第19話
〈鉄牙団〉?
……聞いたことない。
「お前ら、毎日オフィスに座ってるだけのクズどもが!
レベルが上がったところで何になる!?
戦う覚悟もねぇくせに、モンスターを見たら震えて動けなくなるだけだろ!
だったら、この狩場は俺たち〈鉄牙団〉に任せろ!」
挑発してきたのは、屈強な体格の大男だった。
背が高く、眉毛もなく、見るからに凶悪な顔つきをしている。
「向こうにも狩場があります。
こちらのレベリングの邪魔はしないでいただけませんか?」
〈余火〉のメンバーの一人が、眉をひそめながら前に出て交渉する。
次の瞬間。
男は相手の胸ぐらを掴み、鼻先が触れるほど顔を近づけて怒鳴りつけた。
「ふざけてんのか!?
あっちは【腕喰い】が五体しか湧かねぇ!
だが、ここは十体だぞ!!」
「……それで?」
由衣が剣を抜いた。
「喧嘩を売ってるの?
命を賭けて?」
男は掴んでいた手を放し、鼻で笑う。
「まさか。
人数も大して変わらねぇし、ガチでやったら両方ボロボロだ」
「だから――文明的に決着をつけようじゃねぇか」
「負けた方が、この狩場を明け渡す。
それでどうだ?」
「いいわ。
どうやって?」
「剣術勝負だ!」
男は声を張り上げる。
「お前らの中の誰かが負けたら、
この経験値を独占する資格はねぇってことだ!」
「武器は……そうだな。
本当の怪我は困るから――
頭の上の“名前”を武器にするってのはどうだ?」
「急所に当てた方の勝ちだ」
そう言って、男は自分の頭上に表示されていた
『雷堂 鉄山』の四文字を掴み取り、手の中で軽く振ってみせた。
「……合理的ね」
由衣はうなずいた。
剣術の経験があり、多少の自信もある。
「待てよ!」
男が手を上げる。
「俺が直接お前とやるとは言ってねぇ」
「俺がそっちから一人選ぶ。
そんで、お前らもこっちから一人選べ」
「それが一番フェアだろ?」
「じゃねぇと、この体格差じゃ、
俺が一方的にいじめてるみてぇじゃねぇか」
由衣は一瞬、嫌な予感を覚えた。
だが返事をする前に――
男は突然、こちらを指差した。
「そこのお前!
そう、そいつだ!
前に出ろ!」
「……?」
私は一瞬、きょとんとした。
左を見る。
誰もいない。
右を見る。
……やっぱり、誰もいない。
ゆっくりと自分を指差す。
「……え?
私?」
「そうだ!
お前だ!」
「ちょっと待って!」
〈余火〉のメンバーたちが一斉に剣を抜いた。
「いくらなんでも卑怯すぎるだろ!
こっちで一番細い女の子だぞ!
しかも弓使いだ!」
「それなら、最初から奪った方がマシだ!」
「いや、言っただろ?」
男は平然と肩をすくめる。
「お前らも、こっちから自由に選べる」
「うちには女もいるし……
子供だっているぜ?」
一同の視線が、〈鉄牙団〉の陣営へと向く。
……本当に、子供がいた。
「じゃあ、あれだ!!」
由衣が止める間もなく、〈余火〉の一人が叫ぶ。
「お前が言ったんだぞ!
あの子だ!
あの子を出せ!!」
「いいとも!」
男は大声で笑い、手を叩いた。
「対戦相手は決まりだな!
一言もねぇな!」
人々が一斉に左右へ退き、
その子供の前に――
無駄に、
やたらと、
広い道ができあがった。
男が朗々と叫ぶ。
「出てこい!
ムバラク・ンゴロゴロ・ムワナバラ・ンディフェラ・
サンゴマ・バシール・アブドゥル!!!」
「……???」
「おい、ちょっと待て!
一人だけって言っただろ!?
今、何人呼んだ!?」
〈余火〉のメンバーたちは完全に石像と化し、
呆然とした目でその子供を見つめた。
ゆっくりと立ち上がる少年。
頭の上には――
街灯よりも長い名前が表示されている。
そのまま、こちらへ歩いてくる。
そして。
少年は両腕を伸ばし、
頭上の名前を掴み取った。
次の瞬間。
それは、
十数メートルにも及ぶ、
究極の長剣へと変わっていた。
「……」
「ははははは!!」
男は勝利を確信した顔で高笑いする。
「ムバラク・ンゴロゴロ・ムワナバラ・ンディフェラ・
サンゴマ・バシール・アブドゥルは、外国生まれだ!」
「名前が長ぇのも当然だろ!
剣が長いくらい、何が悪い!」
悪いに決まってるだろ!!
「対戦相手はお前らが選んだんだ!
今さら後悔しても遅ぇ!」
「行け!!
ムバラク・ンゴロゴロ・ムワナバラ・ンディフェラ・
サンゴマ・バシール・アブドゥル!!!
突撃だ!!!」
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