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episódio.1 自然淘汰

 人間の視野で換算するに、いちじるしく先進を極めている社稷(しゃしょく)は古くからルンブラン国とささやかれていた。


 高山を切り開いて建立したコンセントリック式の大城郭を中心に、平野には開豁(かいかつ)として農商業都市の広がっている国である。長年事業に尽くした森林伐採による都市開発で、自給自足に困らぬ豊かな農耕文化を生業に発展の勢力はとどまるところを知らない。また近年には、遠方の淡海から用水路を流し、旱魃のもたらす天災までもを克服したばかりだ。

 文明技術においても。つねに時代の最先端を壟断(ろうだん)するのが、本土ルンブランである。


 しかし、当国至高の自慢といえばなんといってもほかの追随を決して許さぬ堅守猛攻な軍事力だ。ルンブラン国王タイラントの威光を背負って数々の敵国をほふりたるは忠節国士隊の名で世に聞こえる屈強武鎧の大規模な精鋭組、これを目前にして凌駕を狙った魚群がことごとくさばかれるというのは想像にかたくない結末であろう。

 ましてや、この忠節国士隊を統括する戦歴無敗の将帥に、擦過傷の一本もを残せる者など前例なきままに誰一人として存在するまい。


 ときに、午天の暗いしのつく雨の日であった。降水は、久方ぶりである。

 火花を散らすにはやや湿気くさい平野にて、杉木立(すぎこだち)の沿線に堂々泰然と不動の布陣を組んでいた忠節国士隊の将帥キドンは、戦端をひらいて半刻と経たぬうちに総勢の撤収命令を下した。対峙していた少人数の敵兵部隊が、忠節国士隊の単に石火矢を数発ほど空撃ちしただけの出鼻の威嚇にあっさりと怖気付き、戦意を失って四散のうちに走り逃げていく様子を目認したからだ。


 白旗に泣く泣くしがみつく濡れ犬をなんの執念のないのにしつこく叩いて余興を楽しむやからもおりおり見かけるが、キドンはさまで不敬な戦闘狂ではない。その滑稽なまでに無様な後ろ姿を、勝利の微笑にもひたらぬ将帥は、追撃を施さずに黙々と見送ったのである。

 とまれ、このたびはひとまず、敵方の脅迫に成功したのだから、成果は十分である。差し当たり、大上段にかまえる隣国シェメッシュが列強ルンブランにその高慢な天狗面を向けられぬようにしたまでだ。もっとも、その効果が薄らいだ時、キドンに二度目の温情が灯るとは限らない。


 ちなみに、なぜこのような摩擦が勃発したのかというと、その原因はルンブラン公国の開拓方針にシェメッシュ小邦が従わなかったところにある。

 そも、前年に続く異常な日照りの猛威によって国内唯一の水源たる淡海が深刻な枯渇問題を抱える羽目となり、ルンブランの人々はかねがね新しい秘境を探し求めていた。あたかもよし、邦境周辺を覆う深い密林の奥地に滔々(とうとう)と流れる未到の大河を発見し、昨今ようやく念願だった大型灌漑施設の開発工事に着手したばかりだ。


 ところが、ここで出現した厄介者が、シェメッシュ小邦の原住民である。


 この唐変木どもは、高嶺の文明人に盾付き、やれ我々の神聖な霊域に生臭坊主が足を踏み入れるなだの、やれ勝手の過ぎる自然破壊で神々のお怒りを買っただのと、根も葉もないいかがわしい凡神論をひけらかして重箱の隅をつつくような小言で罵る上、石を投げてはルンブラン公国の事業進行を妨害するのだ。

 ひょっとして羨望の大河は隣国シェメッシュの保有するれっきとした領地ではあるまいかと一時は不毛な侵略を避けて惜しくも灌漑工事中止の決断に迫られたが、よくよくうかがうになんと当河川は無主地であり、単に土著(どちょ)が代々昔から礼拝を捧げているだけの信仰的サンクチュアリだと言うからばかばかしい。


 したがって、先占支配というパイオニアの特権を行使し、対岸にいりびたっては苦情を叫ぶ抗議団体をもれなく追払い、たまに登場しては堀割撤去の強請を令旨として読み上げる居丈高(いたけだか)なシェメッシュの聖騎士も無視し続けて、国営のプロジェクトを強引に推し進めた。


 結果、逆上したシェメッシュ国防隊との武力衝突に至ったわけだが、さようなシビリゼーションにとぼしい蛮族を打ち負かすのはなんら造作ない。

 口ほどにもない連中の顛末はたかが知れている。


 馬上で腕を組むキドンは、情緒に欠ける真顔で遠ざかる賊軍を見据えながら、やおら無意識にこわばっていた肩の力を抜いた。


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