湾エリアの魔物レベルは、およそ20〜45。

私たちは、しばらくそこに腰を据えることになる。


……少し、楽しみでもある。


SEEKERの降臨時の姿は、

ゲームがサービス終了した“あの瞬間”の状態そのままだから。


私は終了前に、いろいろと“面白い準備”をしていた。


「大阪に行くなら……先に会っておきたい人がいる」


燈里が、ふいに口を開いた。


「?」


「私の両親が、大阪に住んでるの」


「……親、いたんだ?」


「どういう感想よ。

親がいなかったら、私が石から生まれたとでも思ってたの?」


燈里は額を押さえた。


……確かに、今のはおかしかったかもしれない。


私の中で、

“世界最強の暗殺者”という彼女のイメージは、

冷酷で、謎めいていて、危険そのものだった。


家庭の温もりと結びつけるのは、正直難しい。


「二人とも、住む場所ないでしょ。

今日は、うちで休んでいけばいい」


本当は断るつもりだった。

できるだけ、この危険人物とは距離を取りたかった。


……が、残高を見てしまった。


貯金はすべて、ゲーム内アイテムに突っ込んだ後。

今の円資産じゃ、ビジネスホテルすら無理。


――失策!


今夜、橋の下で寝たくなければ、選択肢は一つしかない。


ヒュン。


さらに南へ、約一時間。


薄い膜が、私たちの身体を撫でるように通り抜け、

視界は一変した。


見慣れた、現代の高層ビル群。


予想通り。

契約成立と同時に、ガウは地球側へとアンカーされた。


降臨エリアを、私たちと一緒に離れられる。


「こ……これは……?」


初めて現代世界を目にした依頼人は、言葉を失っていた。


降臨エリア内では、

世界が融合していても、原住民は自分たちの世界しか認識できない。


ほかのガウたちもビルの間を駆けていたが、

彼らの目には、それは高層建築ではなく、

ただの巨大な樹木に見えていたのだ。


「言ったでしょ。

追跡から完全に解放してあげるって。

向こうの連中、異世界までは追ってこられない」


「異世界?!」


ガウの感情が、一気に跳ね上がる。


「僕、異世界転生したの?!

ついにライトノベルの主人公に――?!」


「……」


異世界にも、ライトノベルはあるのか。


「先へ進もう。

車輪付きの鉄の箱には気をつけて。

下手すると、もう一回転生する」


「……赤信号では止まって!」


「……ちょっと! 逆走してる!

このままだと、二つの世界から指名手配される!」


「やばい! 警察が来た!

逃げろ! 鳥類用免許なんて持ってない!」


降臨エリアを抜ければ安全――

そう思っていた。


けれど、私は忘れていた。


このガウ、

交通ルールを一切理解していない。


夕方のラッシュアワー。

人で溢れ返る都市の大通り。


私たちは、

その中で――ひときわ目立つ存在になっていた。

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