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神器も世界樹も神獣卵も買った。あとはゲームが現実になるのを待つだけ  作者: 狐白
1.

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39/53

第39話

 魔偶の破片が、静かにその場に散らばっていた。


 私は何も言わず、燈里もまた沈黙したままだった。


 《生息の指輪》が、ゆっくりと私のHPを回復していく。

 失われた血が、乾ききった身体へと、少しずつ戻ってくる感覚。


 まるで、目の前に一本の進捗バーが見えているかのようだった。

 回復とともに、そのゲージがじわじわと伸びていく。


 ――それが100%に達したとき。

 私はまた、“美味しく”なってしまうのだろう。


 「……本当に、吐き出せないの?」


 沈黙に耐えきれず、私はそう口にした。


 「病院でやる胃洗浄みたいにさ。中毒だって大量の水で薄めて出せるでしょ……一回、無理やり吐いてみるとか……」


 「甘い考えはやめなさい」


 燈里は、心底あきれたような表情で私を見る。


 「……」


 私はもう諦めたように、仰向けに空を見上げた。


 再び、沈黙。


 頭を空っぽにしてここに座っていても、何の意味もない。

 それは分かっている。


 それでも――

 何をすればいいのか、どう向き合えばいいのか。

 こんな現実を、私は一度も想像したことがなかった。


 「……」


 今度、沈黙を破ったのは燈里だった。


 「……あの魔法陣」


 「ん?」


 「中央に、鍵穴がある。たぶん……あれが、私たちの任務目標」


 「……ああ、気づいてた」


 意識を切り替え、私は彼女の視線の先を見る。


 あの装甲巨虎は、黒樹迷界の中心を守る番人だったはずだ。

 なぜ魔偶がそれを殺し、その血を使って魔法陣を完成させたのか――理由は分からない。


 私たちは魔法陣へと近づく。

 あの、覚えのある《上位災厄》の気配が、肌を刺した。


 「待って」


 私はしゃがみ込み、魔法陣の文様と符文を読み解く。


 前世で、異変の根源に対抗し、

 《SEEKER》と地球の融合を阻止するため、

 私は災厄と魔法陣について徹底的に学んだ。


 この魔法陣は――

 最終ボス攻略の際に見てきた数々の法陣と、酷似している。


 効果は、《アンカー解除》。


 妙な言葉だが、符文にはそう刻まれている。


 “錨を引き抜き、接続点を断つ”――そういう意味だ。


 陣に注がれていた血が尽きるにつれ、

 魔法陣の光は、徐々に弱まっていった。


 一見すると、すでに機能停止しているようにも見える。

 それでも安全のため、私たちは一度距離を取った。


 その後、私は遠距離から爆裂矢を放ち、魔法陣を完全に破壊した。


 「鍵のほうは……」


 鍵にもまた、符文が刻まれている。


 意味は、実に明確だった。


 ――《アンカーの再設定》。


 「矢に鍵を結びつけて……鍵穴に当てられる?」


 燈里の提案は、私の考えと同じだった。


 鍵を差し込んだ瞬間、何が起きるかは分からない。

 爆発かもしれないし、別の危険かもしれない。


 「……あの木。上に乗せて」


 もう、自力で木に登る体力は残っていなかった。


 私はもう、成り行きに任せるしかなく、

 彼女に抱え上げられ、枝の上へと乗せられる。


 無理やり弓を引き、鍵穴を見据える。


 失血がひどく、視界が揺れる。

 世界が、ぐるりと回っている。


 尾を腕に絡め、震えを抑える。

 深呼吸――狙いを定めて。


 ――バンッ!


 命中。


 鍵は穴に吸い込まれた。

 爆発も、音も、何も起きない。


 《世界級クエスト完了》みたいな派手な演出を期待したが――残念ながら、何もない。


 差し込みが浅かったのかと疑い始めた、その瞬間。


 空気が、ほんの一瞬だけ歪んだ。


 鍵穴を中心に、波紋が走る。


 それは、黒樹迷界に留まらず、

 降臨領域全体へと、一気に広がっていった。


 波紋が通り過ぎた場所すべてで、

 世界が――急に、鮮明になる。


 わずかな違和感をまとっていた異界の建築、樹木、魔物。

 それらすべてが、完全な“現実”として定着した。


 まるで最初から、

 地球の生態系の一部だったかのように。


 「アンカーの再設定……なるほど」


 以前から推測していた。

 これらのアンカーは、異界と地球の融合に直結している。


 降臨領域ごとにアンカーが存在し、

 黒樹迷界の中心は、富士山降臨領域のアンカーだったのだ。


 〈システムメッセージ〉

 《アンカー任務完了。世界樹の種子に変動が発生しました》


 世界樹……?


 そうだ。

 以前、世界樹の果実を口にしたとき、神器の弓とは別に、奇妙なスキルツリーを得ていた。


 どれだけレベルを上げても解放されず、放置していたが――


 なるほど。

 アンカー任務で解放される仕組みだったのか。


 スキル画面を開くと、

 世界樹スキルツリーの最下段が、自動的に点灯していた。


 《スキル名:アンカー任務索敵》

 《パッシブ効果:周囲にアンカー任務、または関連アイテムが存在する場合、世界樹が自動的に指針を示す》


 ……おお、悪くない。


 今日は、ようやく少しだけ、いいことがあった気がする。


 「よかった! 無事だったんだね!」


 木立の向こうから足音。

 千夏と、《夜明》《余火》のメンバーたちだった。


 「怪我してるじゃない! 大丈夫、回復役を連れてきたよ!」


 治癒の光が降り注ぐ。

 だが、失血による虚脱感までは癒えない。


 HP上限の低下――

 これは時間と、《生息の指輪》のような神器でしか戻らない。


 「人も揃ったし、ここから離れよう……私、少し急ぎの用事がある」


 「その状態で? 休めないほど急なの?」


 千夏が心配そうに支える。


 「もう48時間も寝てないんだよ? スタミナ薬があっても、精神は限界だよ」


 「……外に出てから話す。本当に大事なことなんだ」


 「……分かった」


 「そういえば、天堂の追撃部隊は?」


 その言葉に、周囲の空気が妙になる。


 皆、笑いを堪えるような顔。


 「……あの連中、魔獣に囲まれて……ほぼ全滅」


 「ぷっ――」


 誰かが吹き出した。


 「ぷははは! 見せたかったよ! 理由は知らないけど、魔物ですら強盗行為にキレたんじゃない? 数百体に囲まれてさ! 数だけで踏み潰されるレベル!」


 白夜が腹を抱えて笑う。


 正義の救援者で知られる彼でさえ、今回は同情しなかった。


 「天堂は大損害だ。衡平はますます私たちを恨むだろうが……しばらくは手出しできない。外にはもう、こちらの増援が来ている」


 場の空気は、次第に和らいだ。


 追撃者は代償を払い、

 全員が無事――


 ……私を除いて。


 夜明け。

 鳥の声に包まれながら、私たちは黒樹迷界を踏み出した。


 だが、私は彼らと同行しなかった。


 「ごめん。少し用事がある。後で合流する」


 「単独行動は危険だよ……気をつけて」


 「大丈夫」


 精神の疲労と、失血による眩暈を必死に押し殺しながら。


 私は、ただ前へと歩き続けた。


 どれほど歩いたのかも分からないほど、遠くまで。


 やがて――

 周囲から人の気配が消え、

 誰の声も届かず、

 誰の視界にも入らない場所へと辿り着く。


 死んだような静寂。


 けれど、その静けさが、

 不思議と私の心を落ち着かせてくれた。


 そして――


 インベントリを開く。


 そこには、すでに整然と並べられていた神器たち。


 一つ。


 また一つ。


 そして、もう一つ。


 ――すべてを、身に纏った。


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― 新着の感想 ―
壊滅じゃなくて文字通りの全滅してくれたら良いんだけどあの会長がこんなあっさり死ぬ訳ないよなぁ… さて、フル装備で何をするやら… 次の更新が楽しみですヽ(=´▽`=)ノ
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