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第九話 魂の契約、新たなる誓い

王都の広大な地下水道は、汚水と静寂が支配する迷宮だった。

ジンの案内で、俺たちは追っ手を撒き、束の間の安息を得ていた。

エリアナは、壁に背を預けて座り込み、虚ろな目で自分の右腕を見つめている。先ほどの暴走で力を使い果たしたのか、紋様は静まり返っていた。


「…私、どうしたらいいの…?」

ぽつりと、彼女が呟いた。

「封印を解けば、私は死ぬ。でも、このままじゃ、ヴォイドはずっと苦しいまま…。どちらを選んでも、私たちは一緒にいられない…」

彼女の言葉は、冷たい刃となって俺の意識に突き刺さる。


その時だった。俺の口が、俺の意志とは関係なく勝手に動いた。いや、それは俺の意志だった。邪神ヴォイド・クロウではなく、その奥底に眠る影山蓮の、剥き出しの魂の叫びだった。


「ふざけるな!」


エリアナとジンが、驚いて俺(の言葉を発するエリアナ)を見た。

「お前が死んで、俺だけ自由になって、何の意味がある!そんなもの、ただの地獄じゃないか!俺は…俺は、お前と一緒がいい!お前がいない世界で、星を喰らおうが次元を歪めようが、そんなもの、虚しいだけだ!」


それは、邪神の威厳も、ロールプレイもかなぐり捨てた、本心からの叫びだった。

エリアナの碧い瞳が、大きく見開かれる。

「ヴォイド…」

「俺は、お前を助けたい。お前を、あの理不尽な運命から解放したい。だが、それは、お前を殺すためじゃない!お前と、一緒に笑うためだ!」


俺の言葉に、エリアナの瞳から、再び涙が溢れた。だが、それは絶望の涙ではなかった。温かい、光を帯びた涙だった。

「…うん…うん…!私も、ヴォイドと一緒にいたい!あなたが邪神様でも、世界中から追われても、私は、あなたの隣にいたい!」


その瞬間、二人の魂が、これまでで最も強く、深く、共鳴した。

俺は悟った。この封印は、単なる呪いや枷ではない。俺と彼女の魂を、分かちがたく結びつけている『絆』そのものなのだと。


『――契約を更新する、エリアナ』

俺は、今度は邪神ヴォイド・クロウとして、威厳を取り戻して宣言した。

『かつての契約は「汝は我が器、我は汝の剣」。だが、今この瞬間より、新たな契約を交わす!』

俺の声は、地下水道に荘厳に響き渡る。

『我は汝の盾となり、汝は我が光となれ。我らは二人で一つの神話を描く、唯一無二の共生者。どちらかが欠ける未来など、この邪神ヴォイド・クロウが断じて認めん!』

俺は天に向かって(意識の中で)叫んだ。

『世界の法則がそうであるならば、そのくだらない法則ごと、我が漆黒の闇で塗り替えてくれるわ!』


俺たちの新たな誓いに応えるかのように、エリアナの右腕の紋様が、眩い光を放った。

禍々しい黒い茨の紋様の中に、まるで銀糸を編み込むように、神聖な光のラインが走り始める。それは、闇と光、絶望と希望、邪神と少女が完全に一つになったことの証。

呪いの紋様は、祝福の聖印へと、その姿を変えたのだ。


「…これが、私たちの新しい力…」

エリアナは、光り輝く自分の腕を見つめ、力強く微笑んだ。

ジンは、その光景を呆然と見ていたが、やがてニヤリと笑った。

「…はっ、神様に喧嘩を売るたぁ、最高にイカしてるぜ、あんたたち」

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