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出港

夜明け前の港は、まだ冷たい霧の中にあった。潮の香りと、朝一番に焚かれた松明の煙が混じる空気の中、エミリー・フラーは冒険者たちを引率しながら、クナー港の第五埠頭へ向かっていた。


護衛任務に就く冒険者の数は103名。各人に割り振られた荷物を手に、重装備の者から軽装の斥候、さらには魔導士風の装束をまとった者まで、多彩な顔ぶれが揃っていた。早朝にもかかわらず、冒険者たちの顔には緊張と興奮が入り交じっていた。


「全員揃ってるわね。念のため、再点呼して」


エミリーの指示で副官が名簿を読み上げ、確認が進められる。やがて朝陽が海面を照らし始めたころ、スィニ商会の担当官が姿を現した。彼は分厚い航海記録と配置表を手にしており、船団を統括する責任者の一人だった。


「おはようございます、フラー様。予定通り、十隻が今朝出航となります。各船の定員に基づき、護衛者の割り振りを始めましょう」


埠頭に並んだ十隻の大型交易船。その名を一つひとつ読み上げながら、エミリーは船ごとの守備範囲、航路の危険度、艦長の性格と冒険者の特性を頭に入れて配置を決めていく。


「リューン号には遠距離攻撃に長けた者を。ベラリア号は武装商船だから格闘系を中心に。クラーニュ号は航海士が不慣れと聞いたわ、斥候向きの者を回して」


スィニ担当官は感心したように頷き、メモを取りながら随行の事務官に伝達していく。冒険者たちは指示されるままに乗船し、荷の積み込みを手伝いながらそれぞれの船に散っていった。


昼前、全ての準備が整い、港に出航の号笛が響いた。甲板に並ぶ冒険者たちは一様に海風に吹かれながら、エミリーに手を振る。中には、任務後にもう一度ギルドでの仕事を願い出る者もいた。


「出航──!」


船団が静かに錨を上げ、波を切ってクナーの港を後にする。巨大な帆が風を孕み、白い線を描いて北方へ向かっていく。エミリーは埠頭の端に立ち、手帳を閉じたまま、最後の一隻が水平線へ消えるのを見届けた。


──また誰かが、戻ってくる。そしてまた、誰かが戻らないかもしれない。


その覚悟を胸に刻みながら、彼女は一礼した。

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