表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/28

第二十七話 二人で一つの未来

光が、ゆっくりと収まっていく。

始まりの祭壇に満ちていた神聖なエネルギーは、まるで春の雪解け水のように、穏やかに大地へと還っていった。

俺は、自分の手を見つめた。

確かな肉体の感触がある。エリアナの腕の中にいた頃とは違う、完全な自分自身の身体。

そして、目の前には涙を浮かべながらも、満面の笑みを浮かべるエリアナがいた。


「…ヴォイド…本当に、ヴォイドなんだね…」

「ああ、そうだ」

俺は、彼女の涙をそっと指で拭った。その温かさが、信じられないほどリアルだった。

「もう、邪神様でも腕に宿る意識でもない。ただのヴォイドだ」

「…うん…うん…!」


俺たちは、どちらからともなく、強く抱きしめ合った。

長かった旅。絶望的な運命。その全てが、この瞬間のためにあったのだと、心の底から思えた。


「…やれやれ、お熱いこって」

後方から、ジンの茶化すような声が聞こえた。

振り返ると、ジンと、ロランと、ティターニア、エキドナが、俺たちを温かい目で見守っていた。

ロランは、もう迷いのない、晴れやかな顔をしている。彼は、自分の足で立ち上がり、俺たちに向かって深く頭を下げた。

「…すまなかった。そして、ありがとう。君たちのおかげで、俺は本当の『正義』が何なのか、見つけられた気がする」

「ううん」とエリアナは首を横に振った。「私たちも、あなたと出会えてよかった」


その時、大神殿全体が、ゴゴゴゴ…と、地鳴りのように揺れ始めた。

「おいおい、なんだ!?」

ジンが身構える。


天に立つ光の柱の中から、荘厳で、怒りに満ちた声が響き渡った。

《――何者だ。我が創造せし世界の理を、我が定めし運命の歯車を、狂わせる、矮小なる者どもは》


それは、神の声だった。

この世界を創り、支配する、絶対者の声。

俺たちが、神々の定めた運命を覆したことに、ついに創造主自らが干渉してきたのだ。


《許さぬぞ、人間よ。そして、我が力を盗みし、元邪神よ。その罪、消滅をもって償うが良い》

光の柱から、神罰の雷が、俺たちに向かって、放たれようとしていた。


誰もが、その絶対的な力の前に、身動きが取れずにいた。

だが、俺とエリアナだけは違った。

俺たちは、お互いの顔を見合わせ、ふっと笑うと、二人でしっかりと手を繋いだ。


「――お断りします」

エリアナが、凛とした声で、天に向かって言った。

「私たちの未来は、私たちが決めます。あなたの作った物語の、登場人物なんかじゃない」


「――そうだ」

俺も続けた。

「あんたが神様だろうが、創造主だろうが、知ったことか。俺たちは、俺たちのルールで生きていく。文句があるならかかってこいよ。今度の俺たちは、二人なんだからな!」


俺たちの宣戦布告に、神はさらに激しい怒りの波動を放った。

だが、その神罰が俺たちに届くことはなかった。

俺とエリアナが手を繋いだ瞬間。

俺の魂に眠っていた元邪神としての力の残滓と、エリアナの魂に宿る聖女としての聖なる力が共鳴し、俺たちの周囲に、淡い虹色の障壁を展開したのだ。

それは、混沌でも秩序でもない、二人の『愛』と『絆』が生み出した、全く新しい第三の力。

神の力すらも、優しく弾き返す究極の守護の力だった。


《…な…!?我が力が通じぬだと…!?混沌と聖性が混じり合い、新たな理を…?…ありえん…!》

神の声に初めて動揺の色が混じった。

その光景を見て、ティターニアとエキドナは、顔を見合わせて愉快そうに笑った。


「…どうやら、神々の時代も、いよいよ終わりが近いようじゃな」

「ああ。ここからは、あの子たちの時代だ」


神は、しばらく沈黙していたが、やがて諦めたかのように、その気配を消していった。

自分の力が通じない、新たな理の誕生を前に干渉を諦めたのか。あるいは、彼らの未来を見届けることにしたのか。

それは、誰にも分からなかった。


神の気配が消え、大神殿には再び静寂が戻った。

俺たちは、顔を見合わせ、そして、今度こそ心の底から笑い合った。

俺たちの、長い長い戦いは、本当に、終わったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ