episódio.3 将帥キドンという男①
キドンの肌は、黄色であった。
後頭部で団子状に束ねられた濡烏の御髪の当国としては特異で、この男がまごうことなき変わり種であることは一目見ればわかる。
吊り上がる切れ長の両目とて、世辞でも好印象とは言えなかった。
そして矮躯、低身長で小柄な体格は本人としてもコンプレックスにようだ。そのわりに、精悍な筋骨には過分恵まれており、大入道に劣らぬ軍人らしい烈日の気迫を醸し出している。
出自はわからないが、彼はおそらく難民である。
心優しい先代国王による手厚い庇護のもと衣食住には困らなかった他方、移入者への愛国教育にちなみ通常任意の軍属こそ幼くして強いられはしたが、特段レイシズム的環境下に敷かれることもなくいたって尋常一様の人生を歩んできたつもりだという。強制入隊以来目まぐるしく頭角をあらわすキドン自身の、輝かしい武功の蓄積に相応した立身出世を見れば、その順風満帆な私生活がうかがえよう。
今は亡き先住であるが、遺言の中にキドンのことを「我が愛息子」を称しており、かつてちっぽけだった落人のこうして立派な将帥にまでのし上がった背中をつねづね誇らしく思っていたようだ。代わって今上タイラントも、キドンの胸板にべったりと依存しているところである。
キドンにとって、国王からの確然たる信頼は最上の名誉だった。
エトランゼふぜいが蒼生の顔をして国防のまねごととは虫唾が走るなどとの批判は散々に浴びたが、忠君には自身のあるキドンであるので意地を張って飄逸芝居にこだわっていた。
それにしても、今年の乾季は例年にも増して猛暑である。
かような炎天下にもかかわらず、忠節国士隊の千余名が寒気立つ口渇を我慢してまで日課の真剣演習にいそしんでいるのは、キドンによる厳格な指導がしかと行き届いているからだ。
本日、曙光を待たずして起床したキドンは、卓上に山積する各班書簡の検閲整理に午前中をついやすつもりでいたのだが、なかばで意欲が失せたので、息抜きがてら練兵風景をうかがいにベイリーへ赴く。
さもあらば具足を着用すべきところを、発汗して茹だるのがイヤで、裁付袴に小袖の直垂のみという薄着装備で入場した。
そして、ベイリーに一歩を踏み入れた将帥の姿を打見するなり各自干戈をおさめてきぜわしく長揖を捧げる健気な隊員たちには一瞥もくれず、己は拱廊の日陰に隠れて墓石のように黙々と直立するのだった。
そのうち、ぼちぼちと稽古に戻っていっそう奮励する面々の一挙一動を、最近の兵卒はお粗末だ云々と思いながら、青筋の立つ腕を組んでしばらく傍観する。本人もうすうす察してはいるが、へしぐちの鬼相ににらまれる程度で手元をすべらせる新米どものなんと打たれ弱いことか。
キドンのこめかみから、ひとしずくの脂汗がしたたる。
途中一瞬、紫外線の熱気に少々めまいを覚えてよほど背後の白壁にしなだれたい衝動に駆られるも、今に血反吐を吐きかける諸君の前で随一のもののふがあごを出して弱っていてはとんだお笑いぐさだと思い直し、流汗もぬぐわず気丈を保った。
やがて、日時計が正午を回る一刻前となった。都心のカンパニーレから鐘声が響き聞こえれば、念願の昼飯休憩である。
定刻を心待ちにしつつ、ベイリーでの喧騒は空腹に耐えてなおも続行されていた。
そこへおり悪く、石積みの中門から見慣れた三人組の憲兵がひょっこりと顔をのぞかせたのである。
この三人は、公認の治安組織に所属する傑物で、日頃は城下町の警備巡回にあたり民衆の風紀管理を担っている。防衛をつかさどる勅選の忠節国士隊とは明白に一線を画すため、あいにくキドンの統帥する範疇ではなかった。
ゆえに奉行所の機能たるやいかほどかは知ったことではないが、だいたい少なくともこやつらの普段の素行に信頼性があるというもの疑わしい。
現に三人組が昼放課前の城内を徘徊しているところを見るに、おおかた勤務中に所管を放棄したのか、あるいはやや赤ら顔なのは朝間から繁華街の酒場をうろついて女ともども遊び歩いていたに違いない。
維持すべき秩序を紊乱するのは、たいていいつも高収入で鼻高な吏僚どもだ。まったく、命もかけたことのない貴公子に、国家の警保がつとまらなくて当然ではあろう。
一丁前に筆よりも重い警棒や一本鞭を携えておいて、どうせこのかた縄をかけたこともなし、虫の好かぬ相手にだけ喧嘩を売っているのだ。




