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煙島のアリア  作者: 酉月(ゆうげつ)
7/15

7 扉の先

「大丈夫か、アリア?」テリーが後ろから声をかけた。


「はい、なんとか…」アリアは不安そうに答えた。


「心配するな。君の兄さんと合流して、次の計画を立てよう」


「チョビ兄さんに…会えるんですね…」


テリーは頷きながら、「そうだ、もう少しだ」と言った。


スノウは一切の迷いもなく、暗い森を抜け、病院の方角へと向かって走り続けた。星明かりが二人を照らし、遠くに病院の灯りが見えた。


「ここが…」アリアが一軒の家を見たとき、テリーは馬を降り、アリアを地面に下ろした。


「急いで、中に入ろう。チョビが待っている」


アリアはついに、自由と兄との再会という希望を手にしつつあった。



* * * * * *



病院の扉を開くと同時に、エミカが迎えに来た。


エミカはすぐにアリアを抱きしめた。

「母さん、どうしてここに?」

アリアは白髪が増えたエミカを見つめた。


「私もここに住んでいるの」


「え?煙島に住んでいないの」


「アリアが城へ行った後、私たちも本土へ戻されたの」

話し声を聞いてか、チョビがやってきた。


「アリア!」


「チョビ兄さん!」

二人は抱きしめあった。


「体が冷たいじゃないか。さぁ、早く中へ入って」


「待ってチョビ兄さん、テリーさんもいるの」


「テリーさん!城にいるはずでは?」


テリーは苦笑いを浮かべながら首を振った。

「計画変更だ。俺も城に戻れなくなってしまった」


チョビは少し困惑した表情を見せながらも、

「そうですか。それなら、さぁ、中に入ってください。寒いでしょう」


テリーは周囲を見回しながら、静かに言った。

「あぁ、でも馬をつなぎとめてから行くよ。スノウには感謝しなきゃな」


「わかりました。じゃあ中で待ってます」

チョビはそう言って、アリアとエミカを中に誘導し、テリーは馬を裏手へ回した。




建物の内部に入ると、温かい光がほっと心を和ませた。

そこには温かな空気と香ばしい薬草の匂いが広がっていた。

木製の床は磨かれており、壁には色とりどりの薬瓶や治療道具が整然と並べられている。


部屋の中央には大きなテーブルがあり、その周りには椅子が整然と並べられている。

テーブルの上には、薬草や医療器具が丁寧に配置されていた。壁には、治療法を示す掲示物が飾られている。



そこに大道芸人の長であるカイ団長が近づいてきて、アリアに言った。


「君がアリアか」

カイ団長は舐めまわすように、アリアをつま先から頭まで見た。


アリアは長身で筋骨隆々のカイ団長に驚きながら、頷いた。

「は、はい、アリアです」


「背はメグと同じくらいだが、服がブカブカだな。君はやせすぎだ」


「その、私は…」

アリアは口を開こうとしたが、言葉が続かなかった。


床に横たわった女の子の姿が脳裏に浮かぶ。


「大変だったね。暖炉のそばで、暖まって」

とカイ団長は優しく促した。


「あの、この度は、ご愁傷様です」

とアリアは丁寧に言った。


「ありがとう」

とカイ団長は短く答えた。


その時、嗚咽が聞こえた。そこには女性と若い男が立っていた。

女性はリサ、若い男はジンだった。


「あの子は最後、最後はどうなったの?」

リサが涙を拭きながらアリアに尋ねた。


「…私がいた部屋に火をつけて、そのまま…」

アリアの声は震えていた。


ジンは拳を握りしめ、後悔の念を押し出すように言った。

「ごめん。俺が、俺が手を、メグの手を掴めばよかった」


ロバートはジンの肩に手を置いて慰めた。

「…起きた事はしょうがない。お前のせいじゃない」


マルタおばばが杖を突きながら近づいてきて、落ち着いた声で言った。

「おばばは、何となくこうなると思っていた。メグは短命だったのだ。ジン、お前が悔やまなくてもいいのだよ」


大道芸人たちは、みんなで慰めあった。


そんな中、すまなそうにテリーが部屋に入ってくると、エミカがお茶を持ってきた。


「さぁ、みなさん特別なお茶を入れたわ」


アリアは手渡されたお茶のカップを両手で包み込み、そっと鼻先に近づけた。

ショウガの香りがふわりと広がり、心がほぐれていくような感覚に包まれる。

彼女はカップを唇に寄せ、一口含んだ。ほんのり甘みのある味わいが、喉を優しく潤しながら体全体に広がり、冷えた体がじんわりと温まっていくのを感じた。


「はぁ…」アリアは目を閉じて、その心地よさに身を委ねた。

肩の力が自然と抜け、緊張が解けていく。久々の感覚だった。


テリーも同じようにお茶を口に運び、ゆっくりと味わって飲んでいた。

彼もまた、ショウガの香りに包まれ、疲れた体が癒されていくのを感じていた。


「こういう時に何だが、早く準備をしないと」

チョビが言った。


「そうだな」

そう言ってカイ団長は立ち上がった。


「準備って?」


チョビはアリアとテリーを二人を交互に見つめ、計画を話した。


「まず、アリア、君には足を滑らせてケガをしたメグに成りすましてもらう。足や腕に包帯を巻けば、兵士の目をだますことができるはずだ。国境を越えるまで、痛みに耐えるふりをするんだよ」

アリアは覚悟を決めた表情で頷いた。


「それから、テリーさん」

チョビはテリーに視線を向けた。


「あなたも一緒にカイ団長たちと同行してください。あなたが側にいるとアリアは安心するでしょうから」


「了解だ。でも、俺がいなくなったことがばれたら、あの死体も疑われるかもしれない」


「…そうですね。でもそれが判明するのは少なくとも明日以降でしょう。ロバートたちは今日の夜明け前に出発します。その間この国を脱出すればこの計画は成功です」


「わかった。しっかりとアリアを守るよ」テリーは大きく頷いた。


エミカはその様子を見つめながら、ふと寂しげに微笑んだ。

「アリア。せっかく会えたのに、すぐにお別れなんて…」

彼女の声には、別れの悲しみが滲んでいた。


「アリア、急いで着替えを」とチョビは指示を出しながら、あわただしく動き回った。

アリアはその指示に従い、カイ団長の妻リサに手伝われながら、速やかに着替えを進めた。


カイ団長が持ってきた服は、シンプルで目立たない色合いのものだった。

リサが慎重にアリアの髪を束ねながら、「これでメグと同じよ」と優しく声をかけた。


「ありがとう…」アリアは感謝の気持ちを込めて、彼女たちに小さく微笑んだ。




「アリアちょっと」


エミカがアリアを別の部屋に呼んだ。

そこには包帯が準備されていた。


「さぁ、座って。足に巻くわよ」

右足を出して、と言ってアリアの足に包帯を巻き始めた。


「身長は伸びたようだけれど、やつれたわね。肌も真っ白じゃない」


「母さん…」


何度も胸の中で繰り返してきた思いが、とうとう口からこぼれ出た。

「母さん、私…逃げたくない。本当は煙島に帰りたい」


「私も、あなたと一緒に煙島に帰りたいわ」


エミカは優しくアリアの頬に手を添え、その目を見つめ返した。

「あなたの無実を証明するためには、まず自由を手に入れることが必要だと思うの。そして、そのためには一時的にでもこの国を離れるしかないのよ」


エミカはアリアの左腕を包帯で巻き始めた。

「絶対また煙島に帰れる日が来るわ。モコだって待ってる」


「モコ!」アリアの心に、ヤマネコのモコとの思い出が蘇る。

煙島にいた時、唯一の友達だったモコ。最後にモコが言った言葉が今も胸に残っている。


アリアの頭の中に、煙島の灯台でモコと遊んだ日々が浮かんできた。


父の事件があった日、遠くに王様の船が見えたあの光景が脳裏に焼き付いている。


確かめるのは今しかない。


「さぁ、できたわ」

エミカがアリアを見てほほ笑んだ。


「準備できたか?」

チョビが声をかけてきた。



「チョビ兄さん、母さん、ちょっと話があるの」

アリアは決意した。


「なんだ?時間がないぞ」


「お願い、会えなくなる前に話したいの」

そう言ってアリアは部屋の扉を閉めた。



「私、本当の話をするわ。だから二人も本当の話をしてほしい」

アリアは二人に向かって言った。

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