若者達
クナー支部の登録カウンター前に、四人の若者たちが列を作っていた。皆、まだ日に焼けた肌に若さが滲んでおり、粗削りな装備ながら、目の奥には強い意志と希望が光っていた。
「農村出身でね。ドガ村ってとこ。街道沿いの寂しいとこだけど、みんな仲間なんだ」
代表らしき青年がそう語ると、隣の魔導士志望の少女が照れくさそうに笑った。
「名前は決めてるの、『種蒔きの星』って。夢が芽吹くように、って意味をこめて」
エミリーは書類に目を通しながら、彼らの顔を順に見た。簡素な鎧に手作りの武器、だがその背筋はまっすぐだった。
「登録は完了。あとは、指導官の模擬戦を経て初期ランクが決まるわ」
そこへ現れたのが、ギルド訓練部門の責任者、ジークフリート・エッゲルト。片目に眼帯をつけた大柄の男で、かつては戦場を駆けた歴戦の冒険者だった。
「俺が相手をする。気を抜けば叩きのめす。それが模擬戦だ。準備はいいな?」
闘技場に場所を移し、模擬戦が始まった。若者たちは連携こそ粗いが、互いを庇い合いながら必死に食らいついた。だがジークフリートの読みと技量は彼らの数段上。わずか数分で全員が地面に倒れ、息を荒げていた。
「ふむ……やる気は買うが、まだまだ未熟だな。認定は銅級。最下位ランクからだ」
それでも、彼らの表情には悔しさの中に火が灯っていた。だがその直後、ひとりが口を開いた。
「だったら、最初から危険な依頼をやって実力を証明します。鋼級くらい、すぐ追いつけます!」
「待って、それは……」
エミリーは声を止めたが、彼らはすでに依頼掲示板の前へ向かおうとしていた。彼女はため息をつき、すぐに追いかけて彼らを制した。
「わかるわ、その気持ち。でも、銅級っていうのは『やる気がない』って意味じゃないの。『まだ準備が整ってない』って評価なのよ」
「でも、早く上に行かないと……俺たち、クナーに来るために全部捨ててきたんです」
エミリーは静かに頷き、書類を取り出した。
「なら、まずはこの依頼から受けて。『港湾倉庫の警備』『商人護衛の同行』……地味だけど、安全とは限らない。だけど、確実に学べる」
彼らは一瞬、唇を噛んだが、やがて頷いた。
「……わかりました。やってみます」
「そう。それでいいの。クナーは逃げないし、ギルドもあなたたちを見てるわ」
若者たちが去った後、ジークフリートがエミリーの隣に立ち、ぼそりと言った。
「見どころはある。だが、それ以上に無茶な覚悟も見える。育て甲斐があるな」
「ええ、私たちの仕事は、夢を潰さないように、現実を教えること。……優しくも、厳しくね」
海都クナーには今日もまた、新しい種が蒔かれた。それが芽吹くか、枯れるかは、これからの歩みにかかっていた。