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神器も世界樹も神獣卵も買った。あとはゲームが現実になるのを待つだけ  作者: 狐白
1.

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第34話

「……な、なに……する気……!?」


 思わず足がもつれ、私は慌てて後ずさった。

 燈里との距離を、反射的に引き離す。


 気づいた時には、弓はすでに手の中に具現化していた。


 暗夜血族――超希少種。

 前世でも、私が知る個体は燈里ただ一人。


 もし、彼女に噛まれたら。

 その先にどんな結末が待っているのか――

 正直なところ……私は何も知らない。


「何を、そんなに怖がってるの?」


 燈里は、血の色を宿したその瞳を、ゆっくりと伏せた。


「噛んだりしないわ……少なくとも、今はね」


「…………」


「まだ、理性を失うほど飢えてない」


 燈里は短剣を近くの枝に引っかけ、苦しげに、だが確実に身体を起こす。


 私は視線を逸らさず、距離を詰めることもなく、ただ彼女を睨み続けた。


「……血を飲めばいいだけなの?

 動物の血じゃ……ダメ?」


「ダメ。人の血じゃなきゃ、意味がない」


 小さく、しかしはっきりと首が振られる。


 胸の奥に溜まっていた息が、思わず零れ落ちた。


「……よかった。

 じゃあ……私の血は、無理だよね?」


「狐妖の血はね――

 人の血より、百倍は魅力的よ」


「……っ……」


 一瞬、言葉を失う。


「……だったら――

 やっぱり、殺すしかないじゃない」


「どうぞ」


 燈里は戯けたように首を傾げ、

 自ら喉元の急所を、無防備に晒した。


「……私が、本気でやらないと思ってる?」


 私は弓を引き絞り、矢先を燈里の咽喉へと定める。


 燈里は目を閉じたまま、何も言わない。


 薄暗い密林に残るのは、

 風が葉を擦る、かすかな音だけ。


 ……くそっ。


 こいつ……いったい、なんでなんだ。


 あの日。

 前世で、私が死ぬ直前――


 どうして、あいつは。

 命を懸けてまで、私の仇を討った?


 どうしてだ。


 どうして……!?


 私たちは敵だった。

 不死不休の、宿敵だったはずなのに。


「――バンッ!!」


 弓弦が弾け、

 放たれた矢は、燈里の頭のすぐ横の木へと深々と突き刺さった。


 拳を強く握りしめ、

 私は俯いた。


「……手首を切る。

 下で受けて。

 直接触れなきゃ……感染しないでしょ?」


「ふふ……

 わざと外したお礼に、ひとつ教えてあげる」


 燈里は、かすかに口角を上げる。


「私の種族は、少し特殊なの。

 一度飲んだ相手の血しか……もう、飲めなくなる」


「……やっぱり――

 死ね!!!」



「ゴォン――ゴォン――ゴォン――ゴォン――」


 樹海の空に、突如として重苦しい鐘の音が響き渡った。


 四度。

 それを合図に、森全体が不気味に揺れ動き始める。


「夜鐘……!

 まずい!!」


 木々が生き物のように蠢き、歪み、位置を変えていく。

 来た道は密集した樹壁に塞がれ、

 地形そのものが、別物へと塗り替えられていった。


「伝承によれば、夜鐘が鳴るたびに、

 黒樹迷界の構造は変化する。

 牽引ロープは一時的に無効化され……

 迷い込んだ者は、二度と出られなくなる」


 燈里がふらつきながら駆け寄り、私の腕を掴む。


 反射的に、身体が強張った。

 それでも……振りほどかなかった。


 地形は、刻一刻と変わり続けている。

 ここで離れれば、迷宮に引き裂かれる。


 夜の黒樹迷界は――

 危険すぎる。


「危ない!!」


 弓を引く暇もなく、

 私は弓身そのもので茂みを叩きつけた。


 飛び出してきたのは――

 頭よりも大きな、巨大なオオスズメバチ。


「オオスズメバチ!?

 一体見つけたら、近くに巣がある!

 走って!!」


 私が先頭を切り、

 燈里は私の肩に腕を回し、必死にはぐれないようにする。


 空は急速に暗くなり、

 もともと乏しかった森の光は、完全に失われつつあった。


 魔物たちが目を覚ます。

 闇の中、無数の緑色の視線が、私たちを捉える。


 ……早く。

 安全な場所を、見つけないと!


 天秤の瞳――開!


 視界が切り替わり、

 茂みに潜み、奇襲を狙う魔物たちの姿が、次々と浮かび上がる。


 だが――

 それは安心どころか、背筋を凍らせた。


 夜の魔物密度が……異常すぎる。


「シュッ、シュッ、シュッ――!」


 矢を、機関銃のように連射する。


 それでも、魔物は減らない。

 むしろ……増えていく。


 だめだ。

 回復役がいない。

 このままじゃ……消耗戦で、殺される!


「急いで!

 ここを離れる!!」


 声を張り上げ、速度を上げる。


 ――遅い。

 こいつ……動きが、鈍すぎる。


 その瞬間。


 肩にかかっていた重みが、ふっと消えた。


 背後から、鈍い音。


「……おい!?」


 振り返ると、

 燈里は地面に倒れ、動かない。


 魔物たちが、その隙を逃すはずもなく、

 波のように、彼女へと殺到していく。


 ――前世で、何度も夢に見た光景。


 死ね。

 こいつが死ねばいい。


 ようやく……死ぬ。


 私は、やるだけのことはやった。

 助けに戻れば……私も危ない。


 それでも……


 それでも……!!


「なんでだよ……!

 なんで、なんだよ!!!」


 歯を食いしばり、空に向かって叫び、

 私は一気に、魔物の群れへと飛び込んだ。


 くそったれ!

 お前が、なんで私の仇を討ったのか――

 それを聞くまでは、絶対に死ぬな!


 借りなんて、作らせない!

 後悔を背負って生きろなんて、御免だ!


 こんなやり方で勝ったつもり?

 一生、私を苦しめる気?!


 ――ふざけるな!!!

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― 新着の感想 ―
もしかして前世でもこっそり血を飲んでた? 襲うふりして襲ってたな笑
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