episódio.7 伯都
当日の野外夜警において、獰猛極まりない伯都が出現したとの騒動があった。
常時開放している躙口同様の裏門から、腹ごしらえのために下山して侵入したと思われる。下顎の歯牙が異常に発達しており、長大にして鋭く、人間一人を食むに骨までかみくだく咬合力を兼ねているかのようである。
守衛兵総出で笹穂槍でもって包囲して威嚇するも、凶暴な巨大伯都はさらさらひるまず、毒牙を剥き出して這うような低姿勢で鷹視を振りまく。
とはいえ、前途は利鎌の挟撃で踊りかかるには危うく、さりとて遁走もできない。大牙の伯都は、終始気性を荒めて吠えていた。
そこへ、事情を側聞したキドンが、ロンパイアを片手に現場へ参上する。
将帥の登場に、当座の守衛兵一行は笹穂槍を引き下ろし、しりぞいて道筋を開削しながら円陣を組んで狩り場となるスペースを確保する。
かたや伯都は、相克となるキドンが体躯の小さな弱々しい青人草だと早合点して、けろりとあなどって勝ち気を誇示した。
一方のキドンは、一定の間合いを保持して静止し、ロンパイア脇構えの体位で伯都の出様を待つ。
するに伯都は、鉤爪を立てつつ、けたはずれの脚力で跳躍し、キドンとの間遠を一気にせばめた。そして、咫尺に及んだキドンを捕食すべく、伯都は必殺のスラッグをかざしながらおおぶりに開口する。
ひるがえってキドンは、うぬぼれる伯都を今しもあれカモネギと定めて、こしらえていたロンパイアを真横に一閃なぎ払った。
よって、暖簾に腕押しのごとくさっぱりむなしくも、伯都は私物の片目が深々と裂けてたちまちに失明してしまうという不遇をなめるのだった。
半盲となった伯都は、相当に面食らったようで、目元の流血を何度もぬぐう。さするうちにどんどん創部の炎症が悪化して、疼痛にたまりかねてさらに半狂乱となった。
悲鳴をあげる伯都は、みじめさながら尻尾を巻き、転がるように逃げ出してつつ、ただちに金城を脱出してまたたくまに蒸発した。
結果、キドンが野生伯都を搦手で追い払ったおかげで、都邑での人的被害が発生することはなかった。
国家周辺は密林に覆われているため、田畑食い荒らしに始まる獣害にはだいたい慣れている。
このたびの狼藉伯都も殺処分すべくならば実行できたのだが、なにせ今日に限って刀身の研磨が間に合わず、サビれたなまくら刀ではとてもハマリオの兜首を両断できずして斬殺には至らなかった。
まったく、惜しいことをした。
さておき、人喰い虎の遊歩散策は、城外付近では頻繁に散見される。実際、トレッキングを楽しみたいがばかりに下城した婦女子が、夕刻にはおぞましい咬傷を負って帰ってくることとてしばしばである。
文明開花もトップレベルを誇りながら、無為自然には勝てぬところが人類の限界といったところであろうか。




