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神器も世界樹も神獣卵も買った。あとはゲームが現実になるのを待つだけ  作者: 狐白
1.

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28/52

第28話

――石像の魔法使いの残りHPは、10%。


どんなボスでも同じだ。

一定のHPラインに到達すると、新たなギミックが解禁され、攻撃はさらに凶暴さを増す。


そして残り10%に入った瞬間――

石像の魔法使いの攻撃範囲は、突如として大きく拡張された。


魔法は、もはや点ではなく面。

絨毯爆撃のように降り注ぎ、絶え間ない回避には莫大な体力を要求される。


それ以上に致命的だったのは――


放逐結界の範囲までもが、拡大したことだ。


「……ごめん、みんな……

 俺……もう……走れない……」


ヒーラーの山本直人が、その場に崩れ落ちた。


彼は、このパーティで唯一の回復役だった。

戦闘開始から今に至るまで、すべての負傷を一身に引き受け、癒やし続けてきた。


そして、この最終局面で――

ついに、生理的限界へと到達したのだ。


今この瞬間、

どれほどの意志力があろうとも、

疲弊し切ったこの身体を、もはや動かすことはできない。


「お前はヒーラーだろ!?

 な、なんでそんな不用意なことをした!!

 お前がいなくなったら、誰が回復するんだ!?」


その叫びと同時に、

神代明人の胸を、はっきりとした恐怖が貫いた。


――直人は、唯一のヒーラー。


残り10%。

ボスが完全な狂暴状態へ移行し、

攻撃力も範囲も最大に達する、

まさに“回復量が最も必要な局面”。


その瞬間に、ヒーラーが放逐された。


「みんな、位置取りに気をつけろ!

 自分で避けろ! あと10%だ!

 まだチャンスはある! 9%!!」


〈システムメッセージ〉

〈隊員・佐々木 健(盾戦士)が戦闘不能になりました〉


ひとつのアイコンが、静かに暗転する。


――そして、消えた。


ヒーラーの放逐よりも、さらに致命的な事態。


回復を失ったことで、

盾戦士が倒れたのだ。


まるで、最初のドミノが倒れたかのように。

盾戦士の死と同時に、モンスターの攻撃対象は、

防御力を持たないDPS職へと一斉に移った。


〈システムメッセージ〉

〈隊員・鈴木 悠斗(剣士)が戦闘不能になりました〉


「もう一人の盾役は何をやっている!?

 なぜ挑発を使わない!!」


神代明人が、喉を裂くように怒鳴りつける。


「ヒーラーがいないんだぞ!?

 俺がヘイトを取って……そのまま死ねって言うのか!?

 い、嫌だ……死にたくない!!

 俺は……俺は死にたくない!! いやだあああ――!!」


二人目の盾戦士は、完全に戦意を喪失していた。


死への恐怖は、

いかなるチーム責任よりも、はるかに重い。


――形勢が崩壊した、その瞬間。


貪欲によって押し殺されてきた恐怖が、

決壊した洪水のように、一気に噴き出した。


これは、ゲームではない。


殺されれば、死ぬ。


神代明人は、四散して逃げ惑う仲間たちを呆然と見つめる。


その瞬間、

目の前の光景は、どこか遠くへ引き離されたように感じられた。


仲間の悲鳴は耳に届かない。

代わりに残ったのは、

古いテレビの通電音のような、

耳を刺す高い蜂鳴りだけだった。


――すでに三人が死亡。

さらに二人が放逐。

戦える戦力は、残り五人。


ボスの残りHPは――9%。


だが、その最後の9%は、

まるで鋼鉄の壁のように、微動だにしない。


狂暴化した烈火が、戦場の隅々まで広がり、

分不相応な冒険者たちの身体を焼き尽くしていく。


「……ありえない……

 どうして……こんな……」


――死。


その言葉は、

降りかかるまで、誰にとっても遠い存在だと思われていた。


神代明人は、自分こそが主役だと信じていた。

この時代は、自分のために用意されたものだと。


数多のダンジョンで首位攻略を成し遂げ、

ゲーム内容を知り尽くしてきた。

それが現実になったのなら――

当然、自分は“大人物”になるはずだった。


世界を支配するギルドを築き上げ、

やがては、あの高慢な大統領たちですら、

自分の前に跪く――。


「……なのに……どうしてだ……

 俺は、このダンジョンを知り尽くしているはずなのに……」


〈システムメッセージ〉

〈隊員・加藤 修(魔法使い)が戦闘不能になりました〉


「出してくれ!!

 頼む、外に出してくれ!!

 もう二度とダンジョンには来ない!

 悪かった、俺が悪かった!!」


盾戦士が、嗚咽を交えながら結界を叩き続ける。


戦闘開始と同時に、フィールド結界は展開されていた。

システムは告げている。

三十分耐え抜くまで、脱出は不可能だと。


だが、このパーティは火力職が多い。

ボスのHPは9%まで削ったが、

戦闘開始から経過した時間は、まだ二十分。


残り十分――

狂暴状態のボスの攻撃力を前に、

耐え切れるはずがなかった。


神代明人の肩に、火球が直撃する。


紫黒色の炎が皮膚を焼き、

引き裂かれるような激痛が走った。


だが彼は、

それすら感じていないかのように、虚ろだった。


意識が途切れる直前、

彼は悔恨に歪んだ顔で、前方に浮かぶもう一つの映像を見る。


――白夜の配信画面。


その表情が、

ありえないほど醜く歪んだ。


死の瞬間に至ってなお、

彼は自分の過ちを認めようとしなかった。


今この瞬間、

彼が望んだのはただ一つ。


――もっと多くの人間を、道連れにすること。


「俺は悪くない!!

 弱いのはあいつらだ!!

 あのクズみたいなDPSが弱すぎるんだ!!

 本当なら、勝てていた!!

 首位は俺のものだった!!」


「三人ヒーラーだと!?

 それがどうした!!

 全員死ね!!

 地獄で俺に付き合え!!

 首位は俺のものだ!!

 ハハハハ――!!

 お前たちには、絶対に渡さない!!」

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