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episódio.16 御金蔵の文明

 旭日昇天前には平然として帰城したカリーノ姫であるので、秘密の沐浴が諸人に露見する遺漏はとうとうなかった。

 その代わり、本日のカリーノ姫はいつになくすがすがしい顔色であったという。


 ところで今日の正午前は、アルコとともにバービガンの壁面に隣接する巨大な校倉造(あぜくらづくり)御金蔵(みかねぐら)へ赴いた。

 いわれ、貿易相手の他国から新入荷したと伝わる、ニューモデルの反射式天体望遠鏡を見学したいとのことである。


「きみ、ロマンなんて知らんだろ。見せてあげるよ」


 アルコはさように明言して、啸風子を御金蔵へ帯同させた。


 御金蔵にて、貫木(ぬけぎ)に頑丈に封鎖されたる極太のパドロックを解錠し、厳重なかんぬきを押し上げて開放する。

 いざ鉄扉を開門せば、蔵内はパノラマみたく天井高くして広々としていた。そして当蔵に保管されている金品は、啸風子の予想をはるかに上回る文明の利器の幾多数であった。


 たとえば、ガソリンと空気の混合気をエンジン内のシリンダーで爆発させ、その動力でピストンが上下に操作されて、クランクシャフトが回輪することでタイヤが進行するというオートモービルがある。

 また、石炭入りのボイラーで発生した蒸気の圧力でシリンダーを往復させ、クランク構造によって動輪を回転させて走行する蒸気機関車と呼ばれる大きな車駕(しゃが)も所蔵されている。

 はたまた、十二馬力の水冷直列四気筒のガソリンとプロペラを搭載した、ピッチング式のライトフライヤーまで収納済みだ。


 もっとも画期的であったのは、受像機だ。

 反射される電子ビームを、ブラウン管でスキャンさせた蛍光体を光らせることで、目に見る映像がうつし出されるらしい。これ一台で、世界の情報収集が可能になるのではなかろうか。


 そのほか、小物も豊富であった。

 アンティークな方位磁針や懐中時計、骨董品や家具に、海外の紙幣までそろっている。


 この御金蔵、みくびれぬ。


 そして、肝心の反射式天体望遠鏡はであるが、重ね重ねその至宝たるや満艦飾のごとしである。

 岩ぶかい三脚を支柱に数十尺はあるであろう黄金の大鏡筒が、天体へ向いて傾いている。それをアルコは、アイピースをのぞきつつ、驚嘆の嵐を吹かせていた。


 余談、アルコの発言していた「ロマン」とはいったいなにを意味するのだろうか。

 

 ここ御金蔵とはようするに、多様なる国交でつちかわれた戦利品である。貧しい国内で不足している要素を、他国との通商貿易でおぎなっているのだ。かようなあふれんばかりのテクノロジーは、自給自足の高度経済を実現するルンブラン公国にはそなわっていない。

 かかる側面では、未開地シェメッシュ小邦のほうがより流行を先取するに近代的と言えよう。


 もちろん本音を隠さずとも、啸風子は数々の財宝を刮目した。

 もしそこにロマンを感じるというなれば、それは獲得する最新技術への幻想であろうか。 


 啸風子は、シェメッシュ民族をたかだか野蛮人なりてと決めつけて蔑視していたことについて、たいして考慮の余地にも置かず懺悔はしなかった。

 ただ、本国の革新性のある政治手法には、俯瞰的にとらえてほどよく感心を見せるのであった。


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