嫌いだから好き
久しぶりの休日、俺と彼女は2人で過ごしていた。
小雪の舞う寒い1月、外へ出掛けるのも気が引けるのと、
俺が外出をそこまで好まないのとで、必然的に俺の家でくつろぐこととなる。
特にやることもなく、コタツに足を入れて、2人は自然と向かい合った。
すると彼女がこう言い出した。
「あのね、本当はコタツが嫌いなの」
「…は?」
これだけ何時間も俺の大好きなコタツでゴロゴロしていたというのに、
今更何を言うんだ、と俺は素っ頓狂な声をあげた。
「コタツだけじゃないの。猫も、お風呂も、あんたの着てる服も嫌い」
「…ふぅん」
無表情に淡々と言う彼女の顔から、俺は目を反らした。
何気なく答えたが、次に来る言葉が怖かった。
彼女はああ言ったが、コタツから頭だけ出して眠っている飼い猫の頭を撫でている。
多分本気ではないのだろうと俺も感じていた。
が、暫く続く長い間に、俺はその場にいられなくなり、
さほど飲みたくもないが飲み物を探しに、冷蔵庫へと向かった。
「でもね、ちゃんと理由があるんだから」
その言葉を俺は背で聞いた。
「あたし、あんたを愛してる。心から。
だからあんたの好きなものは全部嫌い。あたしだけを好きでいて欲しいの」
その言葉が続けられた時、
冷蔵庫を開いたまま、俺は彼女の方へ向き直した。
「でもね、あたしの大好きなあんたが好きなものでしょ?
それが好きになってこそ、あんたの全てが好きな証拠だと思うの。だから今は大好き」
そこまで聞くと、俺は困ったような笑顔を彼女に見せたと思う。
「凄い嫉妬で愛されてるなぁ、俺」
「凝り性だから。全部知り尽くしたいの。一途でしょ?」
と、彼女はニッと笑顔を見せた。
「じゃあ、凝り性な君の本音が分かった所で、乾杯しようかな」
「昼間から酒煽るのは趣味じゃない」
「ジュースだから大丈夫」
と、俺は水を取り出そうとしていた手を動かし、
奥にあった、ワイン代わりのグレープジュースを取り出した。
それから冷蔵庫を閉め、
ワイングラスと一緒にコタツにそれを置き、また彼女の前に座った。
コタツには似合わない乾杯だけれど。
end.