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第二十話 目覚めの光、二人の旅路

俺が、次に意識を取り戻した時、最初に感じたのは、驚くほどの『一体感』だった。

これまで、常にどこか別の場所にいるような感覚だったエリアナの意識と、俺の意識が、完全に一つになっていた。

彼女の鼓動が、俺の鼓動のように感じられる。彼女の見る光景が、俺自身の視界そのものだった。

そして、俺の魂は、驚くほどに静かで、穏やかだった。


「…ん…」

隣で、エリアナが身じろぎする気配がした。

彼女が、ゆっくりと目を開ける。

そこは、世界樹の枝に作られた、美しい一室だった。窓からは、柔らかな木漏れ日が差し込んでいる。


「…ここ…は…?」

「目が覚めたかい、お嬢ちゃん」

部屋の隅の椅子に座っていたジンが、にやりと笑った。

「丸三日、眠りっぱなしだったぜ。心配させやがって」

「三日も…?私…」

エリアナは、自分の身体を起こし、そして、自分の右腕を見て、息を呑んだ。


禍々しい黒い茨の紋様も、光と闇が混じった聖印も、そこにはなかった。

代わりにあったのは、まるで銀色の樹木が、腕に優しく絡みついているかのような、繊細で、美しい紋様だった。

それは、もはや呪いでも、武器でもない。ただ、俺と彼女の魂が、完全に一つになったことの証。絆そのものが、形になったものだった。


「…ヴォイド…?」

エリアナが、恐る恐る、俺の名を呼んだ。

俺は、彼女の心に、優しく、そして、はっきりと答えた。

『――ああ、ここにいるよ、エリアナ』


その声は、もはや邪神の威厳を纏ったものでも、脳内に響く重低音でもなかった。

それは、彼女の心の中から聞こえる、穏やかで、温かい、影山蓮自身の声だった。


「…ヴォイド…!本当に、ヴォイドなの…!?」

エリアナの瞳から、大粒の涙が溢れた。彼女は、自分の右腕を、ぎゅっと抱きしめる。

『ああ、俺だ。もう、邪神様じゃない。お前の相棒の、ヴォイドだ』

「…うん…うん…!おかえりなさい、ヴォイド!」


俺たちの再会を、部屋の入口から、ティターニアが静かに見守っていた。

「…見事なものよ。二つの魂が、完璧に調和しておる。もはや、お主たちは、邪神でも、器でもない。二人で一つの、全く新しい生命じゃ」

彼女は、エリアナに一枚の羊皮紙を手渡した。

「娘よ。それは、魂の治癒の際に、お主の深層意識から視えたもの。おそらく、神光の涙の、真の使い方の手掛かりとなろう」


羊皮紙には、複雑な魔法陣と、古代文字で書かれた儀式の手順が記されていた。

それは、聖具の力を、俺たちの魂を融合させるために、最適化するための儀式だった。

『…これが、俺たちの…希望…』


「さて、と」

ジンが立ち上がり、伸びをした。

「お姫様の目も覚めたことだし、いつまでもエルフの世話になってるわけにもいかねえ。そろそろ、出発といくか」

彼の言う通りだった。俺たちの旅は、まだ終わっていない。


俺たちは、ティターニアとエルフたちに、深々と頭を下げて、感謝を伝えた。

「…礼には及ばぬ」

ティターニアは、静かに言った。

「我らは、お主たちの旅の行く末を見届けさせてもらうだけよ。行け、運命に抗う者たちよ。その絆が、神々の欺瞞を打ち砕く光となることを、期待しておる」


エルフの里を後にし、俺たちは再び、旅路へと戻った。

馬車の中で、エリアナは、生まれ変わった自分の右腕を、愛おしそうに撫でている。

「ねえ、ヴォイド。なんだか、あなたが、もっとずっと、近くにいるみたい」

『当たり前だろ。もう、俺たちはずっと一緒だ』


俺たちの魂は、一つになった。

もはや、暴走の心配もない。エリアナが死ぬ運命も、俺たちが書き換える。

手には、聖具『神光の涙』と、その真の使い方の記された儀式の書。

そして、最高の仲間。


俺たちの反逆の旅は、新たな章を迎えた。

神々の待つ、偽りの天国へ、二人で生きる未来を叩きつけるために。

俺たちの戦いは、ここからが本番だ。

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